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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第八章 春まで待てない

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エルーダ迷宮暴走中(『身代わりぬいぐるみ』製作)25

『身代わりぬいぐるみ』は一度使ったら終わりのアイテムだ。何故なら、精密な術式回路に膨大な魔力を一気に流し込むので、発動後は原形を留めないからだ。それには別の理由もあるのだが。

 従ってアイシャさんに見せるコアは実験に使った物とは別のコアということになる。コアは取りあえず予備も含めて十五個作っておいた。そして一つ破壊したので今は十四個である。

 なんでそんなに作ったのか?

 つまり、今回の物は誰でも作れるものではないということである。恐らく、マスタークラスでも術式をこのサイズに収めることはできなかっただろう。そしてこの大きさに収められなければ発動する魔力は特大魔石を使っても足りなくなっていたはずだ。

 僕の場合、完全に反則だが。

 だからこそこの世界にはこの手の物がなかったとも言える。

 食事を済ませたアイシャさんと食堂でふたりきりになると、僕は消音結界を張り、話を切り出した。

「仕組みは分かった。妾が以前使った時間を巻き戻す魔法を使い、死ぬ前の時間に遡り回復を施すということじゃろう?」

「簡単に言えば」

「そうじゃな。言うほど容易くはないな。巻き戻した時間が戻れば結果は同じ。死んだ人間を助けるなどということはできない」

「『定着』の魔法を使いました」

『定着』の魔法は以前、死霊使いの息の根を止めるためにロザリアが使った術のハイエルフ版だ。

「危険な賭じゃ」

「確かに定着させたままでは危険です。だから移すんです。ハイエルフの古い文献を読みました。成功した事例では水晶に閉じ込めたとあります」

「情報の出所が気になるところじゃが、今は置いておこう。それで?」

「文字通り『身代わりぬいぐるみ』に死んだ瞬間の時間を吸収して貰うことにしました。それで因果を相殺します」

「よく思いついたものじゃな」

「以前、リッチ戦でご友人が『アイシャさんなら死人を生き返らせられる』というようなニュアンスのことを言ってましたよね。もしかしてハイエルフにはそのための手段があるのかなと思いました」

「目ざといな。今お前が説明した通りじゃ。大掛かりじゃができないことはない」

「このコアのなかにはハイエルフの秘術が凝縮されている。でもだからこそ、ここまでサイズを抑えられたとも言えます。だから実現できたと。人族の知識では到底到達できなかった領域でしょう」

「お世辞はいい。なぜこんな危険な賭に出たのか話して貰おうか?」

「今回の即死攻撃持ちとの遭遇のせいですよ。できることはやっておこうと思いました」

「ばれたら大騒ぎじゃぞ」

「大騒ぎしたところでこれを作れるのは僕だけです」

 アイシャさんがじっと僕を見つめる。

「片棒を担げと?」

「他に話せる人がいなくて。姉さんにも話せないことなので」

「何を教えてくれる?」

「僕の秘密を」

「ようやく言う気になったか」

「大したものじゃありませんよ。幻滅しないでください」

「皆知りたがっていることじゃ」

「みんなですか?」

「お前は自分の特異性に気付くべきじゃ」

「場所、移動しましょうか?」


 書庫の最深部。僕の秘蔵書が並んでいる禁書棚のある鍵部屋だ。

 アイシャさんが目の色を変える。

「なぜ、この本がここにある?」

「有り得ない。遠い昔に失なわれたものだ。こちらは遙か西方の知識か? 確かこの国は滅んだはずじゃ。これはハイエルフの…… 宝物庫にしかないものだぞ」

 本棚にかじり付きながら言った。

「これがそなたの秘密か?」

「うーん、ちょっと違うかな」

「まだあるのか?」

「これからが本番です。これから行く場所が僕の秘密の場所です。でも、本来他人が立ち入れる場所じゃないので、なかにいるのは一瞬です」

 僕はそう言って『楽園』を発動させた。

 アイシャさんが戸惑っているのが分かる。いくらハイエルフでもいきなり身体を動かすことはできないだろう。僕は彼女の身体を支えながら、周囲を見れるように視線を誘導させた。

 そして二十秒ほどで書庫に戻ってきた。

「見えました?」

 アイシャさんは溺れていたかのように胸を弾ませながら頷いた。

「僕のもう一つのユニークスキル『楽園』です。みんなにも内緒ですよ。知っているのは姉さんと魔法の塔の筆頭アシャン老だけです」

 あれ? ジーノさんもいたっけ?

