閑話 パスカル君の災難4
「なんだありゃぁああ?」
「ト、トロール?」
ふたりは愕然とした。
僕は以前、森で襲われたとき、ヘモジの正体は見ているから驚きはしなかった。
釣られたかのようにサンドワームが砂のなかから次々現れた。
即行で一匹目の頭が潰された。
「ナーナナー」
あ、ポージングが入った。
エルネストさんの顔を見たら、苦笑いされた。
「すっげーっ、すっげーっ!」
ファイアーマンは子供のようにそれしか言わない。
「あんな大きな召喚獣だなんて……」
ビアンカはようやくエルネストさんの凄さに気付いたようだ。
エルネストさん、腰が低いから誤解されるんだよね。ほんとは凄腕なのに。
召喚獣の能力は召喚者の実力に左右される。正確には召喚者の能力次第で召喚できるレベルが決まるわけだけど。
ヘモジの圧倒的な強さを見れば、エルネストさんの凄さが分かるというものだ。
ヘモジが二匹目を片付け、三匹目を蹴り飛ばした。
「あーっ、ずるい!」
「わたしもやりたかったのにッ!」
ナガレさんがヘモジを見て叫んだ。
「ここから狙ってやる!」
どこから出したのか五叉の槍を構えた。
「魔力が勿体ないぞ」
レジーナさんに止められた。
「仕方ないなー。今度はわたしにやらせてよね」
「分かったからその物騒な物を仕舞え」
何? あの髪飾りのナガレという子はあの槍で何をしようとしたんだ?
建物の工夫たちが仕事を中断して、やんややんやと囃し立てた。
呼応するかのようにヘモジは周辺から集まってくる敵を次々、撃破していった。
僕の連れは茫然自失。
確かに、誰がどう見ても目の前のスペクタクルがひとりの魔法使いの仕業とは思えないだろう。また一匹潰された。
「ナーナ」
どうやら終ったようだ。ヘモジは消えた。
そしてエルネストさんのすぐ側に再召喚された。
「ナーナナー」
また、ポージングだ。ぶれないな。
「お、お前、すげー奴だったんだな!」
ファイアーマンが小さなヘモジを掬い上げた。
「ナーナ?」
「強いな、お前」
「ナナ、ナーナ」
「おおっ、そうか。ちょろかったか」
「ナーナ」
「すっげーな」
なんだか会話がはずみ始めた。
「物資の積み卸し、完了しました」
作業員がレジーナさんに報告した。
船の方を見ると、荷物がコンテナごと積み下ろされていた。
「空のコンテナ持って帰ってくれ」
「了解」
「ねえ、あなたの兄弟子って、なんなの?」
ビアンカが小声で尋ねてきた。
「なんだと言われても……」
「こないだ武闘大会で優勝したとか言ってなかった? 騎士じゃないの?」
「あッ! そうだった。エルネストさん、武闘大会優勝おめでとうございます。今思い出しました」
「ああ、あれね。ありがと。でも忘れて」
「へ?」
「え?」
「僕は冒険者だから」
それから三十分ほどして、僕たちは帰路に就いた。
格納倉庫から直通の転移ゲートで僕たちはいきなりエルネストさんの家に出現した。
「お帰りなさいませ」
ワープ部屋から出ると使用人の少女が出迎えてくれた。
「兄ちゃん、風呂入りたい」
「僕も。砂でじゃりじゃり」
そう言ってピオト少年が頭を振ると砂が床に落ちた。
浄化の魔法が掛けられた。
「全員で行っといで。今用意したげるから」
年長の使用人頭の女性が言った。
「リオナはもうきれいになったです」
「あんたのためじゃないよ。お客さんのためだろ。ゆっくりして貰うには風呂が一番なんだ。さっさと着替えを用意して、行っといで」
「なんで使用人に指図されなきゃいけないんだよ? 浄化しちまえば大丈夫だろ?」
客間に通された途端、ファイアーマンが愚痴った。
ビアンカはリオナちゃんが普段使っていない空き部屋に通された。
「彼女はあのレジーナさんとも組んでたことがある冒険者の大先輩らしいよ。だから使用人というより、エルネストさんたちの保護者役みたいなもんじゃないのかな。きっと」
「ってことは、あの人もレジーナさんレベルか?」
「じゃなきゃ、一緒のパーティーは組まないんじゃないかな?」
「逆らったら死ぬな」
「死ぬね、間違いなく」
「さっさと着替え準備しようぜ」
大浴場という風呂、サウナのようなものらしいのだが、それに入りに行くために僕たちは長い廊下を渡っていた。
「これって……」
僕たち全員が首を捻った。
「この廊下もエルネストさんちの一部なんだよね?」
「そうだよ」
ピノ少年が言った。
「廊下の先にあるのはあれだよね……」
目の前にそびえるガラス張りの建物。
ガラス代だけでいくらするんだろう?
「あれは?」
「あれも兄ちゃんのだぜ。獣人たちのために建ててくれたんだ。今じゃ人族も利用してるから関係ないけどさ。ああ言うの、『憩いの場』て言うんだってさ」
「あっちにも続いてるな。あの建物は?」
ファイアーマンが指差した。
「『銀花の紋章団』のギルド本部だよ。結構でかいんだぜ。俺も将来、冒険者になってあそこに入るんだ」
「『銀花の紋章団』のギルド本部……」
伝説のギルドの総本山……
「因みにあっちには俺たちが通う道場があるよ。兄ちゃんが優勝したせいで入門者が増えちゃって困ってんだ」
「問題はなんで廊下で全部繋がってるのかってことなんだけど?」
「だって、全部兄ちゃんちだもん」
「え?」
「ええ?」
思わず一周ぐるりと見渡してしまう。
「あの道場の先にちょこっと見えるだろ? あそこに城があるんだ。兄ちゃんの爺ちゃんの城なんだけどさ、あれだけは兄ちゃんちじゃないんだ。爺ちゃん生きてる間は爺ちゃんの物なんだって」
「爺ちゃん?」
「魔法の塔で一番偉い人なんだって。レジーナ姉ちゃんより強いなんて、信じらんないよな」
頭が真っ白になった。隣を歩くファイアーマンも言葉を失った。
「魔法の塔で一番偉い人って……」
「兄ちゃんは爺ちゃんて呼んでるから名前は知らない」
「アシャンだよ。アシャン老」
テト君が教えてくれた。
完全に固まった。
並行して走る廊下に女性陣に囲まれたビアンカがいた。たぶん同じような話を聞かされたのだろう。彼女も突然立ち止まった。
「どうしたの? 具合悪いの?」
ピオト少年がファイアーマンを気遣ってくれた。
「すまん、大丈夫だ」
「早く行こ。遅くなると仕事帰りの人たちで混むからさ」




