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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
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夏休みは忙しい(民族大移動?)2

「つまり、魔法袋じゃなくて、ユニークスキルってこと?」

 ロザリアが興奮気味に言った。

「まあそういうことだな」

「なんだ、もっと早く言えばいいのに」

 ロメオ君はまったく気にしていなかった。

 そりゃ、ロメオ君やロザリアだけならとっくに告白してたさ。でもな……

「こーんなおっきな袋、なくなった」

 両替した魔石の入った袋を消した件をオクタヴィアは嬉々として説明している。

 両手をどんなに広げても、エミリーの買い物袋にも満たない大きさだけどな。

 結局、『楽園』の知識の泉としての機能は教えなかった。あくまで物運び用の便利スキルということにしておいた。当然アシャン老のユニークスキルの亜流であることも伏せておいた。

 ばれたらそれこそ一大事だ。

 

「実はリオナ、欲しかった木があるのです。南国のバナーナの木なのです。幼い頃よく食べたのです。一本抜いてきて欲しいのです」

「わたしは壁一面のクローゼットが欲しいです。最近服が増えてしまって」

 ロメオ君と顔を見合わせ、揃って首を捻った。ロザリアの服は神学校の制服みたいな服しか見たことないんだが。

「オクタヴィア、ホタテ箱買い、箱買いする!」

 ホタテが箱で売られてたらな。

「ナーナ、ナーナナ、ナーナ」

 野菜畑が欲しい? 

 ヘモジ、そういうことではなくてだな……

「何か隠してるとは思ってたけど」

 ナガレがアイシャさんを見た。

「悪かった」

「いや、ユニークスキルを幾つも持ってたら、やばいもんね。隠して当然だよ」

「あんたたち分かってるわよね。ばらしたら、エルリン逮捕されちゃうかも知れないんだからね!」

 オクタヴィアとヘモジはナガレの脅しに青ざめた。

 逮捕はされないだろうが、『災害認定』は付いてくるかもな。

「ナーナ」

 野菜畑いらない? いや、別にいいけど。空き地一杯あるから。

「絶対内緒!」

「いい心がけだ。日頃からそうあってほしいものだな。この家は兎角秘密が多いのだからな」

 アイシャさんの言葉に猫は凍った。

「とりあえず、対外的にばれたときは魔法袋ってことで。いいな?」

 全員頷いた。猫は何度も頷いた。


 その夜、これまでの経緯をいろいろ聞かれた。何をどうやって、どんな物を、自分たちをだまくらかして運んだのかとか。久しぶりに居間でみんなで輪になって騒いだ。

 こんな夜もたまにはいいものだが、猫が一匹、憔悴しきっていた。


 翌日、珍しい客が町に訪れた。マリアベーラ様とジョルジュ殿下である。

 睡眠不足でボーッとしていたところに呼び出しを食らった。

「結婚式?」

「そうよ。一年と二月遅れだけど、空中庭園で予定通り執り行うことに決定したわ」

「おめでとうございます!」

 このふたりはいろいろあって一年近く機会をのがしてきた。ラヴァルやらチッチやら大公の弟やらが邪魔しまくった挙げ句、南部の禁止区域で火山噴火のおまけまで付いた。

「このままじゃ、いつになってもできそうにないのでね。今回は何があっても執り行うつもりだ」

 ジョルジュ殿下も今回は待ったなしである。国の前面に立つのにいつまでも伴侶が許嫁のままでは締まらないからな。

「今日は式場予定の空中庭園の視察のついでにね、いろいろ王国側と打ち合わせをしておこうと思ってね」

 自足式ゲートがあるからな。空中庭園まで来れば王都でも何処でも行ける。

「いつですか?」

「この町の式典の後にしようかと思ってるのよ。列席する客人もその方が都合がいいでしょうからね」

 そう言われて招待状を受け取った。

「僕たちが参加しても?」

「いいの、いいの。王国側が拒否るなら、ミコーレ側の客人として迎えるから。ミコーレの今の発展があるのは、あなたたちのおかげなんだから。あ、そうそう、正装代わりに例の装備を用意しておいたから、後で受け取っておいて頂戴」

 例の装備というのはドラゴンの白い鎧か。

「全員列席していいんですか?」

「さすがに式は国賓クラスの貴族やお偉いさんだけになるけど。披露宴にはあの子たち全員を招待するわよ。白い鎧でビシッと着飾って来て頂戴」

「さぞ受けるだろうな」

「こちらとしてもミコーレ製のドラゴンの鎧のデモンストレーションができて、一石二鳥よ」

 相変わらずただでは転ばんか。

 これから面倒な席順やら、ややこしい取決めをするからと言われて、早々に追い出された。


 館の門を出ると空を見上げた。

 まだ昼には早いな…… 半端に時間が空いてしまった。

 ん?

