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オータン迷宮侵攻中(ピノ少年の冒険)2

「情報は?」

 ここではマップ情報は小分けにして売られていた。大枚はたいて買う必要はないようだ。

 僕はギルドのアイテム販売所でマップ情報を購入した。

「スケルトンとゾンビの巣だな」

「ゾンビはやだな」

「銃でなんとかするんだな。回復薬は持ってるな?」

「うん、万能薬持ってる」

 初級の迷宮で万能薬を使う奴はいない。道場の引率で来るときは、周りに合わせて各種薬品を使用するが、今日のところは構わないだろう。

「お腹空いたかも」

「そうだな。少し早いけど食べてから迷宮に入るか」

 僕たちは最寄りの食堂に入った。

 明らかにエルーダの宿屋に劣る料理だった。

「初級の冒険者を相手にするんだからこんなものか」

 肉はすじ肉。パンはパサパサ。サラダは萎びていた。

 味は決して悪くはないが、普段の豪勢な食事が仇になった。財布には優しいのだが。

「学校の生徒たちは自炊なんだな」

 ピノは美味しそうにすじ肉にかぶりついた。

 突然、ピノが動きを止めた。

「パスカルさん見つけた!」

 ピノは窓を覗き込むと手を振った。気付かれなかったようで、店の入口から出ていった。

 しばらくすると、三人を引き連れて戻って来た。

「エルネストさん!」

 僕たちは握手を交わした。

「頑張ってるみたいだね」

 僕は迷宮到達深度を示す看板の方を見た。

「おかげさまで。大抵のことには物怖じしなくなりました」

 そう言って三人は笑った。

 店員がメニューを運んできたが、パスカル君は「僕たちは学生なので」と言って丁重に断った。

「おふたりはここで何を?」

「ピノの修行の付き添い」

「ピノ君、今何層なの?」

 ビアンカが尋ねた。

「二十四層の予定だった」

 過去形であることに気付いたビアンカは察して、すまなそうな顔をした。

「ごめんね。うちの生徒で一杯だもんね」

「だから二十二階層に行く予定なんだ。あそこなら魔法使いいなさそうだし」

「嗚呼、アンデットの」

 ファイアーマンが言った。

「確かにあそこは魔法使いでなくても行きたくない場所だったな。俺が大活躍したフロアーではあるがな」

 火の属性が活躍できる数少ないシチュエーションだからな。逆に火がないと、結構面倒なフロアーだ。

 ピノの潜れる深さは、道場の修行できたとき到達した二十三階層までだった。僕は初めての場所だし、付いていくしかない。

 有料で門番に飛ばして貰う制度があるが、基本脱出ゲートの使い方はエルーダと同じだ。頼るのはピノのためにはならない。

 一歩一歩だ。

 三人と同じ班の友達が呼びに来た。テントを早く設置しないとお昼が食べられないと躍起になっていた。

「お友達は何人いるの?」

 ピノが尋ねた。

「パーティーは六人が基本よ。全員魔法使いだけど」

 そう言ってビアンカは笑った。

「じゃあ、これあげるよ」

 ピノは自分の非常食『若様印のハンバーグ&チーズサンド』を人数分取り出した。

 珍しいこともあるものだ。

「これって…… もしかして!」

「スプレコーン名物! ドラゴンの肉で作ったあれ?」

「『若様印のハンバーグ&チーズサンド』!」

「うわぁあ、食べてみたかったんだ」

 噂は届いていたか……

「今度スプレコーンに来たらもっと凄い物が食べられるよ」

「何?」

「ドラゴン肉の『五種盛り合わせステーキセット』」

 ピノが自慢げだ。

「俺たち、こないだファイアードラゴン狩ってきたんだ。狩ったのは兄ちゃんたちだけどな」

 信じられないという視線を向けられた。

「たまたま襲われただけだよ。それより、早く行かないと友達の機嫌を損ねるぞ」

 今夜は森で一泊、野宿することを伝えて、僕たちは別れた。

「移動販売でもやりたかったのか?」

 僕はピノをからかった。

「今夜食べようと思ったの!」


 僕たちも食事を済ませると店を出た。

