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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第八章 春まで待てない
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エルーダ迷宮暴走中(クヌム・メルセゲル・ゴースト編)26

 改めて三十四階層攻略である。

 本来であれば羊頭と蛇頭とゴーストのフロアーである。

『エルーダ迷宮洞窟マップ・下巻』の情報通り、僕たちは順調に攻略を進めていた。

 地下墓所でも何でもない、城に至るまでの城塞攻略が基本ルートになっていた。下町から高層に移ってきた感じだ。意外なことに多くの冒険者がひしめきあっていた。

 人気のフロアーらしかった。

 今までの旅はなんだったのだろうか? 十二氏族の欠片もない。

 他の冒険者たちの対策を覗いてみた。大体、情報に準拠したスタイルのようだった。

 どのチームもクヌム対策に遠距離職を多めに加えている。盾持ちは対魔用装備で固めている。メルセゲルには毒と盲目解除用の薬かスクロールで間に合わせているチームがほとんどだ。

 ゴースト対策には皆銀装備を用意していた。

 このフロアー、回復役がいるかどうかで戦局は大きく変わる。

「競争率高そうね」

 ナガレが言った。

「様子見だからいいんじゃない? 別に」

 その通り。今更戦う必要のない連中である。

 ではなぜ他の冒険者に人気があるのか?

 それは魔石である。このフロアーの連中は、自身の変化による物だけではなく、魔石をドロップするのだ。しかもたまーに大きな石も持っていたりするのだ。

 なんというか、お得な感じがするのである。

「まあ、通貨にしてる連中だから。持っていてもおかしくないな」

 もしかして正規ルートの町の連中も持っているのかも知れないな。

「楽ちん。いいこと」

 オクタヴィアが悠々と通路を先に行く。ヘモジとふたりでまるで子供の散歩だ。

 張り詰めていた僕も、これだけ混雑していると気が抜けてしまう。

 既に露払いが済んでいる道を行くだけなのだからそれもやむなしと言うところだろう。

「救援要請!」

「です!」

 オクタヴィアとリオナが横道を見つめた。ヘモジもじっと見ている。

 僕も遠くを見る。

 すると敵に囲まれているパーティーを発見する。たまたま巡回とかち合って挟まれてしまっているようだった。冒険者と敵がほぼ同数で戦っていた。

 しかも、別の巡回が近づいていた。

 更に運の悪いことに、仲間の半数が盲目にされている様子だった。前衛の動きが悪すぎる。とても危ない状況だった。

「加勢する!」

「行くのです!」

 リオナを先頭にナガレ、ヘモジが続いた。オクタヴィアも続いた。

「罠に気を付けろ!」

 このフロアーの罠は槍攻撃である。壁、天井から突き出てくるものである。罠が仕掛けられている床を踏むと発動する。

「次の角、左側にあるよ、気を付けて」

「分かったのです」

 情報通りそこに罠があった。


 そして見つけた。

「加勢します!」

「助かる!」

 水魔法で遠距離攻撃をネチネチと続けるクヌムをナガレとロメオ君が相手する。瞬殺である。

 ネチネチした攻撃が止んだことで、後衛の手が空き、メルセゲルと接近戦を演じていた前衛に手を貸すゆとりができた。

 ゴーストはいなかった。恐らく一番危ない敵を最初に処理したのだろう。

 賢明な判断だった。

 そんなわけで残っているのはメルセゲルだけになった。

 ロザリアが魔法を掛けて前衛の状態異常を解除した。

 混戦が解除され隊列が組み直された。

 後は押せ押せである。

 巡回がすぐそこまできていた。

 早めに片付けないと。

 オクタヴィアが叫んだ。

「目が見えない! 助けて」

 はあ? 何やってるんだ?

 そこには瀕死のメルセゲルがいた。

 てっきり死んでいるものと思っていたのだが、彼らはとどめを刺していなかったようだ。

 僕は動けない。次の増援に対処するため先行しているリオナたちと冒険者とそれを回復しているロザリアとをカバーするために今の立ち位置は変えられなかった。

「笛を吹け!」

「笛、笛……」

 オクタヴィアは首に掛けた笛を両手で押さえながら目一杯吹いた。

 ピュイーッ!

