エルーダ迷宮侵攻中(土蟹・殺人蜂・ジュエルゴーレム編)11
地下三十九階入口には異様な光景が広がっていた。
丘陵地帯の広い平原に、さながら人気のキャンプ場のような、迷宮前の野営地のようなテントが乱立するおかしな情景が広がっていた。
これらがすべてジュエルゴーレム狩りのプロというか、助っ人連中であるというから驚きだ。
武器の品評会でも、どこぞのギルドが主催してやっているのかと思った。テントには自己アピールの札がぶら下がり、主要な武器が通りから見える場所に飾られていた。すべては堅いゴーレムの身体を貫通破壊するための物である。
「武器の品評会みたいだね」
ロメオ君が言った。思うことは一緒である。
「ナーナ」
「あの斧欲しいかもだって」
「ありゃ、他人のもんだよ」
「なんだ、売り物じゃないんだ」
オクタヴィアがヘモジに言った。
ヘモジは僕を見た。
「斧が欲しいのか?」
「ナーナ」
「たまには違う武器が使いたい?」
「だったら貸して上げるのです」
そう言うとリオナは予備の剣、ドロップ品では最高クラスの『霞の剣』を取り出した。
『近接二百五十。魔法付与、魔法攻撃力プラス四百。魔力消費、十。魔力貯蔵量、三百。魔力残量、三百』の一品だ。
ヘモジは嬉しそうに剣を受け取るが、生憎『霞の剣』はミョルニルみたいに小さくならないので、両手を挙げて拝領して「ははー」てな感じの姿勢のまま動けなくなった。
「使うときに貸してあげるのです」
そう言うとリオナは剣をヘモジから回収した。
ところで、ヘモジ。オクタヴィアでもいいのだが、きのうのテイスティング、あれからどうなった?
「おい、姉ちゃんたち。俺を雇わねえか? 安くしとくぜ」
ひとりの大柄な男が声を掛けてきた。一番人当たりのいいロザリアが最後尾にいたにもかかわらず捕まった。
「魔法使いが大勢いますので」
すぐロメオ君が間に入り、場を収めた。
でも魔法使いの格好をしているのは、うちのパーティーではロメオ君だけだった。助けたロザリアでさえ、手に持っているのは杖ではなくて、グングニルである。
「何、言ってやがんでい。魔法使いなんて」
僕が火を、アイシャさんが風を、ナガレが雷を、ロザリアが光を、リオナまで指輪の魔力を消費して氷をこれ見よがしに出した。
リオナ、数ある指輪のなかからなんで、未だに氷付与の指輪をしてるんだ?
できた氷を口のなかに放り込んだ。
まさか、こまめな水分補給か?
男はあいつらは駄目だと周囲を見渡すと、「抜け駆けは許さんぞ」と身構えていたご同輩も「なんだよ。べっぴんさんたちに言い寄るチャンスだったのに」と引き下がっていった。
僕たちが来てまだ数分しか経っていないのに、後続の冒険者チームが何組も現れた。
慣れたチームは「またお願いねー」てなもんで、常連に声を掛ける。訳が分からない連中は、いかがわしさの余りに足早に去って行く。すると「ありゃ、すぐ戻ってくるな。誰が担当する?」なんて話を助っ人連中がし始めるのである。
僕たちも内心戻ってくるなんて、思ってるんじゃないだろうな。
「ナーナ」
「敵がいない……」
ヘモジとオクタヴィアは気付いたようだ。勿論鼻の効く連中は気付いている。
このフロアーの冒険者の数が獲物に対して多すぎるということを。
現在戦闘中なのは、探知できる範囲で八組だ。敵の残りは一体だ。
「とても儲かっているとは思えないな」
「一体倒しただけで、生計が賄えるのでしょうか?」
それだけのドロップがあるなら、嬉しい限りだが。
宝石一つでもともすれば金貨数十枚、ときには数百枚にはなるだろうから、確かに人数で分配しても一日の稼ぎとしては悪くないのだろう。一日一体だけであれば、痛い目に遭うリスクも装備の痛みも少なくて済む。
キャンプ場の縁に来たとき、大きな反応があった。
「おや?」
これは、一体?
