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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第九章 遅日と砂漠の蛇
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砂漠の竜(サンドロックトード討伐)1

 今回、前回アンジェラさんたちに用意した小部屋を複数用意して、聖騎士の皆さんに利用して貰うことにした。雑魚寝ではあるが、格納庫の床で寝ないで済むと大いに喜んで貰えた。

 大口の取引先なので、これくらいしないと申し訳ないだろう。今回の一件でも、警備の片棒を担いで貰ったのだから、何もしないでは罰が当たる。

 部隊との連絡はロザリアに一任した。

 一介の冒険者にあれこれ言われるより、教会の血筋が相手した方が円滑に事が進むだろうと

考慮した結果である。

 結果、人選は無駄になったのだが。

 教会側も責任者に知り合いを用意してくれたのだ。カミール・ビアンケッティ枢機卿。ロザリアのお父上である。

「また厄介になるよ」

「はい、大したおもてなしはできませんが、ごゆっくり空の旅をご堪能ください」

「ああ、それと、聖騎士団でも船を購入する計画があってね。よかったら後で担当者を数名、案内して貰いたいのだが」

 断る理由もないので快諾した。

 当然いつもの講釈もしておいた。ドラゴンを自力で調達してこないと、いつ手元に届くか分からないということを。それに今回から『空を飛べないアースドラゴンでは駄目だ』という文言も新たに加えることにした。

 人選は変えないので、親子の裁量でうまくやってくれることを期待する。


「きのうの肉はどうだった?」

 僕はキャビンで仕事をこなしているリオナたちと子供たちに尋ねた。

「おいしかったのです。あれこそ肉なのです!」

 歯ごたえが最高だったらしい。

「まあまあだな」

「僕はもっと柔らかい方がよかったかな。じゃないと量が食べられない」

 ピノもピオトも相変わらずだ。こいつらの分だけ野牛に代えてやろうか?

「少し堅かったです。飲み込めないのがもどかしいぐらい肉の味は最高でした」

「顎が痛くなったよ。でもおいしかった」

 チッタとチコにもやはり堅かったようだ。

 次に食べるときは少し調理法を考えないといけないな。味はおおむね好評なのでよしとしよう。


 街道に沿って砂漠に入ると昼食タイムになった。

 格納庫でも大量のパンとポテトサラダとベーコンが配膳された。

 こちらもベーコンサンドとポテトサラダとデザートのポポラの実だ。

「退屈で叶わん」

 カミール氏がぼやいた。

 目的地まで二日。まだ数時間しか経っていないというのに。指揮官がそれでいいのか?

「甲板に出たらどうじゃ、外の景色でも見てのんびりするがいい」

 アイシャさんが言った。

 甲板に出るということはキャビンを通るということだが。

 我が家のお局様のお許しが出たので、ゾロゾロと団員たちがキャビンに上がってきて、甲板に向かった。

 その際、我が家の美人さんたちで目の保養もしていったが。

 僕は操縦席のふたりと席を替わるべく向かった。

 そのときである。

『前方に飛行物体発見!』

 僕は階段を降りて操縦室に飛び込んだ。

「なんだ?」

「たぶんサンダーバード」

 ロメオ君が双眼鏡で覗いている。

 雷鳴が晴れた空に轟いている。

「何かと戦ってますね」

「サンドワームかな?」

「回避行動を取ります」

「了解」

「暇つぶしになるといいが。地上の敵は何かな?」

「前方より何か来ます」

 あれは! 岩だ!

「回避! 高度上げ!」

 ドオオオオン!

