青嵐到来7
みんなの盾が反応する前に僕の結界とロザリアの聖なる障壁が攻撃を防いだ。
魔石は節約するに限る。少々きついが、敵ももはや万全ではない。
他のチームなら万能薬の方をセーブするだろうが、生憎うちは違う。ヘモジも頑張って盾を構えて身を挺するが、今回は空振りだ。
「ナーナ」
盾が壊れなくてほっとしていた。
僕とロザリアは次の一撃に備えて、すぐに魔力の補充をする。
火蟻がまた別の場所に穴を空け、侵攻を開始した。
ブレスが連射できないと知って、このタイミングを待っていたかのようである。相変わらずこちらは眼中にないようだった。
「それにしても随分深い位置に穴を空けたな」
「元々地熱を好む蟻だ。地上近くは水脈やら魔物除けがあって出るに出られんだろうしな」
僕は急ぎ、途切れた先の通路に転移ゲートを開けた。
盾持ちを先頭に全員が雪崩を打ってゲートを潜った。全員が無事渡ったことを確認して、僕もゲートを潜った。
「あの封印石が水のなかにあったのって、火蟻対策だったのかもしれないわね」
ロザリアが友人に話し掛けるが、友人は返す言葉もないようだった。
ドラゴンのブレスを受けて気が動転しているようで、すっかり青ざめてこちらを見ている。
「僕が何か?」
「ゲートもないのに転移したら、普通驚くのです」
望遠鏡片手に警戒に当たっていたリオナが言った。
「え? こっち?」
「敵が見えないのです。あの山を吹き飛ばして欲しいのです」
話をそらされた。
火蟻の一団が散開しつつ、ドラゴンの巣穴に突進する。
そして容赦なくまたブレスが吐かれた。火蟻の努力は今回も無駄になった。
斜面が抉られて、ルートがまた一つ消えた。
「もうちょっかい掛けるなよ」
火蟻にクレームを入れながら僕たちは進む道を探した。
姉さんが螺旋を一周ショートカットする道を壁に掘った。相変わらず手慣れたものである。岩が粘土のようだった。
表面の白い土と混ざり合って面白いまだら色の通路ができあがった。
ブレス攻撃を警戒しながら狭い通路を下る。
火蟻のせいで周回するルートは破壊されてしまった。もう一周できれば底からせり出した山の峰に転移できそうだったのだが。そうすればそれを盾にして死角に回り込めた。ブレスを回避しながら道程を大幅に短縮できたはずだ。
「駄目だ」
下へ降りるちょうどいいルートがなくなった。
姉さんが再び万能薬を啜りながら壁をくり抜き道を作った。
「いいこと思い付いた!」
オクタヴィアが何か閃いたようだ。
「次、来たらチャンス」
小さな肉球を握りしめた。
姉さんの作った斜面を順番に滑り降りる。転移したい場所から離れていくが仕様がない。垂直に落ちるわけにはいかないんだから。
こちらが迂回している間に地下に霧が撒かれた。火蟻対策だと思われる。
そして火蟻がまた懲りもせずやってきた。なんとしてもあの霧を防ぎたいらしい。確かに魔物と言えど、生ある者にはあれは毒でしかない。
火蟻の大群が底の中心目指して特攻を掛ける。
今なら加勢してやれるだろう。
『聖なる光・改(仮)』を撃ち込んでやった。
霧はきれいに四散した。さすがのドラゴンも動揺したようだった。地面が揺れるのを感じた。
「さっさと這い出してこい。頭を撃ち抜いてやる!」
「お前、こっちの目的を忘れたか! 我らが一太刀浴びせるまでは戦闘を終らせて貰っては困るぞ!」
「リオナも殴るのです」
怒られた。
僕たちは恐らく敵の死角に入っているのだろう。敵は周囲に霧を吐く以外何もしてこなかった。一方蟻たちは苦戦していた。ブレスの攻撃を今回ももろに受けていた。が、三度目は少し賢くなっていた。二手に分れ、攻撃を受けていない方が敵の死角、恐らく洞穴の口が向いていない方角に一気に移動を開始したのだ。