「お、気付いたか、優秀だな」
そばに腰掛けていた助っ人組の男が言った。装備品から見て、結構なやり手に見えた。
「ありゃ、ボスだ」
「ボス?」
「レアモンスターだ。クラウンゴーレムって奴だな。でかいぜ。おまけに堅い。ジュエルゴーレムなんて、奴に比べたら子供だ。噂じゃ、大層なお宝を落とすらしいけど、ありゃ無理だな」
「なんで?」
「実入りがないんだよ。だからああやってもう何年も放置されてんだ」
「何年も?」
「ああ、何年もだ。ここの連中の名誉のために言っておくが、倒せないわけじゃないぞ。倒す意味がないんだ。最後に倒したのは教会の聖騎士が来たときだ。演習でだったかな。五年ぐらい前だ。奴らだって、獲物狙いならやらなかったろうさ。訓練だからやったのさ」
ロザリアを見ると、「知らない」と首を振った。
どうなっているのやら。
「あいつはな、兎に角、でかいし、堅いしで、コアを見つけるのが大変でな。サンドゴーレム見たことあるか?」
僕たちは頷いた。二十階層の砂漠エリアにいる砂嵐を身に纏った、通常のゴーレムの二倍もある巨大ゴーレムだ。確か金塊をドロップして一騒動あったんだよな。
「あれぐらい大きいんだ。結果的に大勢でボコって、削りまくるわけなんだが、どうしたって、瞬殺できねえもんだから、長期戦になるだろ? するってーとあいつはどんどん回復に魔力を使って、最後は空っ穴になりやがるんだよ」
男は間を置いた。
「魔力のなくなったゴーレムってのは、他の魔物もそうだが、碌なもんを落とさなくなるんだ」
僕たちは相槌を打つ。
「な、狩る意味がないだろ?」
いきなり結論に飛んだ。
要するに、頑張って狩っても、屑石にしかならない相手を倒す意味はないと。
「でも、魔力は回復……」
僕は言いかけて口を閉じた。
なるほど、同じことの繰り返しになるから、また枯渇するわけだ。
「魔法では無理なんでしょうか?」
ロザリアが尋ねた。
「何年か前に、この迷宮に通っていた魔法使いの有志が集まって、挑んだことがあったな」
「結果は似たり寄ったりさ。結局削りきれなくて、こちらも空っ穴さ。魔力回復薬を結構消費しての戦いだったから、大分赤字が出たって話だな」
探知する限り、魔力的には恐らく全快状態に戻っている。
「じゃ、僕たちはチャレンジしてみても?」
「別に誰かのもんってわけじゃない。好きにしな」
僕たちは顔を見合わせる。
「無理だったら逃げるってことで」
「面白いの」
「普段使えない魔法も試せそうだね」
ちょっと、ロメオ君。何を物騒なことを。
「どうせ、ジュエルゴーレムは定員一杯だしね。やっつけちゃいましょ」
ナガレもやる気だ。その分リオナが予備の魔石の確認をしている。
あ、笑った。
「ナガレ、魔石(大)が十個もあるですよ。思う存分やるのです!」
「おいおい」
人の話を聞いていなかったのかと男が呆れる。普通の冒険者なら、魔石(大)が十個と聞いては採算が気になるところだろう。
「じゃ、移動するのです」
「ナーナ」
どう見たってただの子連れのピクニックだ。
「チョビとイチゴはどうします?」
「一緒に戦うと邪魔じゃないか?」
頭上で巨大ゴーレムと蟹が二匹戦闘している姿を想像する。
「邪魔だね」
ロメオ君はあっさり諦めた。
「ナーナ」
ヘモジがリオナと言葉を交わしていた。
僕は視線を送って、オクタヴィアに通訳させた。
『霞の剣』をどっちが使うかということだった。今回の敵にリオナの双剣は余り役に立たない。結界があれば『障壁貫通』も役立つが、銃で戦った方がいいだろう。『ソニックショット』を叩き込む方が有効だ。じゃなければ、『双刃旋風・輪舞』だが、魔力が心配だ。
「ナナ、ナーナ」
話が付いたようだ。どうやら今回はリオナが『霞の剣』を使うらしい。
「ヘモジ、落ち込んでないか?」
オクタヴィアに尋ねたら、「ヘモジ、いい奴」と返された。
「きのうのテイスティング、どうだった?」
「ヘモジ完璧。オクタヴィアは一つしか当たらなかった」
「そりゃ、そうだろうな……」
全部同じ肉だからな。
「どういうこと?」
しまった……
「あ、いや、それでヘモジは自分の武器でいいのか?」
ロザリアに短銃を借りていた。
「うわっ、役に立たなさそうだな……」
駄目だ、気に入ってる。レアモンスター相手に通常弾でやる気だ。
「ナーナ」
何? 僕の短銃も貸して欲しい?
「まあ、ライフルあるから構わないけど……」
「ナーナー」
ねちっこい声を出して、二丁の拳銃を抜いた。同じ短銃でも大きさも重さもバラバラだから、ホルスターを右にしてみたり、左にしてみたりで調整に忙しい。
ヘモジは戦力外、決定!
「お、見えてきた」