 障壁にぶつかった。

「ロックゴーレム!」

 ロメオ君が叫んだ。


 ロックゴーレムとは砂漠の生き物である。ゴーレムと名が付くが実はゴーレムではない。身体の表面の粘液で岩石を鎧のように貼り付けて、身に纏っている巨大蛙の一種である。

 そのゴツゴツとした風貌からゴーレムと間違えられた歴史があり、今でもそう呼ばれている。

 正式名はサンドロックトード。砂漠で暮らすことを前提に、ヤドカリのように岩の鎧を纏った魔物である。その武器は舌を筒状にして打ち出す砂岩である。内部に粘着液を忍ばせた厄介なものだ。

 粘液は恐ろしく接着力のあるもので、一度貼り付いたら取るのが難しいと言われている。

 実際お湯で緩むのだが、戦闘中にそんなことをしている余裕はない。

 うちの兄たちが地元の子供たちと遊びと称して、粘液の入った小袋をぶつけ合って、母に半殺しの目に遭った話を聞いたことがある。粘液が取れなくてふたり揃って丸坊主にされたのだ。姉さんはアンドレア兄さんの黒歴史だと言って、今でもよく話題にして笑っていた。

 その粘液の生みの親があれだ。

 あいつを倒すコツは凍らせること、あるいは焼いてしまうことだ。

 粘液を浴びたらご愁傷様だ。結界は外せない。

 問題はなぜサンダーバードが狙っているのか。どう考えても餌にふさわしくない相手だ。

 すぐに答えは分かった。

 子供が少し離れた場所に転がっていたのである。

 サンダーバードはそこへロックゴーレムを行かせまいと威嚇を繰り返していたのだ。

 粘液を浴びた様子はないので、砂岩によるダメージで落ちたようだ。死んだのか、翼が折れただけなのか、気絶しただけなのか……

 自然の摂理とはいえ、余りいい景色ではない。

「こっちを攻撃してきた報復はしてもいいと思うんだけど」

 やり過ごそうとした僕にロメオ君が言った。

 テトも頷いた。

 敵の敵でも敵は敵なのに。人は不合理、非論理的、利己的にできている。

「ちょっとライフルでも撃ってくるかな」

「そう来なくっちゃ」

「進路変更、目標ロックゴーレム!」

「シールド全開! 魔石は満タンだよ」

「すれ違い様狙撃する!」

「了解!」

 僕はライフルを取ると船尾に向かった。

 キャビンに戻ると話は既に通じていて、戦闘態勢に入っていた。

「一体何を?」

 カミールさんを始め、甲板に出ていて呼び戻された騎士たちも不安そうにしていた。

 船は高度を下げながら加速していく。

「ちょっと、ロックゴーレムにやられたお返しを」

 砂岩が右舷をすり抜けた。

 鈍重な重装甲蛙の視線が必死にこちらを追い掛けてくる。が、サンダーバードの攻撃にも晒されているから、どっちつかずの態勢になる。だから狙いを定める余裕もない。

 ただ牽制に撃って来ているだけだ。

「サンダーバードもいるんだぞ」

「問題ありません」

 僕は後部の狙撃室に入った。

 ピノが既に配置に就いていた。

「悪いな。面倒に巻き込んで」

「子供を助けるんだろ?」

「偽善だよな?」

 あの子供はもう助からないかも知れない。

「関係ないよ。僕たちは冒険者だもん。獲物ぐらい自分で決めるよ」

「素通りするのが大人の対応だけどな」

 ピノが笑った。

「しょうがないよ、子連れだもん。十秒前」

 ピノがカウントダウンを始めた。

 冒険者は獲物を狩る。でもそこに明確な判断基準など存在しない。相手の家族構成なんて気にしないし、相手の都合なんて知ったこっちゃない。やらなければ、やられるかも知れないからやる。稼がないと生きていけないかもしれないからやる。全部こちらの勝手だ。待ってる子供がどこかにいたとしても、子供そのものだったとしても、牙を剥いてくる相手なら容赦はしない。でも目の前に親子の番として現れたのなら、見逃してしまうかもしれないのが人の性だ。理屈じゃないのさ。

「二」

 だったら好きにやるさ。

「助けたい奴を助ける!」

「一」

 僕は銃を構えた。

「ゼロ!」

「倒したい奴を倒す!」

 ロックゴーレムが視界に入った。

『一撃必殺』、『魔弾』発射ッ!

 ロックゴーレムが吹き飛んだ。生理的に好きになれない色の粘液が辺りに飛び散った。

「きも」

 ピノが呟いた。

「次からは燃やそうか……」

「うん、それがいいよ」

 僕たちは遠ざかり、サンダーバードは砂漠に降り立った。

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