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青嵐到来1

 翌朝、久しぶりに秘密基地にやって来た。もはや秘密ではない秘密基地だ。

 飛空艇は現在、ミスリル化に伴いドックから出すわけにはいかないので、振り子列車でのんびり移動してきた。アンドレア兄さんだろう。車両を利用した痕跡があった。ホームに降りて、転移ゲートから出ると裸の岩肌を残した天井の高い空間が現れた。

 僕は居住空間の底に佇みながら、周囲を見渡した。

 姉さんがやったのか、兄さんがやったのか、凄い空間ができあがっていた。

「ナー……」

 ヘモジも口を開けて、頭上を見上げている。

 居住空間は吹き抜けの三階構造。今いる最下層には転移ゲートと水草の浮いた池があった。補給物資の木箱も転がっている。

「空気もある。掃除もしてある」

 どことなく人の気配がするのだが、誰か来てるのか? プライベート確保のために各部屋には探知スキルを妨害する紋章が刻んである。

 吹き抜けに沿って螺旋を描く階段を上るとメインのリビングが現れる。

「バーカウンターだ」

 壁も床も何もかも漆喰の白で塗り固められた箱物のなかで、木材をふんだんに使ったお洒落な一角ができあがっていた。

 食堂も兼ねてるのかな?

「お酒だ…… 誰が利用してるんだ?」

 見たことのない銘柄が並んでいる。

 ここを知ってるのはうちの連中か、アンドレア兄さんだけだと思うんだけど。兄さんはカウンターを作ってまで酒は飲まないから。だとしたら姉さんたちだろうけど、この銘柄は違う気がする。

 上階には個室が並んでいた。

 通路に備え付けられた本棚には無造作に放り込まれた書籍が。コーナーのテーブルには雑誌。飲みかけのグラス。脱ぎ散らかした洋服。

 女?

 姉さん?

「何者だッ!」

「ナーナ!」

 ヘモジが部屋に頭を突っ込んだ瞬間、吹き飛ばされた。

「ナーナ!」

「敵?」

 吹き抜けから落ちるところをギリギリこらえたヘモジは盾を構え、ミョルニルを抜いた。

「どこから侵入した、魔物め!」

「それはこっちの台詞だ!」

 僕は部屋から剣を構えて出てきた女の剣を跳ね上げる。

 浮き足だった女にヘモジがミョルニルを振り下ろす。

「そこまでだ!」

 建物中に野太い声が反響した。

 一階のゲートに見慣れた男の姿があった。

「エルマン兄さん?」

 すっかり私服でくつろいだ姿だった。手にはシャンパングラスが二つ握られていた。

 てことはこちらの女性はお噂の…… 女隊長殿?

「まさか、駆け落ち?」

「馬鹿言うな。ただの非番だ。王都じゃ、俺たちは何かと目立つからな。利用させて貰ってる」

「兄貴が教えたの?」

「いい隠れ家はないかと聞いたら教えてくれたんだ。さすがに足元にドラゴンを見つけたときには笑っちまったけどな」

「姉さんにも話し通ってるの?」

「最初に来たとき警報に引っかかっちまってな。危うく凍らされるところだったぜ。それより紹介しよう。以前話していたパトリツィアだ。パティ、こいつは弟のエルネスト。それに……」

「召喚獣のヘモジです」

「ナーナ」

 ミョルニルを腰に納めた。

「初めまして。噂通りいい腕してるわね」

「噂ですか?」

「王都でまたやらかしたんだろ? 悉く西方送りにしたって話じゃないか」

「あれは陛下の悪ふざけに付き合わされただけです。僕がやらなくたって、そっちの師団長がやってましたよ。それで?」

「なんだ?」

「ここの住み心地は?」

「広い窓があれば文句ないんだが」

「気圧の関係でこれ以上は無理ですよ。それで外に出ました?」

「ああ、散歩コースにはちょうどよかった」

「散歩って…… 何かいました?」

「ああ、結構金目になる奴がいたぜ。おかげで少し稼がせて貰った」

「解体屋は使えました?」

「いや、ここからだとどこにも繋がらん。現場で解体するしかなかった。一応、兄貴やレジーナにも言われてたからな、魔物の生息域を記録しておいたぞ。そこの壁だ」

 壁に地図が貼られていた。飛空艇で集めた周辺地図のその先の記録まであった。

 どこまで行ってんだよ。

「お前は何しに来たんだ?」

「ここは僕の別荘だよ」

「すまん忘れてた」

 持ってきたグラスにシャンパンを注ぎながら笑った。

「今日は依頼の品を狩りに来ただけ。そうだ、兄さん、勝手に下のドラゴン狩らないでよね」

「狩ったって持ち帰れんだろ?」

「持ち帰れても駄目だから。商売絡んでるんだから、全滅しないように管理してるんだからね」

「どうやったら絶滅するんだよ」

 僕とヘモジは更に上に向かった。

「じゃ、ごゆっくり、パティさん。兄をよろしく。こっちは一匹倒したら勝手に帰りますんで」

 三階から上に出ると飛空艇用のドックがあった。二隻ぐらいは留められる広さがあった。窓も何もなかった。自動吸収型の光の魔石が魔力を吸収して、徐々に周囲を照らし出した。

