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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第九章 遅日と砂漠の蛇
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春の嵐(待避)2

 空の旅と言えば飛空艇。まず、棟梁のところに出立予定を知らせに行くことにする。マギーさんから情報が行くだろうが、船を出す準備もして貰わないといけないから、工房に顔を出しておく。

 新造艦とかいろいろ見たいしね。

「こんにちは、棟梁」

「何が『こんにちは』だ。まだ、『お早う』の時間だぞ」

 こんな朝から、工房の専用ドックは作業員で一杯だ。

「うわっ、満杯だ。今、何隻あるんです?」

「新造艦が二隻。改造が五隻、外で搬入待ちが三隻だな」

 一番手前の舟台に目的の新造艦が二隻あった。

「手前がミコーレ皇太子の船だ。婚礼の引き出物だからめでたい色と言う注文であれだ」

 白地にアクセントで赤が入っている。

「式が開けたら砂漠仕様に塗り替えるそうだ。どうせ両家が統合されたら新しい家紋を入れねばならんからな」

「隣がガウディーノ殿下の?」

「ま、まあな」

 真っ赤な船体だった。まるでヴァレンティーナ様の一番艇のようだった。

「職務で使うんじゃないんですかね?」

「わしもそう思ったんだが、赤がいいらしい」

「あっちは献上した船ですよね? 戻って来てるんですか?」

「皇太子殿下が乗るそうだ。三男が手に入れたから、序列的に仕方なく、譲られたのだろう」

「装甲厚くしてます?」

「よく気付いたな。防御に関してはこの国一番の船に仕上げたつもりだ。その分、魔石の消費も馬鹿にならんがな。王家には優秀な魔法使いも多くいるから、撃沈さえされなければ問題なかろう」

「新型の障壁も?」

「ああ、オプションだが、付けることになってる。そうだ、その障壁だが、タイマーを導入することになったぞ」

「タイマーですか?」

「障壁が強力すぎるとして、利用期間を定めることになったんだ。オプションを導入した船はうちの商会で二年に一度、整備点検を受けることになるらしい。点検を受けないと期限後から紋章が発動しなくなる仕組みが導入されるようだ。敵対勢力に奪われることを想定しての安全対策らしい。若様の船は実験船だし、しょっちゅう手を加えているから例外にしてもよかったんだが。だからといって万が一がないとも限らんしな。まあ、どうせわしらが管理しておるわけだし、タイマーは入れさせて貰うことにしたぞ。その代わり、解除キーだ」

 僕は棒状のいぼいぼが付いた鍵を貰った。

「それをコンソールに刺せば、ロックは解除される。ただし、他の船には使えんぞ」

「合鍵はうちの工房と、詳しくは言えんが、どこぞの金庫にバックアップがあるのみだ。うちの専用スタッフだけが扱うことになる。それは、例外だ。なくすなよ」

「うん、ありがと」

「まあ、普段の整備でやるから、使う機会はないだろうがな。で、今回の改造点だが、例の停泊システムの完成版を導入した。空に停泊するなら使ってみてくれ。それと、頼まれていた新型の投光器だ」

「ああ、あれね」

「用意して貰った光の魔石と純度の高い水晶レンズに取り替えておいた。二、三割、光量が上がっているはずだ。あんな物どこで手に入れた?」

「内緒。教会とはやり合えないので」

「水晶だけならどうだ?」

「それならいつでも」

「よし、決まりだ。後で材料を揃えさせよう」

「了解」

「後は煙幕弾。正式採用が決まったぞ」

「これだけ船が増えてくると、魔物と遭遇する機会も増えるでしょうからね」

「標準装備になる。船体後部の甲板に筒が据え置きになる。弾はこれだ」

「丸いですね」

「筒で落とすだけだからな。催涙効果のある煙幕弾だ。自分たちで吸うなよ。とりあえず改造したのはそれぐらいだな」

 船の出港予定を三日後に定めて、お駄賃稼ぎのミコーレへの物資運搬も含めて、準備して貰うことにした。今回はフィデリオを含めた家族全員を連れて行くのでいろいろ準備も必要だ。



「行き先だけど、まずミコーレに行け。例の報酬の土地、決まったようだからついでに見てくるといい。誰か道案内が付くだろうが、どうせ時間があるんだ、ついでに土地の整備でもしてくるといい。帰る頃にはこっちも解決しておくから」

