エルーダ迷宮侵攻中(続インターバル)21
一回り小さく召喚し直したチョビを頭に載せたヘモジが先頭を歩く。オクタヴィアはその後ろを蛇行しながら付いていく。
工房に行き、誰も見ていないところで腹のなかのミスリルを取り出した。因みに今日の分は三個だけだが、塊は昨日より大きかった。
職員たちはチョビがいたので、勝手にチョビが運んだものと解釈してくれた。材料倉庫に放り込むべく、荷車を取りに向かった。
棟梁が飛んできた。
「またミスリルか?」
僕は笑った。
「どうする?」
どこに使うか聞いてきたので、重いパーツの代替えに優先的に当てるのはどうかと答えた。
重量の再計算やら、強度計算やらやり直さなければならないから、大掛かりなことはすぐにはできないと言われた。それよりは外装に当てたり、ラダーなどを丸ごと新調した方が全体のバランスが取り易いと言われた。
「定期的にミスリルは手に入るのか?」と聞かれたので、こちらも今すぐには無理だが、その内、定期的に入れる予定だと答えておいた。地下四十階の迷路を攻略するまではゴーレムのいる煉瓦倉庫を拠点にするわけにはいかないのだから止むを得ない。
それを聞くと棟梁は船の段階的なミスリル化に向けて、図面を引くことを約束してくれた。
「代わりと言ってはなんだが」と言って一枚の図面を見せてくれた。
「王宮から依頼が来た」
そう言ってみせられたものは、二隻の船が並んだ双胴船の図面だった。
「王国の旗艦になる船だ」
横に並んだ二つの気嚢の間に居住空間をぶら下げた、正面から見ると逆三角形をした構造の船だ。
「これって、肺幾ついるの?」
「最低で四つ。要望された装備や人員の数を考えると六つは欲しいな」
「大丈夫なの?」
「駄目だな」
「だよね」
「浮いても速度が出ない。小回りも利かない。魔物の餌食だな」
「誰が引いたの、この図面?」
「知らん。肺のことも『浮遊魔法陣』の特性も知らん奴であることは確かだな」
「どうすんの?」
「今、王宮に人を送っている。どうなるかは王様次第だな。できれば願い下げだ」
「こっちから先手を打って提案してみたら? 使えない図面よりいいんじゃない?」
「実験船よりでかい船をいきなり造れと言われてもな」
「魔力の消費量を考えると、今以上の大きさは無駄だよね」
「王様の船だからな。無駄でも構わんのだが、命の重さを考えるとな。もっと小さくして、装甲を三倍ぐらいにしたいくらいだ」
僕たちは笑った。
大きさだけの問題なら、小型飛空艇のような骨組み構造にしてはという話にもなった。用途に合わせて、セパレートできれば用途は広がるとか、いっそ、飛空艇を停泊させる空中ドックみたいな物にしたら文句は出ないんじゃないかとか。
「要は一番じゃなきゃいけないわけでしょ? でかくなって機動力がなくなるんなら、はなから機動力のいらない用途に使えば。小回りのよさは殿下たちの船に任せて」
「それで親父が納得するか?」
振り返るとガウディーノ殿下がいた。
「被災地にいたんじゃないんですか?」
「目処が立ったんで戻って来た。中央に帰る前に、船体のチェックをして貰おうと思ってな」
そう言いながら、双胴船の図面を覗いた。
「重そうだな」
「今以上の推進装置がないと、浮くのがやっとですよ」
「余り、この図面は信用しなくていいと思うぞ。親父の腰巾着が、手柄を上げたいだけだからな。俺は、エルネストの案でいいと思うぞ。先手を打ってこちらから提案するのがいいだろう」
「どこから聞いてたんですか?」
「『できれば願い下げだ』からだな」
「それは……」
棟梁が恐縮した。
「俺や兄貴が船を持ったことだし、そろそろ自分の番だと思ってることは確かだろうな。兄貴に譲ったのだって、最新型が欲しくなったからだろうしな」
「じゃあ、うちの船をベースに」
「取り巻きが乗り込むことを考えると、もう少し積載重量に余裕が欲しいな。お前の船にはクルー以外に聖騎士二十人が限界だったんだろう?」
「うちのクルーも聖騎士の鎧も軽いですからね」
「最低でも、重騎士三十人程度は乗り込ませたいな」
「前線に出る気、満々じゃないですか!」
「あの親父だぞ。俺たちを従えて先陣を切りたがるに決まってるだろ」
「だったら補助にアースドラゴンの……を二つ使って…… プラス十人。いざというときに文官たちの脱出装置になれば……」
「第二.五世代艦にチャレンジですかね」
「図面を引け、あらましが分かればいい。俺が持ち帰ってやる。そっちの図面は投げておけ。何か言ってきたら俺のせいにして構わん。で、お前の船はどうなんだ、これから?」
「軽量化とスピードアップですね。皆さんの船と違って、こちらは武装解禁して貰えませんから。逃げ回るしかないんですよね」
「武装と言っても、特殊弾頭だけだぞ。魔導士クラスの魔法使いが何人もいる船に比べれば可愛いもんだろ? どうしてもと言うなら近衛に入ればいい。お前ならいいポストを用意してくれるだろうよ」
「遠慮しときます」
「それがいい。お前の破天荒さはある意味、エルマン以上だからな」
え? 兄さん以上?
