砂漠の竜(インターバル)2
僕たちは狙撃室から出て、キャビンに戻った。
なぜか子供たちが嬉しそうにはしゃいでいた。
「飛べない鳥は長生きできないんだぞ」
僕は釘を刺した。
「それでも時間ができたじゃろ?」
アイシャさんが言った。
そうだ。別れを言う時間も与えられなかった子供たちにとって、この残された時間は崇高な価値がある。
僕たちは旋回しながら様子を伺った。
突然、サンダーバードの子供が翼をばたつかせた。どうやら気付いたようだ。
「翼は大丈夫のようじゃの」
アイシャさんの言葉に子供たちは喜んだ。
ピノもみんなと合流すると手を取り合って跳ね回った。
「何か来るよ」
チコが言った。
土がこんもりと盛り上がった。
次の瞬間、サンドワームが砂のなかから大口を上げて飛び出してきた。
「うわぁああ」
金色に輝く二羽の鳥が空高く舞い上がった。
サンドワームは周囲の砂ごとロックゴーレムを吸い込んだ。
「運がなかったわね」
大口を閉じかけたサンドワームを見つめながらナガレが言った。
なんのことかと覗いていたら、サンドワームがもがき苦しみだして、掘った大穴を広げ始めた。荒々しく呼吸をする度に黄色い砂塵が巻い上がった。
ロックゴーレムの粘液が悪さをしたようだ。
「餅を喉に詰まらせた感じだね」
ピオトの例えは現状を的確に捉えていた。
船は砂塵を避けるために風上に回り込み、高度を取り始めた。
やがて、パタリと何ごともなかったように砂漠は静まりかえった。
「死んだ?」
上空から見た限りでは分からないが、命の反応は消えていた。
空を見上げると遠くに二羽のサンダーバードが寄り添うように飛んでいた。
「進路戻せ!」
「君たちはいつもこんな無茶をしてるのかね?」
カミール氏の額に汗が滲んだ。
「何言ってるのよ、父さん。これから向かう場所の方が物騒じゃないの!」
「そりゃ、そうだが。そういうことを言ってるのではなくてだな――」
騎士のなかにはサンドワームやサンダーバードを遠巻きに、あるいはこんなに身近に見たことがない者たちがいて、興奮冷めやらぬ様子だった。
退屈が紛れてよかった。
「もう、甲板に出てもいいかね?」
外出を待たされていた騎士が言った。
「あ、そうだ」
僕は伝声管を握った。
「戦闘態勢解除! 通常航行に移行する」
僕は今度こそふたりと昼食を代わるために操縦室に向かった。
聖騎士団の皆さんは余程暇だったようで、午後には甲板で鍛錬が始まっていた。落っこちないでくれれば何をしてくれても構わないが、さすがに全員では手狭なので、半分は格納庫で座学である。因みに講師は枢機卿であるカミール氏だ。
船は既に自動航行に移行している。
特にやることもなくなった子供たちも、遠巻きに授業を聞いていることだろう。
と思いきや、家に閉じ込められている間に作ったという特大双六、『ドラゴンスレイヤーへの道』がキャビンの床に広げられていた。
『肉祭り、ドラゴンの肉を食べた。体力プラス十』
『大浴場のお風呂で疲労回復。体力全回復』
『ケバブの匂いに誘われる。一回休み』
余りに私的な内容にロメオ君が笑いながら操縦席に戻って来た。
「魔石の確認は?」
「いや、まだ」
ロメオ君が石のチェックを始めた。
「アースドラゴンの肺は駄目だったって聞きましたけど」
「浮かないことはないんだけどさ、半端な感じなんだよね。いっそ個人で使えるぐらい小さければよかったんだけど」
僕は棟梁に発注した小型の飛空艇の話をした。
「うちでも何隻か買えないかな?」
「なんに使うの?」
「冒険者の移動に便利かなと思って。獲物がいる場所まで案内する業務とか、ポーターの仕事とか、馬車よりいいと思うんだよね。スプレコーンは森が深いから。馬車でどこまでも入っていけるわけじゃないから」
「今作って貰ってるので、試験的に運用してみたら? いきなり量産ってわけにはいかないだろうし」
「うん、じゃあ、そうさせて貰おうかな」
しばらく新型の話題で盛り上がっていたら、学校の話題になった。
「学校?」
「もうすぐ完成するみたいですよ。ほんとはもう開校してる予定だったんだけど。二ヶ月遅れかな」
「いつの間に……」
「エルネストさんも出資してるんですけどね」
「そうなの?」
「蔵書関係はほとんどそうじゃないですか? 複製士を大量に雇って教科書作り、お姉さん頑張ってましたけど」
「なんだか迷惑の掛け通しだな」
「でも、そうなると、みんなをちょくちょく召集できなくなるんじゃないですかね」
「そうだね」
こんな遠出もしばらくできなくなるかもしれないな。
「いよいよリオナ操縦士が現実のものに……」
「リオナちゃんには作図して貰わないと」
「そうなると残ってるのはロザリアとナガレとアイシャさんだけだけど……」
「ロザリアもナガレも機械大丈夫かな?」
「動かすだけなら大丈夫じゃないですか。でもナガレの場合、魔力の補充はどうなるんでしょう? 直接魔石から抽出した方が効率いいのかな?」
「いっそヘモジとオクタヴィアにやらせるか。自動操縦の番ぐらいできるだろ?」
「結局、誰かが貼り付くことになると思いますけど。いっそのこと、アイシャさんでは?」
「やってくれると思う?」
「思わない」
結論は出た。
あの人は一見サボっているようだが、実はいつも人知れず気を張って周囲を警戒しているのだ。精神構造が人族とは違うようで、それをまるで苦とも思っていないのだ。
あの人に仕事を振るというのは、却ってこちらの隙を生むことになる。獣人の索敵能力だけでも充分なのだが、リオナに探索を任せるとなると、警戒はやはり薄くなると言わざるを得ない。オクタヴィアに主人の半分も堪え性があれば、勘定に入れられるのだが……
夕食を済ませると、僕は夜に備えて休ませて貰った。
目覚めたときにはどこを飛んでいるのかさっぱり分からなくなっていた。
申し送りをするときに地図で現在の予想位置と方角を確認した。
ご丁寧に翌朝の到達予定位置が既に書き込まれていた。
星を見て改めて方角を記憶し直すと、僕はロメオ君と別れた。
テトには夜通し頑張って貰うが、何か起きるまでは隣りの席で寝ていて貰うことにする。
自動航行用の魔石を確認する。
まだ六割ほど残っていた。『浮遊魔法陣』用の魔石もほぼ残っている。このままで問題ないだろう。
念のために周囲を索敵する。
小動物の微かな反応だけがあった。
「大物はいないか」
格納庫も静かなものだ。
こりゃ、退屈な時間になりそうだ。
そう言えば闇竜というのは、どんなものなのか? 竜というのだからドラゴンの下位だと思うのだが。
ロメオ君が置いていった『魔獣図鑑』で確認する。やはり見掛けはアジ・ダハーカに似ていた。でも大きさはアジ・ダハーカの比ではない。やはり竜は竜だ。火竜と大きさは変わらない。ドラゴン級のアジ・ダハーカに比べたら首一本分の大きさもない。
「不死属性もないし…… 警戒するのは毒だけだな。問題は数…… あ、戦うのはうちじゃなかった」
見てるだけか……




