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青嵐到来8

「嗚呼ッ……!」

「ナーナーッ!」

 ドラゴンゾンビのもたげた首が崩れた。

 ふたりの召喚獣は膝を落とした。

 僕は呆然と立ち尽くした。

「召喚獣だったのか?」

 火蟻が突然、燃え上がった。

「リオナッ!」

 ヴァレンティーナ様が叫んだ。

 ひとり、スリングで遠距離攻撃するため離れていたリオナが必死にこちらに走ってくる。

 何が起きた?

 エンリエッタさんが盾を構え、その後ろに姉さんとヴァレンティーナ様が滑り込んだ。

 ヴァレンティーナ様たちはそのまま動けず、その場にしゃがみ込んだ。姉さんが結界を重ねて凌いでいる。

 リオナの後方にいた火蟻たちに次々火が付いた。

 暴風がこちらにも押し寄せた。

 熱波だった。周囲の景色が水気を失い、干からびていくのが分かった。

 オクタヴィアは使役していた火蟻を堤防代わりにリオナの側面に集めた。

 離れたこの場所の温度も容赦なく上がっていく。中央の温度はいかばかりか。蜃気楼が見え始めた。

 リオナを守る火蟻は熱には強いが身は軽い。焼かれる前に次々暴風に吹き飛ばされていく。

 暴風が身の軽いリオナの身体をも掬い上げようとするのをリオナは必死に身を低くして耐える。が、今にも吹き飛ばされそうだ。

 助けないと! 熱波が来る! でも今、僕が動けば、ロザリアたちが。

 ロメオ君とヘモジが盾を構えて僕の前に滑り込んだ。

「行って! ここは僕たち――」

「ナーナ!」

 ふたりの言葉を最後まで聞かずに僕は飛び出した。

 間に合うか? リオナのすぐ後方の土の色が変わった。リオナの身体ももう半分宙に浮いている。

「頼む!」

 僕は転移した。

「リオナッ!」

 吹き飛ばされてくるリオナの前に出た。

「エルリン!」

 僕は結界を広げた。暴風熱波から解放されたリオナが地面に転がった。

 転がるリオナの頭突きを鳩尾(みぞおち)に食らいながらも、なんとか受け止めた。

「転移するぞ」

 僕はリオナを抱えて消えた。

 そしてロメオ君たちが築いている障壁の後ろに出た。

「目が回ったです」と言いながらリオナは兜を被ったまま頭を撫でる。こっちは鎧のおかげで無傷だ。

 急いでみんなと合流して、結界を代わる。

「ナーナ!」

 魔力が限界か? 僕は急いで万能薬を飲み干した。タイミングを同じくしてロメオ君も瓶を空けた。

「姉さんたちは?」

 突然、熱波が止んだ。

 アイシャさんが仁王立ちしていた。衝撃波で熱波を押し返したのだ。

 姉さんたちが駆け戻ってくる。僕たちは急いで迎えに行く。

 エンリエッタさんの盾はもうボロボロだった。盾を装備した腕も火傷していたので、完全回復薬を急いで振りかけた。

『魔力を…… 魔力をよこせ……』

 そこにいたのはドラゴンゾンビではなかった。黒い竜だった。

「あれが召喚獣……」

「召喚獣?」

 ヴァレンティーナ様たちは敵の正体に今になって驚いた。

 確かにそれは天然の魔物にはないフォルムをしていた。

「暗黒竜……」

 ナガレが呟いた。

 今の攻撃は『黒炎』、地獄の業火張りの固有スキルだ。

『死にたくない……』

 今の一撃で暗黒竜の魔力はほぼ空になっていた。

 ドラゴンゾンビの霧ほどではないが魔力が徐々に吸われていくのが分かる。これも暗黒竜のスキルの一つらしい。

 生き残った火蟻たちも近い者からバタバタと倒れていく。

「なんとかしないと」

「やるしかあるまい。でないと」

 アイシャさんが干からびた火蟻を見つめた。

 確かに、ここにきて、魔力の消費が尋常ではない。

 リオナだけではなく全員が、汗だか冷や汗だかを額にかきながら、万能薬を舐め始めた。

「ナーナ!」

 ヘモジが叫んだ。

「もう止めて!」

 ナガレも叫んだ。

「あなたの主人はもういないのよ!」

『嘘だぁああああ』

 念話と共に吠えた。

「人間は長くは生きられないのは貴方も知っていることでしょう!」

『僕のご主人は違う! ご主人は英雄だったんだ。僕と一緒に世界中を飛び回って、どんな強い敵とだって戦って勝ち抜いてきたんだ! ご主人は待ってろって言った! ここで待ってろって! 待ってろって言ったんだ! だから、僕は待つんだ! だから死ぬわけにはいかないんだぁああああッ!』