 すると馬車で会った少女が立っていた。

「あの…… フランチェスカ・ヴィヴィアーニと申します。先ほどはすいませんでした」と言って頭を垂れた。

「君が謝ることじゃない」

「わたしの兄なんです」

 そして更に頭を下げた。

 駄目な兄を持った典型、しっかりした妹だった。

「先ほどの彼らの兄弟子だとお伺いしました。彼のレジーナ様の教え子とか」

「兄ちゃんはレジーナ姉ちゃんの弟だよ」

「え? ではヴィオネッティー家の?」

 ピノが頷いた。

「お見それしました」

 又頭を垂れた。あれほど気にしていた髪型が……

 気持ち悪いくらいに恐縮していたので止めさせた。

 そして用件を尋ねた。

「御教授お願いします! わたし、行き詰まっていて……」

 聞けば兄の後を追って魔法学院に入学したまではよかったが、最近、伸び悩んでいたのだそうだ。退学も考えたが、諦めきれずにズルズル今日まで至っていたのだと言う。僕の言葉責めに泣いてしまったのは、改めて自分の不甲斐なさを感じてのことだった。その僕が、今や時代の寵児とならんとする三人の新入生の知り合いだと知って居ても立っても居られなくなったようだ。

「わたしたちの攻略するフロアーはもう獲物がいないので、パーティーを抜けさせて貰ったんです。お願いします!」

「兄ちゃん……」

「見てるだけなら、一緒に来るといい」

「ありがとうございます」

 彼女は三年生だった。

 解除魔法を知らなくても、本来攻められる側ではなかった。ただ、兄を助けたい一心で食ってかかったのが災いしたのだ。本来兄の取り巻きが負うべき負担を彼女が買って出てしまったのだ。彼女自身は現在、二十四階を攻略中だった。

 幼いピノがすぐ下の階まで攻略していることに心底驚いていた。


 ピノが開いたゲートから二十二階に潜った。

「先客がいるな」

「でも獲物は残ってるよ」

「通過目的だから、狩りはしてないんだな。消臭結界張ってやろうか?」

「うん」

「お願いします」

 いきなり鼻を塞いだピノとフランチェスカに言ったら、即答された。

「見つけた!」

 ピノは敵のいる方に進んだ。

「やっていい?」

「その前に……」

「ナーナナー」

 ヘモジを召喚した。

 フランチェスカは口をぼかんと開けて、ポージングを決めている小さな小人を見つめた。

「ヘモジ、危なくなったら助けてくれよ」

「ナーナ」

 ふたりは通路からヨタヨタと接近してくるスケルトンに突っ込んだ。剣も持たずに盾だけ持った奴だった。

「召喚獣だ」

 僕はフランチェスカに簡単に説明した。

 スケルトンはピノたちを見つけるとバッシュを放つ構えをした。

「バッシュだ」

「分かってる」

 ピノはシールドバッシュをかわして側面に回り込むと首をきれいに刎ねた。

 ヘモジがハンマーで落ちた頭を潰す。

「ナーナ」

 あっさり終ったな。これじゃピノの実力がよく分からんな。

 このフロアーには罠はない。だが闇属性のフロアーってだけで充分トラップが効いていた。

「フランチェスカは魔力減少の対策はしてるのか?」

「回復用の薬ならあります。でも余り長居はできません」

「ちょっとヘモジ、リュックから予備の指輪を探してくれるかな」

 ヘモジは僕の肩に乗るとリュックのなかを漁って、予備のアクセサリーを保管してる小箱を取り出した。

「ナーナ」

 僕は箱を開けると、魔力回復増加の付与が付いた指輪を取り出した。

「ピノはいいのか?」

「もう装備してる」

 さすが抜かりはないな。

 僕はフランチェスカに指輪を渡した。

「まだ減少するようなら、もう一つ付けるか?」

 フランチェスカは首を振った。どうやら一つで足りたようだ。

 やはり初級用の迷宮だ。思ったほど減りが少ない。

 次に現れたのはゾンビだ。

「兄ちゃん。パス!」

「ちゃんとやれよ」

「じゃあ、わたしが」

 そう言うとフランチェスカは魔法の詠唱を始めた。


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