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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第八章 春まで待てない
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エルーダ迷宮暴走中(メルセゲル・ゴースト・オルトロス編)28

 居館のなかもやはり兵士が溢れていた。

 玄関ホールの扉を開けるといきなり見張りに見つかった。

 見張りを即行で倒して厨房スペースに緊急待避する。

 現実なら使用人たちが朝から晩までひしめきあっているところだが、幸いこの城に使用人は見当たらない。

 厨房に、食器の洗い場、使用人の控え室、食糧倉庫やらを確認しながら進む。見逃すと後ろから来られるので、すべての部屋を確認しながら、先へと進む。

 ゴーストがいなければこんな苦労はしないのだが。

 リオナもオクタヴィアも今回は分からないと言う。

 特有の微かな匂いが、城の建材の匂いか、花瓶に生けてある花の匂いか、何かは知らないが、紛れて判別できないそうだ。

 個室に収まっているからなのか、そもそも城内にいないのか?

 突き当たりの裏階段に見張りがいた。

 岩の地肌が露出していた。

 一瞬で仕留めて上階に上がるが、見た感じ使用人たちの生活空間のようだった。用はなさそうなので引き返した。

 念のために階段前の通路を塞いで厨房に戻り、その先の長い通路を進んだ。

 既に若干迷子状態である。

 通路は真っ直ぐで隠れる柱もない状態だった。通路の奥からは丸見えだった。

 迫ってくる敵は剣と盾を装備していた。狭い通路で剣は兎も角、盾を装備されると厄介だ。どうしても戦闘が長引いてしまう。そうすると長い通路に増援が次々現れ、通路が塞がれることになる。

 しかも敵のグレードがこっそり上がっているからいやらしい。

 

『メルセゲル・ガーディアンズ、レベル五十五、オス』


 レベルは一緒だが、装備はワンランク上だった。盾は近衛らしく豪華なものになっていて、それなりの耐魔付与が施されていた。

 こちらの敵ではないのだが、それでも急所を隠され、余計な魔力を消費させられることに変わりがなかった。

 既に芋洗い状態。面倒この上ない。

 ピュイー。情けない笛の音が廊下に響いた。

 オクタヴィアが『使役の笛』を吹いた。

「敵は上。上の階の敵を討って。早く行く」

 メルセゲルの一部がオクタヴィアの命令を聞いて、隊列から離れだした。

 最寄りの兵士詰め所からの階段を上にあがっていった。

 驚いた仲間は造反者を背中から刺して、あっという間に乱戦、小競り合いが始まった。

 僕の首の後ろの方で甘いクッキーの匂いがした。

 オクタヴィア…… 大人しくしてると思ったら…… アイシャさんに怒られるぞ。

 オクタヴィアがマイペースでも、敵は慌てふためいた。

 鉄壁な盾防御も後ろが気になってはこちらの相手もままならない。

 ジリジリと部隊は後退していく。

 ピュイー。

「敵は上。上にいる敵を討って! 阻む者はみんな敵!」

 オクタヴィアがリュックから身を乗り出して命令する。

 しゃべる度に甘い匂いを振りまいた。

 ゲフッ。げっぷしてリュックのなかに沈み込んだ。

 敵に新たな造反者が出た。

 もはや僕たちの相手をしている場合ではなくなった。

「どうしたんだ? 急にやる気になって?」

 僕はオクタヴィアに尋ねた。

 するとリュックから首を出して言った。

「目が見えないと危ないから。早くする」

「本当は?」

「クッキー缶空っぽになった。帰りたい」

 よほど「目薬ちょうだい」が恥ずかしかったのか、これも一種のストレス食いか?

