エルーダ迷宮侵攻中(村娘がやって来る)3
午後からエルーダに向かった。今回は一人きりだし、時間もないので普段使わないポータルで移動した。
「なるほど。一瞬だ」
自足型転移ポータルの設置でここまで移動が楽になるとは。
まるですぐ町の外に迷宮ができたような錯覚を覚える。
「ここまで来ておいて、やる気が出ない」
『闇の信徒』との戦いで精神的にまだ疲労しているようだ。
「何するかな。チーズでも買ってくるかな」
そうだ!
有り金叩いて宝石を買い漁ろう。
勿論『鉱石精製』の練習のためである。
まずは魔石(特大)を手に入れる。土蟹でもいいが、一つだけでいいので火蟻クイーンにする。いつもの調子で裏口から入り、ルーティーン通りに仕留めると魔石に変わるのを待った。
手に入れた魔石を持って、クヌムの町に向かい、交換屋で魔石(大)サイズに両替しようと思った。するとリオナが両替した残りがまだ大量に店に残っていると言うので、すべてを引き取った。それを持って宝石商に向かい、よさそうな石を手当たり次第に買い漁った。
あとは町の宿屋の一室を間借りして、ひたすら精製にいそしんだ。一巡すると、レベルが上がったようで、一度加工した石を使って二巡目の精製ができた。それを繰り返すと、やがて石が割れ始める。石のなかに限界が出るようになった。なんとなくもう無理だなと思ったところで手を止めた。
窓の外を見るとちょうどいい具合に日が沈んできていた。クヌムの時間と現実の時間はほぼ変わらないので、いい頃合いだと判断して、壊れた石を迷宮に廃棄して、完成した石だけを持って帰還した。
スプレコーンに戻ると『銀花の紋章団』のギルド本部に向かい、加工した石を売却する手続きを行なった。商業ギルドに回すといろいろ問題になりそうだったからだ。
翌日、買い手が付いた旨と、売却益が口座に振り込まれた。うち出来のいい数個が今月のオークションに出品されることになった。
口座の入金額の多さに「また何かしたのか」と勘ぐった姉さんが我が家に飛んできた。
「ちょうどよかった。話があるんだけど」
宿泊施設増設について話し合った。資金は今回加工した宝石の売却益を当てることで、姉さんに了解を取った。
基礎は自分がやると息巻きながら、図面をその日のうちに発注してくれた。
上物を人任せにするんだから基礎も人に任せればいいのに……
数ヶ月後、ギルド本部の裏手に立派な宿泊施設ができあがる。その頃にはパスカル君とそのお友達を迎える準備も整うことだろう。
「ただいまなのです」
「ただいま戻りました」
「ただいま」
「お邪魔します」
リオナとロザリア、ナガレとロメオ君が帰ってきた。
「お帰り。成果はあったかい?」
「『迷宮の鍵』忘れて、損したです」
「地下十七階に行ってきたんだけどさ」
「宝箱も王様部屋もスルーで行った意味ありませんでしたね」
「でも目的の香木はどっさり回収してきたのです」
視線がリュックに向いた。
中身は全部木片か?
「長老に頼まれたんだよ。そろそろ、香木を補充して欲しいって」
「『値の張る物はいらん。手頃な値段で捌ける物を頼む』ですって。わたしたちにはどれがいいかなんて分からないから、全部リオナ任せよ」
一番頼りにならない選択だと思うが……
「いい匂いでなければ意味がないのです。いい匂いから順番に持ち帰ったです。爺ちゃんたちには今回は運がよかったと言っておくのです」
もう聞こえてると思うぞ。
なかを見せて貰うと、意外なことに手頃な品が揃っていた。リクエスト通りか?
「選ぶのに結構時間掛けてたよ」
「余計なことを言ってはいけないのです」
告げ口するロメオ君にリオナは手元の何かを投げた。
「んぎゃ」
オクタヴィアが命中した。
「なんでいるですか?」
ロメオ君の顔に大の字に貼り付いている黒猫に言った。
「匂い嗅いでた」
ロメオ君がオクタヴィアを引き剥がした。
「こんばんはー」
子供たちがやって来た。
「ウルスラグナの肉、食べに来たぞ」
ピノがアンジェラさんに笑顔で宣言した。
「もう準備始めてるよ。さっさと手を洗って手伝いな」
「はーい」
子供たちがゾロゾロと厨房に消えた。
「ウルスラグナ?」
ロザリアは首を傾げ、ロメオ君は口をあんぐり開けた。
リオナとオクタヴィアはよだれを垂らした。
「香木片付けて来た方がいいんじゃないか? 肉の匂いが邪魔されるぞ」
リオナははっとなってリュックを抱えた。
「大変なのです」
「ウルスラグナって?」
「その話は後なのです。香木の保管庫に急ぐのです」
「ほんとに?」
ロメオ君が僕に確認を取る。
「偶然狩れちゃってね……」
「ロメオ君、早く行くのです」
三人はリュックを抱えたまま、ガラスの棟の保管庫に向かった。
「賭けてもいいわよ」
ナガレが見送りながら言った。
「戻って来たとき、人数、倍になってると思うわ」
ナガレの予想はおおよそ当たった。長老が付いてきたが、付いてきたのはトビ爺さんとホッケ婆ちゃんだけだった。
「みんな、何処行ったですか?」
「冒険者ギルドの新しい乗り物があったじゃろ? あれを借りて、近くの獣人村の様子を伺いに行ったんじゃよ」
町の外に出したのか?
「こんな時間に?」
「誰が操縦してるんですか?」
「操縦は飛行船のパイロットにもできよう」
「夜なら空から襲われる心配はないからの」
「何か問題でも?」
「マルサラ村というんじゃが」
古くからある村のなかで、未だスプレコーンに合流していない唯一の村だ。
「街道整備を始めることになってな」
「資金をどこまで出すかで、折り合いが付かなくてな」
「たかる気とか?」
「いや、通行料を取りたいらしい」
「では自分たちに作らせろと? わざわざ小型飛空艇で向かったのは、通行料に意味がないことを伝えるための牽制ですか?」
「単に、道が険しすぎるからじゃ。年寄りにはきつくてな。それはさておき、このままではあの村だけが孤立してしまうからの」
「通行料など設定したら、商人も寄りつかんようになってしまう」
「独立独歩の精神も嫌いじゃないがな」
アイシャさんが言った。
「特産があるでなし。伝統的な狩りをするだけの集落に過ぎん。助け合いがなければ、いずれ消え去るのみじゃ。あの子たちの村のようにならんとも限らんしの」
「共存共栄が理想なんですがね」
「古参にはプライドが、新参には理想が邪魔をするかの」
とりあえず人族は手を出さない方がよさそうだ。
タイトルの村娘はまだ出てきませんw