 見慣れない異国の装束を着た奴が館の様子を物陰からうかがっていた。ふたりの護衛かなと一瞬思ったが、この隠密性のなさは違うなと一発で分かった。

「うわっ!」

 腕を引っ張られた。

「静かにしろ!」

 サリーさんたち守備隊の人たちが、建物の影に隠れていた。

「お前の知り合いか?」

「違いますけど」

「すまなかった。行ってくれ」

 大変だな。朝っぱらから。うちの連中にも警戒させるか。

「奴が屋敷に入るようなら拘束するぞ」

 颯爽と物陰に消えた。

 どこの国の奴だ? またふたりの結婚を妨害しようとしてるんじゃないだろうな。

 僕は広範囲に索敵を入れた、広く、薄くだ。気付かれてサリーさんたちの仕事を妨害してしまってはいけない。

 一人か? いや、屋敷の裏手に数人いるな。殺気はなさそうだが。あの程度なら、サリーさんが見逃すはずないか。

 僕はいつもの最短ルートを歩いて村に向かった。そして長老に確認した。

 すると「昨日からいるぞ」という話になった。泊まってる宿屋まで突き止めていた。

「何してるんだ?」

「物騒な連中ではなさそうじゃぞ」

 こっちが神経質になる必要はあるまいとのことだった。とは言え、祭り前なので、村人たちもいつも以上に気を使っている様子だった。


 家に帰るともぬけの殻だった。

「みんなは?」

「お出かけになられましたよ」

 エミリーが宿題をしながら言った。

「どこ行ったのかな?」

「散歩だそうですよ」

 散歩ね。連中もあざといな。

 僕は自分が使っていた語学辞書をエミリーに貸し出した。書庫を遠慮なく有効利用するようにと言っておいた。


 しばらくするとゾロゾロと全員戻って来た。

「お昼なのです」

「どこ行ってたんだ?」

「不審者を追い掛けてた。サリー、捕まえた」

「やっぱり捕まったのか」

「でも、あれは陽動」

「本命はお城の裏手から侵入しようとしてたです」

「でも、結界に阻まれて退散しおったわ」

「何者でしょうね」

「大したことなさそうだったぞ」

「あれどこの衣装だか分かります?」

「砂漠の向こうっぽかったけど」

「あんな民族衣装着て、暗殺はないわね」

 あのふたりの熱烈なファンとか?


 しばらくするとサリーさんが我が家にやって来た。

「すまんな。仕事ができた」

 来るんじゃないかと思ってました。


 それは命がけの陳情であったらしい。事情聴取したところ、彼らがやって来たのは旧アシャール公国の南、コートルーからであった。彼らはそこの少数民族であるらしかった。

「この時期に南に行けと?」

 建設記念日まで一月を切ったこの時期に? 否、それ以前にパスカル君たちを出迎えないといけない。

「強行日程だな」

「何しに行くですか?」

「そもそも船がないんじゃ?」

「ヴァレンティーナ様の船は結婚式の演出で使う用があって、着飾っていて動かせないんだ。いまお前たちの船を急いで整備させているところだ。駄目なら二番艇を借りる」

「何があったんです?」

「それがな……」


「民族大移動?」

「コートルーの更に南から大量の流民が入ってきたそうだ。コートルーは今、一団の追い出しに掛かってるらしい。その流れでアシャールとミコーレにも大量に入ってくるらしい」

「移動の原因は?」

「魔物が溢れたらしい。国が幾つか飲み込まれたそうだ」

「嘘でしょ?」

「それを確かめに行く。下手をすると結婚式がまた中止になるかも知れない」

 ほんとにふたりは何かに呪われてるんじゃないのか?

「でも、なんでミコーレではなくて、こっちに陳情が来たんです?」

「勿論ミコーレにも行ってる。だが、この手のことは皇太子に陳情するのが一番だと考えていたらしい」

「殿下も大変だな」

「今やミコーレの次代の王だからな」

「とりあえず、船の様子を見てきてくれ。今回同行するのはわたしだけだ」

「了解」

 食事を済ませると、僕はヘモジを連れて工房に向かった。


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