「なんだあれは?」

「魔素で構成された異空間とでも言いましょうか? 僕の秘密の隠れ家です。あそこには膨大な情報が眠っているんです。理由は聞かないでください。僕にも分からないんですから」

「宝の山だな」

「エルフの知識はあそこから拝借しました」

「取りあえず秘蔵書庫への出入りを認めて欲しいところではあるな」

「外への持ち出しは厳禁ですよ」

「分かっておる。あんな物騒なもの外に持ち出せるか」

「それで……」

「『身代わりぬいぐるみ』はわたしのハイエルフの秘蔵物だったことにしよう。効能はそうだな『フェニックスの灰』より多少マシとでも触れ込んでおくか? そうすればお前に被害は行かなくて済むじゃろ」

「助かります」

「こういうときハイエルフの肩書きは便利じゃの」

「全くです」

 あとは手頃なぬいぐるみでコアを隠せば出来上がりなのだが、さすがのエミリーにもいきなり人数分は無理だと断られた。アンジェラさんも子育てでそれどころではなかった。

 ということでみんなで買い物に行くことになった。


「ではその『身代わりぬいぐるみ』とか言う魔法具を収めるぬいぐるみが傷んでしまったので、買い換えるのですね」

「そうだ。これが入る大きさのものを思い思いに選んで欲しい。これからは全員に装備して貰うから満足のいくものを選んで欲しい」

「可愛いのがいいのです」

「ぬいぐるみは総じて可愛いものよ」

「ナーナ」

「オクタヴィアも?」

「ちょっと大きいけど、戦闘中は我慢してな」

 ヘモジとオクタヴィアはいつぞやクヌムの町で買ったお揃いの鞄をリュックの代わりに背負ってきていた。

 あのときは役に立たない代物だと思っていたけれど、功を奏した。

 雑貨屋に入ると、おもちゃのコーナーにぬいぐるみが山積みされていた。

 貴族が買うような緻密なものから、ペットに噛みちぎられることを前提にした安物のぬいぐるみまで揃っていた。

 みんな大きさに合った思い思いのぬいぐるみをチョイスした。

 僕はどうでもいいので適当に丸い胴体に顔が描かれているだけのものを選んだ。

 リオナは可愛らしい寸胴の獅子のぬいぐるみを選んだ。獣人人気ナンバーワンの骨肉のぬいぐるみと最後まで悩んでいた。

 ナガレは水色の竜のぬいぐるみを見つけるや即決した。

 ロザリアは天使の羽の生えた何かのぬいぐるみだ。僕のと怪しさでは変わらない。

 アイシャさんはオクタヴィアとお揃いで口元と足首が白い黒猫に決めた。オクタヴィアはアイシャさんに後で尻尾を増やしてくれるように交渉していた。

 ヘモジはキノコだ。ウツボカズランみたいなずんぐりしたものを選んだ。

 最後にロメオ君用だが、みんな面倒臭くなったようで僕と色違いの物にあっさり決めた。

 ごめん、ロメオ君。もう少し真剣に考えるべきだった。

 他にも船の搭乗時に子供たちに持たせるための予備も含めて、十個ほど適当に購入しておいた。


 エミリーが中心となって、『身代わりぬいぐるみ』のコアをぬいぐるみに埋める作業が行なわれた。オクタヴィアの要望通り、尻尾が足された。


 僕は剣の腰ベルトにアクセサリー代わりに吊り下げた。女性陣は腰のポーチベルトに括り付けていた。ヘモジとオクタヴィアは鞄のなかだ。

 取りあえず、やるべきことは終った。

 あとは精進するのみである。


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