「寝てろ」

「そうする」

 上階で刃を交わす音、鎧が激しく擦れる音がする。

 一方、僕たちの前面に立つ敵はもはや数体しかいない。

 僕とリオナとアイシャさんの剣で一蹴され、廊下がようやく静かになった。

 僕たちは最寄りの階段から騎士の間に上がり、部屋を一つ一つ調べた。

 共倒れになった兵士の遺体が至るところに転がっていた。

 やがて遺体が消滅して装備品だけが残ると、僕たちは戦利品の回収を始めた。

「装備どうする? ちょっとは使えるかも」

 ロメオ君が言った。

「これだけでいいじゃろう」

 部屋の奥からアイシャさんが、数ランク上の装備を持ってきた。指揮官クラスの装備だった。

「かっこいー。これ欲しいかも」

 僕は第一印象を述べた。

「大きすぎるのです」

 確かにメルセゲルと僕では体格が違いすぎる。でも、格好いい黒光りする鎧だ。

「デザインだけ真似して作るんじゃな。材質も今一つ心許ないし、こいつは売り払うぞ」

 そう言って他のガラクタと一緒に回収袋に収めた。

 さすがに詰め所だけあって、武具が山のようにあったが、高値で売れるのは収納箱に収まっていた数点だけだった。

 装飾品はそれなりに高価な物が置かれていたが、傷だらけの銀食器レベルを超えるような物はなかった。

 通貨代わりの魔石が結構転がっていて、地味に収益を上げることに貢献した。


 騎士の間の物色が済むと僕たちはまた一階に戻り、廊下を更に奥へと進む。

「あったのです」

 豪勢な階段があった。明らかに王座へと続く階段だ。登り切るとそこには下の喧噪など気にしない見張りがいた。凍らせて瞬殺すると遺体を階段下に引きずり込んだ。

 兵士は通路の角々にしかいないようだ。

 正面は控えの間だ。落ち着いた鶯色と白地の壁の部屋だった。アーチ型の天井には絵画が描かれていた。

 右側の扉はすべて鍵が掛かっていて開かなかった。

 左側を行くとだだっ広い祝宴の広間があった。豪勢な装飾と絵画に彩られたとても美しい部屋だった。幾つもの彫像が窓と窓の間に並んでいた。

 窓の外を見ると、町の眺望を望むことができた。

 でも肝心な物は見当たらない。

「何もないわね」

 部屋の豪華さとは裏腹に持ち出せる物は何もなかった。

 さて、控えの間の開かずの扉の向こう側の確認である。

 ずらりと並んだ扉のなかから奥の一つを選んだ。

 索敵した限り、敵はいなさそうだった。罠部屋の可能性も考えつつ、強引に扉を開けた。

 豪華な扉を破壊するのは気が引けたが致し方ない。

「このドアノブ、回収できるかしら?」

 ナガレが言った。

 みんなの興味はたった今壊した金でできたドアノブに向けられた。

 僕は隙間からなかを覗く。

 そこは玉座の間だった。上階からの吹き抜け構造だった。僕たちが顔を出したのは三階部分の桟敷席だった。

 祝宴の広間もすばらしく豪華だったが、ここは輪を掛けて凄かった。

 高い天井には壁画と巨大なシャンデリア。壁はすべて金張り、青と白と赤いタイルが美しいコントラストを描いていた。大小様々な絵画が壁一面を埋め尽くしている。回廊にぐるりと囲まれたタイル張りの床までもが美しく輝いていた。

「嗚呼、こういう城もいいよね」

 溜め息が出るほど美しいとはこのことだ。

 ヴァレンティーナ様の館も豪勢だと思っていたが、この城を見ると至って地味なものだと分かった。掛ける予算が百倍ぐらい違う気がする。

「寒そうなのです」

「人がいないと寂しいよ。使用人五十人ぐらい雇わないと」

「好みではないな」

「ナーナ」

「大きな浴場がないんじゃねぇ」

 皆一様に否定的だった。

 僕たちは一旦外へ出る。フロアーへの入り口が下にあるようだが、今は上を目指すことにする。恐らく一階の長廊下の突き当たり、階段の更に奥に王座の間に通じる入り口があったのだろう。まるで気付かなかったが。

 王座まで行ったら、扉を確かめに戻ればいいだろう。


 階段を上ると見張りがいたのでこちらも仕留めておく。

 索敵した限り、居住空間だからか、兵士の数は疎らだった。

 また控えの間があった。下の控えの間と違って若干地味に押さえられていた。大きな絵画が一枚あるだけで落ち着いた空間になっていた。

 右側にはたった一つだけ扉があった。造りから言ってこの扉の先が王の座に続いていると思われた。

 取りあえず左側を、左回りに攻めることにする。

 突き当たりには一階の厨房から続いているであろう裏階段があった。恐らくこの下が王家の家族のフロアーになっているのだろう。そちらの探索も左のエリアを済ませてからにする。

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