 メルセゲルの動きが一瞬止まった。

「敵に命令しろ! オクタヴィア」

「目薬ちょうだいッ!」

「え?」

「は?」

「ん?」

「ナ?」

「何?」

「馬鹿め」

「ちがーう! そうじゃなくて!」

 メルセゲルが凍り付いた。

 アイシャさんだった。

 ロメオ君の雷撃が増援に炸裂した。

 クヌムとメルセゲルが一瞬で壊滅した。

 抜けてきたゴーストにリオナは接近すると『霞の剣』を振るった。

「索敵」

「ナーナ」

「もういないわよ」

「終わりなのです」

 振り返るとロザリアが苦笑いしていた。助けた冒険者たちが僕たちに羨望の眼差しを向けていたのだ。と思ったら違った。

「か、かわいー」

「可愛すぎる」

 ヘモジが渡した万能薬を舐めているオクタヴィアに女性陣が詰め寄った。

「ねえ、もう一回言って? 『目薬ちょうだい』て」

 オクタヴィアは真っ赤になって顔を肉球で覆った。

「『目薬ちょうだい』、『目薬ちょうだい』、ほら、言って」

「ナナ、ナナナナ!」

 ヘモジが必死にかばうが。

「きゃー、何これ? この子も可愛い。ねー、ねー。名前なんて言うの?」

 巻き込まれた。

「助かりました」

 リーダー格の男がアイシャさんに挨拶をしていた。どうやらうちのリーダーをアイシャさんだと思ったらしい。

 実際、僕は何もしてないからな。端から見るとおかしな場所でただオロオロ立っていただけのように映ったことだろう。

 オクタヴィアとヘモジが逃げ帰ってきて僕のリュックのなかに収まった。

「重い! どっちか肩に乗れ」

「ナーナ」

 僕たちは増援の分だけアイテムを回収して正規ルートに戻ることにした。

「魔石だ……」

 ロメオ君が感動している。

「感慨深いものがあるね」

「ゾンビの相手ばかりだったからね」

「あんないかれた報酬よりよっぽど嬉しいわね」

 ナガレの言葉にロザリアは本音を吐露した。

 回収されたのはクヌムとメルセゲルが四体で土の魔石(小)が四つとドロップ品で風の魔石(小)が三つと火の魔石(中)が一個だった。装備品は大した物がないので金と銀細工以外は放棄した。

「貧乏なのです」

「嗚呼!」

 僕は叫んだ。

「何?」

 全員の視線が僕の方を見た。

「いや、なんでもない」

 金塊をしまい忘れていたことを思い出した。

 出口への本流に戻ると僕たちはまたのんびり進み始めた。

 崩れた壁からたまに覗く下界の景色を堪能する。

 外の空はとてもゴーストが徘徊していいような怪しい天気ではなかった。

 どこまでも青空が広がっていた。

 上へ上へと階段を上った。

 階段を上がった先に中庭が広がっていた。

 すぐにおかしいと感じた。

 それもそのはず、ここには冒険者たちがいないのだ。

 索敵すると答えは一目瞭然、周囲の壁にはクヌムの魔法使いとメルセゲルの弓兵が警戒待機していたのだ。その数はとても一組のパーティだけで攻略できる数ではなかった。

「このルートで合ってるのかな?」

 相変わらず、立体構造には不慣れな地図だった。全員で確認するとこの下の回廊を進んだ方が安全に出口に向かえそうだった。

 僕たちは無理せず階下に降りるとそこは真っ暗な回廊だった。

「罠はないみたい」

「ゴーストの団体さんが来そうな予感」

 全員頷いた。

「なんでみんなここは攻略しないのかな?」

 思うにこの先はもう出口まで一直線だからだ。幽霊が相手ではアイテムは望めない。無駄な努力ということになる。

 だから出口に用のない連中はこの先には進まないのだ。

「行くか」

 この先に罠はない。

 敵はゴーストだ。『竜の目』も役には立たない。

 リオナやオクタヴィアはゴーストの匂いがすると言うが、それがどんな匂いなのか僕には分からない。

 僕たちは通路に足を踏み入れた。

 途端に壁からゴーストがワラワラと現れた。

「索敵するまでもなかったか」

 雷撃が放たれる。ナガレとロメオ君が容赦なく一掃した。抜けてくる敵はいない。

「ほんと何も落とさないわね」

 次々現れる敵を、排除しつつ微速前進である。

 魔力に余裕のなくなったナガレが引き下がる。リオナが魔石を補充すると本日の稼ぎが吹き飛んだ。ご利用は計画的に。

 オクタヴィアがリュックから頭を出したまま、うつらうつらし始めた。

 ヘモジが指摘するが、もうすぐ出口なので寝かせておくことにした。

 ロザリアとアイシャさんが入った。ロメオ君は後ろに下がり万能薬を舐めた。

 僕とリオナの出番がないまま、僕たちはゴールに辿り着いた。

「さあ、お昼にしようか」


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