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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第九章 遅日と砂漠の蛇
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春の嵐(道楽)15

 裁判の傍聴に来たはずが、なぜか、闘技場にいた。

「なんで?」


 ほんの数分前のことだった。

「近衛騎士団の気概を見せた者に罪一等を減ず!」と国王自らが高らかに宣言したのだった。

 勿論、重罪犯はその限りではないが、前線送りになる連中には、魅力的な申し出だった。

 身分も財産も剥奪された彼らにとって、残されているのは近衛騎士団の籍だけだ。ただの犯罪者として前線送りになるか、騎士団預かりで前線送りになるかでは大きな違いがある。

「奴らがどんなに悪党でもな、優秀なスキル持ちの家系であることには変わりはない。古くから今日まで国家を支えてきたのは伊達ではないのだ。絶やすには惜しい。スキルと天秤に掛けても救いようがないからこうなったわけだが。最後のチャンスだ。罪は誰でも犯す、だが、そこから立ち直れるかは本人次第だ。すまんが、お前には出しになって貰うぞ」

「いつも言ってますが、人材はいるんだから、外部からわざわざ呼ばないでくださいよ」

「そりゃ、駄目だ。お前は面白いんだから」

 面白いって…… そんな理由でか。確かに、王都で冒険者は珍しいだろうけど。

「ところで持ってきたか?」

「やっぱり押収品は食えませんか?」

「さすがに、周りが嫌がってな。ヴァレンティーナに頼んだんだが、お鉢がそっちに回ったようだな」

「ちゃんと四種類持ってきましたよ」

「ん? 三種だろ? アイス、スノー、フェイク」

「二、三日前にアースドラゴンを狩ってきたので」

 王様が豪快に笑いしだした。

「ほれ見ろ、お前は面白い!」

「さあ、腹ごしらえの前にもう一働きするか」


「お前たちの相手は、近衛騎士団長と副団長、それとお前たちに大きな被害を与えられたスプレコーンの領主、それと同じくスプレコーンの冒険者のひとり、知る者もいよう、今年の武闘大会優勝者だ。この四人を相手に後ろの入場口を突破した者にのみ、罪一等を減して、騎士団在籍を認めるものとする」

 破天荒にもほどがある。

 何を企んでいるのか、いないのか。この面子の弱点は明らかに僕だ。

「エルネストだけでも充分なんだけど、問題はそこじゃないから。自分の所に来る連中だけ相手してればいいわ」

 ヴァレンティーナ様はそう言って、刃引きされた剣を構えた。

「うーん、見るからに僕を見る視線が多い」

 仕方ないので僕も構える。今回はいろいろ無礼講なので、盾はなしだ。

「馬鹿よね。ドラゴンとタイマン張る相手を選ぶなんて」

「団長たちを選ぶ方が馬鹿でしょ。ヴァレンティーナ様だって一刀両断しちゃうでしょ?」

「真っ二つにはしないわよ」

「わしらの相手はいないようじゃ。こりゃ、楽できそうじゃな」

「気概のないやつらですな」

 案の定、僕は人気者だ。

 でも今回は、魔法ありの無礼講だ。召喚獣は禁止されたが、会場壊さない程度に好きにしていいとお達しだ。

 ここは少しでも相手を減らそう。

 僕は地獄の業火を身に纏った。

 はったりだ!

「…… 減らない」

 どうせ、三下ですよ! 無役の冒険者ですよ!

「なんか、むかついてきた」

 僕はこっそり衝撃波を放った。

「あ、やり過ぎた」

 僕を狙っていた甲斐性なしが五人ほど吹き飛んで、数人が跪いた。

 堪えた連中は十人ほど。盾に結界をしっかり張り巡らせている。

「おいおい……」

「エルネスト、相手は人間よ。ちゃんと加減しなさいよ」

「これじゃ、近づく前に全滅だな」

 お、侵入ルートをずらす奴が現れた。遠距離戦は不利とみたか。

 そうだ、みんな他に行っちまえ。

 却ってがむしゃらにこちらを狙ってくる奴がいる。

 結界を張ったら砕かれた。

『結界砕き』持ちか。

 ではドラゴン張りの多重結界を。

 お、弾かれてる。驚いてる、驚いてる。

 ヴァレンティーナ様に斬りかかった奴が返り討ちにあって倒れた。

 よくよく見るとヴァレンティーナ様を標的にしている連中のなかに先日、北の港でやり合った連中が混ざっていた。僕を避けてのことだとしたら少し嬉しい。切り落とした腕も戻ったようだし、精々頑張ってくれたまえ。

 まだ向こうのふたりに殴りかかろうという者は現れない。

 ここまでやってこの差は気に入らない。

 まだまだ甘く見られているということか。

 僕は魔力を消した。そして消えた。

 僕は奴らの視線を確認した。

 僕が見えているのはふたり。なかなかどうして、盗賊に荷担していたくせにやれる奴もいるじゃないか。でも僕に掛かってくるようじゃ駄目だ。

 例え負けても団長や副団長に挑むべきだったのだ。

 僕は彼らの前に置かれた甘い罠だ。

 あの王様には本気で救済する用意がある。でも、見込みのない奴を救済するほどお人好しではない。

 例え負けても団長に挑むぐらいの気概がなければ、そもそも救済対象にはなり得ないのである。


 僕の姿を捕らえられない奴は皆感電して眠って貰った。装備に耐性があっても、直接首筋に触れられては防ぎようもなかろう。

 見えているふたりは僕を素通りして入場口に向かっていた。こっちが見えていないと思って結構大胆だ。

 でもふたりは泥の池にはまって動かなくなった。

 感電させてやろうとしたら、武器を降ろして白旗を揚げた。

 僕の分担は終った。

 ほぼ同時にヴァレンティーナ様も掃討が終った。

 結局、通過者はゼロであった。

「情けないにもほどがある」

 団長が嘆いた。


 夜はこぢんまりと身内だけで晩餐が行なわれた。

 そしてドラゴンの肉の食べ比べが行なわれた。


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