「ほんとに来るのかな?」

「できれば首根っこを押さえたいな。そうなれば、もはやぐうの音も出まい」

「最大の敵はロッジ卿といったところね。たぶん丸く収めてくるんじゃないかしらね」

「奴らを最低でも前線送りにしないと気が済まないわよ!」

「それはもう確定事項でしょ? ロッジ卿もガウディーノも裏切り者には容赦しないタイプだから」

「だからそれをわたしの手で!」

「そうなれば、あんたやあんたの家族に対して遺恨が残るでしょう。卿はエルネストに借りがあるのよ。と言うかお気に入りなのよ。あんた同様、奴らに傷つけさせたりしないわよ」

「あーっ、もう」

 姉さんが癇癪を起こした。

 だから僕は笑った。

「何よ!」

「姉さんはもう分かってるから、癇癪起こしてるんだろ? 諦めた方がいいよ」

 ヴァレンティーナ様がにこりと笑った。

「そうね。期待せずに待ちましょう」

 とりあえず、残していくこの町に大きな被害が出ることはなさそうだ。心配があるとすれば誘拐などの姑息な手段だ。僕の命と引き替えなどという事態はないようにして貰いたい。間違ってもだ。

 長老には特によろしくと念を押しておいた。

「見たことのない連中には近づかないように子供たちには徹底させましょう」

 敵は死に体であっても北部の大貴族だ。優秀な部下を囲っているに違いない。名無しさんレベルの刺客がいてもおかしくはない。

 ユニコーンの世話もいつになく警戒するように言っておいた。なんなら数日、来訪を止めて貰ってもいいが、その辺りの判断も獣人の沽券に関わるので長老の判断に一任する。



 数日後、僕たちはこれ見よがしに町を発った。

 これで僕が町にいないことが知れるだろう。

 町を襲う理由が更に低くなったと思いたいが。いた方がよかったなどという事態になるのは願い下げだ。信じよう。姉さんたちなら守ってくれる。


「随分広くなったわね」

 アンジェラさんがキャビンを見て言った。

 初めて空を飛んだときはまだ飛行船や第一世代だったから、飛空艇でこの大きさは驚きだろう。エミリーもリオナと既に船のなかを探検中である。

 赤ん坊と一緒のアンジェラさんにはフィデリオの授乳や夜泣きも想定して別室を用意した。一階貨物室に、パレットに乗った、消臭防音結界の付いた小部屋だ。水道も近くに完備だ。

 急ごしらえだったが、よくできていた。

 棟梁にオプションの一つとして進言してみようか。貨物室を必要としない人にはこういう居住スペースもありかも知れないから。

「家があるのです」

 男は立ち入り禁止の女の園に早変わりした。

 フィデリオは今はキャビンで絨毯相手に笑っている。

 機嫌がよくてよかった。

 ヘモジとオクタヴィアはモンスターを回避すべく、操縦室に隠れている。

 母親がお茶の用意をしている間、揺れで落下しないように絨毯の上に転がされているのだが、余り動こうとしない。やはり床の揺れが気になっているようだ。

 好奇心旺盛な彼は、アイシャさんを見上げる。このふたりお互いつっけんどんなのだが、妙に通じるものがあるらしく、アイシャさんの微笑み一つでメロメロになるのである。まるでコントのようだ。

 フィデリオは女性陣に任せて平気だろう。

 手の空いている者からお茶に呼ばれていく。

『あと五分程で空中庭園です』

 テトの声が伝声管から聞こえてきた。

 アンジェラさんはビックリして周囲を見渡した。

「そう言えば三人とも見たことありませんでしたよね」

 ロザリアはフィデリオを抱き抱えて言った。降下態勢である。お茶会は一旦中止。アンジェラさんも席に着く。フィデリオがお母さんの方がいいとぐずったので僕が中継して手渡した。

『見えてきたよ』

 森と砂漠の切れ目の内側に大きな池と巨大な建造物があった。

 アンジェラさんもエミリーも目を丸くした。

「あの池が魔石で作ったという人工池……」

「きれい……」

 フィデリオも外を覗いたが、目の焦点は透明な雲母ガラスにあっていた。

『誘導来ました。降下します』


 三人には初めての場所なので、時間を気にせず見学して貰った。姉さんたちの力作だ。堪能して欲しい。

 そして一通りの見学が済むと、いよいよ砂漠に突入である。

「わぁあ」

 感嘆の声を上げた。

 ユニコーンの白い群れが森のなかを猛スピードで通り抜けた。


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