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エルーダ迷宮侵攻中(土蟹・殺人蜂・ジュエルゴーレム編)12

 遠くから見た姿はやはりでかかった。サンドゴーレムは砂漠が舞台だったからある意味適材適所で、景色との溶け込み具合に違和感はなかったが、あれはなんというか、丘陵地帯にあってはならない物のようだった。全身、宝石の原石のような結晶構造に覆われている。

 言うなれば金目の物を着飾ったゴーレムが草原を闊歩しているような、坊主も金の亡者に変わりそうな装いだった。

 僕はとりあえず、いつものプロセス通り、銃口を向けた。

「げっ!」

 僕は固まった。

「何?」

「コア見つけちゃったよ」

 声にならない声でロメオ君に囁いた。

 ロメオ君は渋い顔をした。

 なんで見つけちゃうかなぁ…… あれほど、助っ人の彼がコアがどうとか、無理だとか言ってたのに、あっさりだもんなぁ。他の魔物相手にだって、最近はなかなか『一撃必殺』が発動しなくて苦労してるのに。まだ距離がこんなに…… 参ったな、みんなやる気になってるのにこれはないよなぁ。これで一撃で倒しちゃったら、消化不良もいいとこだよ。参ったな。

「どうしよう?」

「どうにもならないんじゃないの?」

 だよなぁ。

 とりあえず接近できるところまで進んだ僕は、戦闘態勢を取るべきか悩んでいた。

「ナーナナー」

「コア発見したって」

 え? ヘモジ?

 小さな身体が鞠のように飛び跳ねていった。

「リオナにも分かったのです」

 コアと他の部位に何か匂いの違いでもあるのか? なんで分かった?

「ナーナナー」

 二丁拳銃を抜くと腰の脇腹辺りを狙って銃弾をありったけぶち込んだ。

 なるほど、堅い奴だった。通常弾では表皮を削るのみだ。と思ったら、結構削れていた。

「おや?」と思わせた。

「任せるのです」

 敵の巨大な腕をかいくぐり、リオナが腹に一撃を加えた。残念、切っ先がコアまで届かなかった。攻撃を避けるのに一旦引き下がる。

 そこにヘモジが再突入。弾倉を取り替えた銃で再び攻撃を始める。

 おっと、敵の崩れた破片が、本体と合流しようと動き出した。

 リオナが追撃を二発、三発入れる。確かにこのままでは長期戦になりそうだった。

「回復は速いな」

「仕方ないのです。リオナの必殺技を食らわせてやるのです!」

 若干距離を取り、『双刃旋風・輪舞』の溜を始めた。その間は僕が盾になる。

 パリン! 乾いた音が響いたかと思うとコアが破壊された。

「ナーナ」

 斜に構えて銃口を上に向けてポーズを決めているヘモジがいた。

「なんで?」

 脆すぎやしないか?


 この件に関して、後日、姉さんに問うたところ、姉さんの知り合いで、この国で最も有名な魔獣博士に助力を得ることになった。『魔獣図鑑』の編纂にも参加しているえらい人で、御歳百歳を超えるご老体であった。

 たまたまスプレコーンの温泉に逗留しているというので、姉共々訪れた。

 彼の回答はこうだった。

「そんな、難しい、ことを…… お若いのに、よく…… お気付きに…… お茶のお代わり、お出しして。お菓子も。確かあの棚に…… はあ? 一杯目、入れたばかり? そうかい…… ぬるくないかい? あちっ! 熱いね。で、お菓子がどうしたって?」

 必要な言葉を一つ聞くのに、無駄な言葉を百も聞かなきゃならなかった。最後はこっちが何しに行ったのか忘れてしまうような状況だった。

 結局、秘書が別れ際、一分ほどで代弁してくれた。

「繰り返し魔力を消費させられた場合、魔力がなくては存在そのものを維持できないゴーレムなどの魔物は、最終的には結合する力をも消費することで総体を維持するのです。それによって構成要素の結合力は著しく軟化するため、脆くなるのです。仮に、魔力が回復しても、一度衰えた結合力は復活することはありません」と。

 繰り返された殲滅攻撃は無駄ではなかったということだ。無駄なのは僕たちが老人と過ごした時間だ。


「でも、なんでコアの位置がわかったんだ?」

 大きな疑問であった。

 ふたりの野生の勘のなかには魔力探知の能力は含まれていないはずだ。

「これじゃないの?」

 ナガレが、剥がされた欠片を蹴飛ばした。

 そこには『コアはここだ』と丸印と文字でしるされていた。

 全員が溜め息をついた。何ごとかと思ったら……

 恐らく上級冒険者のいたずらだ。倒せないでいる後輩のために、敵の急所をご丁寧にその身にしるしたのだ。

「これか?」

「ナーナ」

 ヘモジが頷いた。ヘモジが目がいいことは知っている。

「リオナもか?」

「分かりやすいのです」

 沈黙が支配する。騙される可能性は考えなかったのか? まあ、どの道、僕にも分かっていたわけで、こうなる運命ではあったのだが。

 いいのかこれで? 

 戦力外が一番活躍して終った。 

 結果的に僕たちは姉さんが杖に付けているような大きな宝石をゴロゴロ四つほど手に入れた。

 僕が見る限り、宝石の価値は大きいだけの粗めの中の下だ。圧縮して、中の上くらいにして転売がいいだろう。

 金貨千枚いくかどうか微妙なところだ。

「ううむ……」

 それはいいとして、足元になんとなく嫌な物がもう一つ転がっていた。六方晶系の水晶の欠片だった。

 全員が嫌そうに、じとーっとそれを見下ろしている。

 見てすぐにアイシャさんはそれが術式を施した魔法の扉を開けるための結晶キーだと悟った。

「魔法の扉……」

 聞き捨てならない言葉だ。明らかに僕たちは通常ルートから離れようとしていた。この結晶を掴んでしまったら…… また余計な攻略ルートに入り込んでしまうのではないか?

 全員深い溜め息をつく。

 素通りしたい、でも、気になる…… でも素通りしたい。

 どうしたものか。捨てるべきだと思うのだが、十七階の香木フロアーのようなケースもある。穏便に攻略を楽しみたいなら、拾うべきではない。全員がそう思いつつ、視線は釘付けになったままだ。

 ボスを倒したことに気付いた連中が様子を見に迫ってきていた。

 どうする? どうする?

「とりあえず回収しておいてから決めようか」

 迫ってくる連中の視線から隠すために、僕は代表して水晶キーを回収した。

 僕たちは現場を後にして、出口に向かった。

 ロメオ君は情報を漁り、鍵の使い方を探った。残りのみんなは獲物を探したが、街道沿いにはいなかったので、戦闘することなく、出口に辿り着いた。

 結晶キーを持ちながら先に進むのは危険と判断して、一旦外に出て、情報収集することに決めた。


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