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エルーダ迷宮侵攻中(インターバル・ミスリル狩り)20

 戦闘開始と共にヘモジは自分の魔石を床に転がし、接近に備えてミョルニルを握った。

 元々夜目の利くオクタヴィアは眩しいのだろう、魔石を頭に載せて、陣地を照らした。

 一番手前のブロックの四体の頭を順に射貫いて、簡単に片付ける。

 手前の索敵領域がフリーになったので、次のブロックの敵はより遠距離から狙うことができた。

 自由に動ける範囲が広がるごとに、オクタヴィアはそわそわしだす。

 昨日のことが忘れられないのだろう。ヘモジと会話しながら、柱の裏手に出ないように、慎重に立ち回る。

 次第に慣れ始めると持ち前のすばしっこさを発揮して、積極的にアイテムの回収を始めた。暗闇に魔石の光があっちにふらふら、こっちにふらふら。

「運べない」

 片側の石像が片付けたとき、オクタヴィアが闇のなかから姿を現わした。

 金塊だった。

 さすがにこれは猫の手では回収袋に入れられない。僕は有無を言わさず、『楽園』に放り込んだ。大分重くなった宝石の入った袋は担いで、先のブロックまで運んだ。

「ナーナ」

「残り二つ、まだ残ってる」

 オクタヴィアは持てないで残してきた残りの回収をヘモジに頼んだ。

 ヘモジもオクタヴィアも宝石を運びながら楽しそうにしている。

 光の魔石で照らされた幻想的な景色を楽しみながら、駆け回っている。たまにお互いの影に驚いては笑っていた。

 ほぼ同じ時間を掛けて、向かい側を掃討し、ゆっくり回収を済ませると僕たちはその場を後にした。

「早すぎたな」

 螺旋階段まで戻ってきて言った。

「ナーナ」

 ふたりも頷いた。

 外に出ると雲行きが怪しくなってきたので、僕たちは急ぎエルーダ村を後にした。


 昼食の時間には間に合ったが、家には帰らず、石橋のポータルからそのまま外堀に出て、北の広場のはずれ、町を取り囲む河川に流れ込む細い支流に釣り糸を垂れた。

 リュックのなかのサバイバルキットのなかから糸と針と疑似餌を取り出してヘモジに渡した。

 ヘモジは木の枝を一本取ってきて、枝の先に器用に縛り付けると針を川の流れに投じた。

 チョビも出してやるか。

 川に溺れない程度の大きさで召喚してやった。

 すると早速、チョビは水のなかに入って大きな鋏で魚を鷲掴みにした。その魚をオクタヴィアの方に投げると、また川のなかに目を移した。オクタヴィアは魚を抱えてこちらに戻ってくる。

 僕は水際に急いで生け簀を作ると、オクタヴィアはそこに魚を放り込んだ。

 ヘモジも一匹釣り上げた。

 こりゃ、大量の予感だ。

 僕はすぐに火を用意した。石と薪をかき集め囲炉裏を作り、魚に塩を擦り付けて、串を通して火に掛けた。

 ヘモジもチョビも容赦なかった。

 あっという間に十匹ほど溜まったので、食べる方に専念させた。

 チョビは強火が苦手なようで、空になった生け簀のなかに自身の甲羅を浸しながら、生のまま魚を貪った。

 ヘモジは脂がふつふつと滴れ落ちる塩魚の串焼きを頭からがぶりと頬張り、オクタヴィアは僕が皿に身をほぐしてやった、塩気のないところを皿を舐めるように最後の一欠片までパクついた。

 僕は大きなのを一匹食べたらお腹がいっぱいになってしまった。

 半分余ってしまった。

 焼かずにおけばよかったか?