僕を見て笑った。
「棟梁、無理言ってすまんが、とりあえずこっちの船のチェックを先に頼む」
工房を後にすると、中央公園を抜けて、最短コースを進んだ。
キックペースのグラウンドでたまたま遊ぶワカバを見つけた。
「お、やってるな」
試合は三十四対三十七点で接戦を繰り広げていた。
「三十…… なんの試合だよ」
僕の呟きに「兄ちゃん、来たのか?」と、三点を追って攻撃中のベンチから、ピノが顔を覗かせた。
「どういうゲームやってんだ?」
僕はベンチの裏手に回った。
「きょうは偶数の回が得点二倍になる日なんだ」
はあ?
「最終回は五倍デーなんやて」
ワカバも高揚した笑顔を見せた。
「うちが不慣れなせいで、負けとんねん。でも最終回はうちの出番やさかい、大逆転したるねん」
ピオトがボールを高々と蹴り上げた。
「おっ! やった!」
ピノがガッツポーズ。
ピオトがセカンドベースにスライディング。
「セカンドふたり通過したから、アウトカウント、マイナス二やな」
マイナス二?
「そうだよ。五アウトでチェンジだ」
五アウト?
僕の知ってるキックベースはどこ行った?
「そんな顔すんなよ、兄ちゃん。毎日同じルールじゃ、つまんないだろ?」
「そうか?」
いや…… 同じルールのなかで切磋琢磨するのがスポーツというものでは……
ローカルにも程があるだろ?
「こないだは『三連続アウトになると、次の回のアウトも一つ減る』てルールでやったんだけど、つまんなかったよな。一回も三連続アウトにならないんだもんな」
「一番つまんなかったのは、『得点した分、アウトカウントが増える』てルールだよ。最初の方で大量得点挙げたせいで、残りずっと守りだったんだ」
テトもやって来た。
「『一点取るのにベースを三周する』ていう試合は見てて面白かったわよ」
応援席からチッタとチコも顔を出した。
「ランナーが多いと、誰が何周したか分かんなくなるのよね。追い抜くとアウトだから、長打が出たらカオス状態だったわ。ピオトなんか走り疲れて、みんなに踏まれてたもんね」
「あれは面白かった」
チコが相槌を打った。
なんだか凄いことになっとるな。
「もうすぐ雨になるから、早めに切り上げろよ」
そう言って空を指差したら、降ってきた。
「あっ」
「本降りになる予感……」
チコが呟いた。
チコの嗅覚には皆一目置いているから、慌てて互いの代表者と審判が額を合わせた。
「じゃ、適当に切り上げて帰れよ」
付き合っていても仕方ないので、僕たちは先に向かった。
チッタとチコも一緒に裏木戸から帰宅した。
すぐにピノたちも帰ってきたが、時既に遅く、濡れ鼠になっていた。
「没収試合になってもうてん。折角逆転するはずやったのに」
全員にタオルと温めたミルクが渡された。
ミルクは砂糖の入った甘い奴だ。みんな髭を付けながら美味しそうに飲み干した。
「そう言えばリオナはどこ行った?」
「ワカバちゃんのためにお城のレストラン予約しに行ったけど」
「ん? 夕飯はレストランか?」
「ちゃうねん。おかあちゃん、迎えに来おんねん。せやから、ついでに家族水入らずってことになってん」
「雨で立ち往生でもしてるのかな? 迎えに行ってくるか」
僕は傘を持って家を出た。