 一気に空気が薄くなったな。

 屋上のハッチから外に出た。

「相変わらず、絶景だな」

 全方位パノラマだ。

「さて、やるか」

「ナーナ」

 はぐれた一匹を探す。

 そして岩石堕としだ! 土魔法で空中に岩石を形成した。ちょっと堅めで。

 僕は『楽園』からボードを出して、足裏を固定するとヘモジといっしょに岩の真上に転移した。岩は既に落下を開始していた。ヘモジもミョルニルでとどめの一撃を加えるられる態勢を取っていた。

 僕は命中するタイミングを見計らって、地上に転移した。昏倒した奴にヘモジと同時に攻撃を加えるために。

 アースドラゴンは気付かぬまま直撃を受けた。

「やった!」

 第一段階成功だ!

 僕はライフルを構える手に力を込める。

 が、岩は崩れることなくそのまま頭を踏みつぶした。

「ナーナナー」

 敵の頭蓋を粉砕すべく打ち下ろしたヘモジの一撃は代わりに岩を砕いた。

 そして一回転してアースドラゴンの潰れた頭の上に降り立った。

「…… あれ?」

「ナナ?」

 ヘモジが叉の下から後ろを覗くような格好で、足元を覗き込んだ。

 倒しちゃったの?

 結界は? 展開しなかったのか? もしかして僕の『ドラゴンを殺せしもの』のスキルはこんな攻撃にも作用するのか? まさか本当に中和したのか? こいつの反射神経が同族のなかで一番遅いとかじゃなくって?

 まさか落石一発でドラゴンが昇天だなんて…… 

「運がよかったな、ヘモジ」

「ナーナー」

 たまたま運がよかっただけだ。きっとそうだ。僕は急いで『楽園』に亡骸を放り込んだ。

「取り敢えずアビークを目指そう、そこで獲物を回収して貰おう。さすがにドラゴンを丸ごとミコーレに持ち込むわけにはいかないからな。前回同様、手近な場所に放り出した物を回収して貰おう。それとも問答無用でアビークの解体屋に転送してしまおうか?

 いや、これから何度もあることだし『ビアンコ商会』のミコーレ支部に先に話を通しておくか、伝手が何かあるかも知れない」

 いつでも取り出せるので、アビークに着き次第、先に段取りを決めにミコーレの支部に転移することにした。

 フライングボードで空の旅を楽しみながら監視砦を目指した。

 高度が取れないのでなるべく尾根伝いに飛んだ。そして監視砦が目に入ると進路を変え、麓のアビークへ。

「結構遠いな」

 飛空艇ではすぐだったのに。やはりボードでは結構な距離になった。

 振り子列車でスプレコーンに戻り、途中、馬車で越境し、ミコーレに入るよりは遙かに早かったが。

 僕たちはアビークの町に入らず、そのままミコーレに跳んだ。

『ビアンコ商会』のミコーレ支部に飛び込むとすぐに取引のあるアビークの解体屋を紹介して貰った。

 そこで諸々の契約を結ぶと、僕は獲物を回収してくると言って、転移ゲートを潜る振りをして『ショートカット』した。そして人目のないところでドラゴンの亡骸を出すと解体屋の名札を付けて送り出した。

 解体屋に戻ると、ミコーレの『ビアンコ商会』の従業員が僕の帰りを待っていた。

 僕は売買契約書の書類にサインするとミコーレに跳んだ。

 リオナたちのために繁華街でケバブ料理を買い込むと僕とヘモジは帰路に就いた。

 やはり、飛空艇がないと砂漠の越境はきつい。フェミナから空中庭園までの区間、駅馬車に揺られるのがなんとも不便だった。

 スプレコーンに着くと『ビアンコ商会』に報告を入れておいた。


 帰宅すると夕方だというのにロザリアが旅支度をしていた。

「どうしたんだ?」

「すいません、実家に行ってきます。ファビオラが話したいことがあるらしくて」

 そう言ってギルドの通信文をテーブルに置いた。

「ファビオラ? 確か同級生の?」

「詳しいことは後ほど。行って参ります」

 そう言ってそそくさと転移部屋から出て行った。

「ファビオラ……」

 トラブルの予感。


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