だがこれは僕たちにとっては余りよい兆候ではない。こちらの進行ルートと重なるのである。まだ大分距離はあるが、火蟻がこちらと共闘するとも思えない。ここは相打ちが望ましいのだが、とうとうドラゴンゾンビの隠れている山に取り付く者が現れた。そして山の壁を掘り始めた。
「どうします?」
いざこざが治まるのを待つべきか。
「取り敢えずこちらもできるだけ接近しましょう。敵がどう出るか見ておくのも悪くはないわ」
多くの犠牲を出しながらもわずかずつではあるが、取り付く火蟻が増えていった。
そして取り付いた者たちはひたすら穴を掘る。
「なるほどあの場所に侵入ルートを作る気か」
今までは死告蛇や取り巻きがいたせいで叶わなかったのだろう。
「どれくらいで穴が貫通するんだろうな」
「余り待ってはいられないが」
霧が濃くなる度に浄化しながら接近する。火蟻に気付かれないギリギリの距離で足を止め、様子を見た。
火蟻の特攻が止んだ。その一方で死角に回り込んだ連中はがむしゃらに働いている。地面に穴を掘る担当と山の側壁を穿つ担当とに別れているようだ。
「ゾンビドラゴンは何してるんだ?」
いくら鈍重とはいえ、洞穴から頭を出してブレス一発で方が付くじゃないか。
「まとめて冥土に送るつもりだろう」
霧が吐き出された。火蟻は必死に霧から逃れる。
「開通した!」
地面を掘っていた連中の穴から増援がわんさか、溢れ出した。
「ちょっと! 何、あの数」
「迷宮を彷彿させるな」
増援に気を良くした連中は山を削り始めた。
僕たちは驚くべき光景を見ることになった。洞穴から霧とは違う煙が出てきたのだ。そして絶叫が洞穴のなかに響き渡ったのだった。
山が破裂した。
火蟻が瓦礫と共に飛び散った。
空気が漏れる音をさせながら、ドラゴンゾンビは咆哮を上げた。
自傷することも構わずブレスが撒き散らされ、火蟻が瞬く間に減っていった。
それは大きなドラゴンだった。もはや動くこともままならないのは見て分かった。羽根は大本から折れて存在せず、足も腐って原形をとどめていなかった。表皮は浄化によって半分きれいに削ぎ落とされ強靱な骨が露出していた。
そして今それらになんと火が付いたのである。火蟻の英雄たちはブレスの餌食になってもうこの世にいない。だが後続は次々、特攻を仕掛け火を吐いていく。動けない巨体は為す術はなかった。霧を吐いたところで火は消えない。ブレスももはや枯渇気味だ。
「見てていいの?」
僕は姉に尋ねた。このままだと一太刀浴びせる前に終ってしまいそうだったから。
「リオナも行くのです」
笛が吹かれた。
オクタヴィアだった。
「任せて」
「行くぞ」
全員が駆け出した。
オクタヴィアに使役された火蟻たちも一緒に駆け出した。
「道、作って貰おうと思った。でもいらなかった」
一生懸命駆けながら、肉球を握りしめた理由を説明した。
「こんなの無理よー」
ファビオラは泣き叫びながら、敵を討つ。
姉さんが雷撃を落とした。崩れた洞穴の瓦礫ごと、火蟻諸共吹き飛ばした。火を使えば一瞬だろうが、それでは困るので麻痺させるにとどめたようだ。
エンリエッタさんがその間にステップを繰り返して一気に接近、かろうじて身体を支えていた腐った前脚を切り落とした。
リオナのスリングが下半身を吹き飛ばした。
ゾンビは叫んだ。
『死ぬものか…… ご主人がお帰りになるまでは……』
「ナ?」
「ちょっと、これって!」
「ナーナッ!」
「エルリン、あいつを殺させないで!」
手遅れだった。
『次元断絶・無双撃』が振り下ろされた後だった。
ドラゴンゾンビの頭蓋が一刀両断され、地面に落ちた。