 また熱波が襲いかかってきた。が、前ほどの威力はなかった。

「ナーナ」

「『自分が一番分かってるだろう?』」オクタヴィアが僕たち向けに通訳する。

『うるさい!』

「駄々をこねても駄目よ。もう帰ってはこないんだから」

『いやだ! ご主人を待つんだ』

「あなたのご主人はもう死んでるのよ! 帰ってこないの!」

『帰って来るッ!』

「帰ってこないッ! 分かりなさいよッ!」

「ナーナ」

「『相手をする』って」

「好きにしろ」

「ナーナ」

「礼はいいよ。あいつを救ってやりな」

 ヘモジは大きく頷いた。そしてミョルニルを腰から引き抜くと、天に向けた。

「ナーナナー」

 ヘモジは巨大化した。

 ファビオラは目を見開きながら大きくなったヘモジを見上げた。

 それでも相手の半分ほどの大きさなのだが。

 ヘモジは走った。

 暗黒竜が羽ばたいて風を起こして抵抗しても、ものともせずに。大きな足裏が地面をしっかり掴んでいる。そしてミョルニルを目一杯振り上げて振り下ろした。

 一瞬、障壁が光った。だが、その障壁は容易く砕けた。

 暗黒竜はもんどり打って倒れた。埃が豪快に舞い上がった。

 僕の例のドラゴン戦用のスキルがヘモジの攻撃にも影響しているのか?

 暗黒竜の尻尾がヘモジを引き倒す。その反動で起き上がってヘモジの腕に牙を立てようとする。が、ヘモジはその顔面に拳を叩き込んだ。

 暗黒竜が絶叫して倒れ込んだ。


「今のうちに探して!」

 ナガレが僕たちに言った。

「そうか、召喚カード!」

「どこかにある?」

「どこに?」

「考えられるのは、あいつの相棒だった奴の元だ」

「それって見つけられるのか? この村にはいないんじゃ」

「見つけるのよ!」

「そうか! 奴は魔力の補充を召喚カードからしているはずなんだよね? だったら、今僕たちから吸収している魔力の流れを追えば」

「そこにある!」

 全員が声を揃えた。さすがロメオ君!

 僕が言うより早く、ナガレが走り出した。

「この上だ!」

 反応は僕たちが降りてきた穴の上に伸びていた。

「行ってくるよ」

 ロメオ君は盾をボードに替え、駆けるナガレを拾い上げると、一緒に斜面を豪快に上っていった。

 ドオオオオン。ヘモジが一撃を加えていた。

『どこへ行く! 逃がさないぞ』

 ガアァンッ。

 ロメオ君にちょっかい出そうとしたので、ヘモジが思い切り殴った。

「ナーナ」

「『余所見するな』だって」

 オクタヴィアが呆れながら通訳してくれる。

「今あなたのご主人様を探しに行ったのよ!」

 ロザリアが叫んだ。

 その声に暗黒竜は襲いかかるのを止めた。

『ご主人、いるの?』

 暗黒竜はヘモジを振り払うと羽ばたいた。乾いてできた砂塵を風が巻き上げた。

 埃を払う間に、暗黒竜は消えた。

 僕はヘモジを再召喚した。

「ナーナナー」

 なんかすっきりしていた。

 お前の方がストレス発散してたんじゃないのか?

「戻るぞ」

 ここを上るのか?

 全員が僕の肩に手を置いた。

「転移しろってことね」

 僕は足場を確保しながら何回かに分けて上を目指した。一度できあがったルートなので、行き止まるということはなかった。


 僕たちは随分遅れて村に戻った。

「ロメオ君たちはどこだ?」

「まさか殺されたりしてないだろうな?」

「姉さん…… ナガレがいるから大丈夫だよ」

「あの子強そうに見えないけど」

「あいつの方が強い。いたぞ」

 アイシャさんが行き先を探り当てた。僕たちは細い路地を駆け抜けた。


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