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オータン迷宮侵攻中(ピノ少年呆れる)9

 僕は風魔法で爆風を薙ぎ払った。

 倒壊する壁に視線をやる。

「これでまた『闇の信徒』が出てきたりしないよな……」

 巨大な腕が頭上に降ってきた。

 ヘモジがミョルニルで豪快に打ち払う。

 腕は離れた場所にドスンと落ちて、これまた柱を一本巻き込んで埃を舞い上げた。

 パスカル君たちや冒険者たちが駆け寄ってくる。

 子供たちや冒険者パーティーの魔法使いたちが風魔法で敵のベールを剥がしていく。

 しゃがみ込んだ教師たちの元に子供たちが駆け寄り万能薬を提供する。

 僕は大きな溜め息を付いて、戦果を見上げた。

 蜂の巣のようになった巨大なゴーレムの身体が僕の渾身の一撃の残滓を受けて、胴から真っ二つに引き裂かれていた。『一撃必殺』が反応したコアの部分は見当たらない。

 こちらの攻撃を防いだ腕が千切れて降ってきたわけだ。

 サラサラとゴーレムの身体が原形を崩し始めた。

 戦闘に参加していた教師全員がのっそりと起き上がった。

「障壁がなきゃなんでもないのになぁ」

「ナーナ」

 ギルド職員や他の冒険者たちが破壊されたオブジェを見上げた。

「ナッ!」

 ヘモジが呆然と立ち尽くした。

 ん?

「ナ……」

 盾がお釈迦になっていた。

 ヘモジは項垂れた。

「修理しないとな」

 僕はヘモジを抱き抱えた。

「おかげで助かったよ」

 ゴーレムは宝石を落とすが、こいつは何を落とすのか。

 僕たちはみんなと合流して、結果を見守った。

「まさか、魔法で押し切るなんて……」

 ビアンカもパスカル君も呆れ顔だ。

「剣で格好よく行こうと思ったんだけど。僕の剣は魔法属性が強すぎてね。反射を避けるにも近接戦闘だと避けられないし。反射きついわ」

「だからってあれはないよな」

 亡骸を見上げるファイアーマンにまで呆れられた。

「遠距離でも避けられてないし」

 ピノにまで言われた。


『闇の信徒』からは、何も出なかった。石ころばかりだった。あちらも障壁と衝撃波のために魔力をほぼ使い果たしていたようだ。

 僕が参加しなくても、地道に魔力を削っていた教師たちがいずれは勝利を収めていたかもしれない。

 ギルドから報酬が出るらしいが、教師たちと分配、遺族に送ったら手元には何も残らないだろう。宝石の一つでも落としてくれれば、苦笑いぐらいはできたのだが。

 ヘモジの盾の修理代分、たぶん赤字である。


 教師や職員たちとねぎらいの言葉を掛け合い、他の助っ人たちと肩を抱き合い、僕たちは地上に戻った。

「兄ちゃん、最後どうなったんだ?」

 ピノが聞いてきた。

「転移して、やり過ごしたんだ。あのまま受けきるより楽だと思って」


 混合魔法を使ったチームは、リュボックの守備隊から取り調べを受けることになった。

 そのチームのメンバーには残念ながらフランチェスカの兄が含まれていた。生徒は全員退学処分になった。

「仕方ないです。禁忌を持ち出したんですから。首を刎ねられないだけまだましです」

 僕は「正直ざまあみろ」という心境なのだが、フランチェスカにとってはつらい結果になってしまった。彼女にはそれなりにいい兄だったのだろう。


 フランチェスカの兄はその後、家督も継げなくなって、出奔する羽目になった。対照的に頭角を現わし始めたフランチェスカが結果的に家督を継ぐことになった。良くも悪くも魔法使いの家系である。魔法が使えて初めて認められるのだ。



「混合魔法というのは、魔導具とのコラボ技のことじゃ」

「コラボ?」

「合わせ技じゃ。大技中の大技じゃが、使い方さえ知っていれば、魔法使いなら誰にでも使える、厄介な代物じゃ。余り現存しておらんはずじゃがな」

 そんな物を魔法学院から持ち出して使ったのか。おまけに死人まで出して、いたずらとはいえ、退学だけで済んだのは奇跡だ。学院側が領主の介入を防ぐために、ことを無理矢理収めたのだろうが、死んだ方は浮かばれない。ひとりは馬鹿共のお仲間だったらしいが、助けに入った教師の方は気の毒だ。