 すると匂いを嗅ぎ付けた巡回兵たちがやって来た。

「お、いい匂いがすると思ったら、若様か」

 この町の守備隊ともすっかり顔なじみだ。

「よかったらどうですか? 余ってしまったので」

「そりゃいい。一本貰おうか」

 ちょうど五人いたのできれいになくなった。

「釣れたかい?」

「ナーナ」

 チョビも頷いた。

「相変わらず変わった召喚獣だな……」

「ナーナ」

 ヘモジが抗議する。

 突然、チョビが暴れた。

 ドキリとして見ると、大きなザリガニを鋏に捕らえていた。チョビの食いかけを狙ったようだ。

「ほお、大物だな」

 守備隊の人たちが感心するほど大きな奴だった。片手じゃ持てない程でかいザリガニだ。

「おい!」

 部隊長が部下に何やら用意させ始めた。ひとりが薪を足して火を強めた。備品から鍋を取り出すと、沢の水を汲んで火に掛けた。

 ザリガニの背を折って、身を取り出すと、一番いいところを切り出してチョビに差し出した。獲った者の特権ということらしい。

 残りを万能ナイフでぶつ切りに解体し始めた。そしてそれらを鍋に豪快に放り込んだ。 

 香草と酒、塩を放り込んだ。

「野営が多いからな、常備しているんだ。町はもうすぐ目の前だからな。余った備品を使っても問題ないだろう」

 どうやら遠征の帰りだったようだ。

 僕は『楽園』のなかに放り込んでおいた大量の総菜パンを思い出した。

 二、三個リュックから取り出す振りをして、総菜のない食パンを提供した。

 汁に付けて塩気を吸ったパンが美味しいはずなのだ。

「ユニコーンから聞いたんだが」

 隊員が口を開いた。

「今年は闇蠍が多くなるらしい。足長大蜘蛛や千年大蛇を大量に去年、狩ったからな。捕食者がいなくなった分、今年は幅を利かせるらしい」

 チッチの襲撃のせいだ。森の大物をけしかけてくれたせいで、やらざるを得なかった。

「ユニコーンには受難の年かな」

 闇蠍はユニコーンの天敵だ。

「その分、俺たちが頑張ることになる」

「見えない敵は厄介ですね」

「見つけさえすれば、若様が開発した特殊弾頭で仕留められるんですけどね」

 そう言って赤い弾倉を覗かせた。

「『生命探知君』もありますよ」

「おもちゃだと言うが、ありゃ大した発明品だ」

「ネーミングを変えてくれたら最高なんだがな」

 そう言って大笑いした。

「でも、なんと言っても万能薬だ。領主様が万能薬を解禁してくれているおかげで、俺たちは闇蠍にも正面切って対峙できるんだ。でなきゃ、即死級の毒持ち相手は怖すぎるからな」

「そういや盾はまだなんですね」

「新装備のあれか? 性能は聞いてるが、その分、高価だそうだからな。そう簡単に数は揃わんよ。俺たち末端まで来るにはもう少し時間がかかる」

「ドラゴンを想定してますからね……」

「その噂は本当なのか?」

「ええ、ついこの間、うちのヘモジがファイアードラゴンのブレスを浴びてきましたよ」

 ヘモジが自慢げに腕に装備しているデフォルメした盾を見せびらかす。

「あんな小さな盾で防いだのか?」

「魔法盾ですから魔法陣が命です。でも、あのサイズが限界ですね。あれ以上小さくはできませんでした」

「充分小さいだろ…… 軽装の俺たちには願ったりだ」

「森の巡回用には、フライングボード兼用の物が支給されると思いますよ」

「若様が持ってるあれか?」

「ええ、魔力の消費は上がりますが」

「今でもボードは重宝してる。魔力の消費は心得ているよ」

「できましたよ」

 ザリガニの蒸し料理ができた。

 一口食べて、声が出た。

「うまい!」

 塩気が効いて、コクがあって、香草がまた鼻にツンと抜けて、涼やかだ。

「そうだろ? これはうちの秘伝の味付けなんだ」

「こいつの家は小料理屋だからな」

「もしかしてトレド爺さんたちがいつもお世話になってる?」

「稼がせて貰ってる」

 北門近くの宿屋街の一角にある結構大きな食堂だ。人気はトレド爺さんが行きつけにするぐらいだから、言わずもがなかだ。

 この味なら、今度みんなで行ってみようかな。

「雨が降るな」

 隊長が空を見上げた。エルーダで見た雨雲が追い付いてきたようだ。


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