「結界防壁も言い様によっては、混合魔法とも言えなくもないの」

 ソファーの上でヘモジの壊れた盾をこねくり回しながら、アイシャさんが言った。

「ここが断線しておるな」

 紋章術式の補修をお願いしている。

「よくもまあ、この盾をここまで破壊できたものじゃな」

「すいません」

「何、五体満足、生きて帰って来てくれれば本望じゃ」

 オクタヴィアがクッキーをボリボリかじりながら、ヘモジの様子を伺う。

「あー、こりゃ駄目じゃ。断線が多すぎる。作り替えた方がいい」

 匙を投げた。

 やはりそうなったか。

 ヘモジはガックリしょぼくれた。

 そんなに気に入ってくれていたのか。制作者としては嬉しい限りなのだが、見るのも気の毒な姿容であった。

 何を置いてもまず盾の修理を優先せねばなるまい。


 問題はあっさり片づいた。

 アガタがいずれ修理も必要になるからと、代替え用に複製をもう一つ作っていたのだ。

「まさか、全損させてくるとは思わなかったけどな。何をやったらここまで壊せるんだか」

 ヘモジの顔が一気に明るくなった。眩しいくらいの笑顔である。

「新調していいんだな?」

「ああ、頼む。それとピノに一振り剣を頼みたいんだ。頼んでいいかな?」

「それなら、もう当人が来て選んでいったよ」

「ほんとに?」

 抜け目のない奴だな。

「迷宮からドロップしたなまくらではやはり不安か」

「その机に載ってるのがそうだ。あんたが来たら選んでくれるように言ってたぞ」

 どれも大人が持つには小ぶりの剣だった。剣士でない一般の者たちの護身用には収まりがよく、売れる代物だ。

「一本、打って貰おうと思ったんだがな」

「まだ子供だろ。早いよ。選んだ二本にしたって、あの歳の子供が持つもんじゃないぞ」

「そろそろレベル二十台を狩りそうな勢いなんだよな」

「ほんとか?」

 アガタが目を丸くする。

「本格的な一振りがいるな……」

「だから、身内贔屓ではなくて、買ってやると言ったんだが」

「だったら、あの二振りじゃ駄目だな」

「握りは変えずに、刀身だけ打ち直してやろうか?」

「いい材質はありそうか?」

「ドワーフ謹製の特殊鋼でいいだろ。ゼンキチの弟子なら、余計な付与より切れ味に特化した方がよさそうだ。とは言え、魔物相手ではそうもいかないか」

「本人には安く上がったと言っておくよ」

「代金は盾と一緒でいいんだな?」

「よろしく頼む」

 さて、そうとなれば、お金を稼がないとな。

 みんなは僕抜きで狩りに出ているらしいから、一休みしたら出るかな。

「おっと、まだやることがあった」

 パスカル君たちに頼まれていたドラゴン肉の詰め合わせを送らないと。


「みんな食べ盛りだからな」

 五種類をブロックで。ゲートを通れる手荷物輸送用の保管庫で、一番大きなサイズに押し込んで、配達してもらった。

「まだまだ捌けませんね」

 エミリーが言った。

「実家の方に転売できないのかい?」

 アンジェラさんが、ウルスラグナの肉をたった今空いた保管庫の隙間に押し込んだ。

「実家も船を建造しましたからね。必要なストックは抱えてると思いますよ」

「アルガス辺りには領主様がもうばらまいたんだろ?」

「手っ取り早い解決方法は保管庫を増設することかな。夏にはまた魔法学院の子供たちが来ますから離れを増設しましょうか?」

「だったら、ギルドの宿泊所兼用にしたらどうだい? あっちは足りてないようだからさ」

「そう言えば人が増えてるって」

「ああ、ドラゴンの素材やパーツがオークションに出る機会が増えたからね。最寄りの宿泊所はいつも満杯だ。部屋数が圧倒的に足りないんだ。最近は観光で連泊する一般客も増えてきたからね。一般の宿も、ギルドだからと言って融通できなくなってきてるんじゃないかね」

「よし、決めた。大きめの宿泊所を作ろう。温泉も出るし。そこでドラゴンの肉の夕食コースでも出したらいいんじゃないかな?」

「そうだね。新しい移住者のなかには職にあぶれている者もまだいるからね。姉さんに頼んでみたらどうだい?」

「お昼はお城のレストランでランチコースとか、飛行船周遊チケット込みのコースとか」

「もうこの町の宿屋ならどこでもやってるよ」

「そうなの?」

「どこの宿屋も増築ラッシュさ」

「あんたはギルドのことだけに集中した方がいいね。やり過ぎると周りが潰れるから。恨まれたくないだろ?」

「…… 未開の地、見学コースとかなら誰もやらないよな」

「死人が出たらどうするんだい! やめときな」

 アンジェラさんに怒られた。


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