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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第八章 春まで待てない
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エルーダ迷宮暴走中(創世王クエスト編)18

「面白い話って?」

 朝の散歩も終わり全員が揃ったところで僕は角笛の入った化粧箱を取りだして、テーブルの上に置いた。

「報酬のアイテム自体は興味をそそるほどのものではないんだけれど――」

 中身が見えるように蓋を開けた。

 地下三十四階のクエストの内容を大雑把に話した。

 やはり飛びついてきたのはリオナだった。

「ずるいのです。リオナも挑戦するのです!」

「この角笛は私たちにも使えるんでしょうか?」

 ロザリアが手に取り、日にかざす。

 表面の光沢で透けているように見えるが、透けているわけじゃない。

「専用だとか言われたけど」

「どうせクエストクリアーしたら全員もらえるのだろ?」

 アイシャさんも興味深げに受け取った角笛の彫刻の模様を見つめた。

 オクタヴィアとヘモジは自分が手に取る番を見上げながら待っている。


「つまり何かい? 三十五階でもクエストは続いてるっていうのかい?」

「調べた限りじゃそうです。マップ情報と大分違いましたから。だから一緒に狩りをするためにはみんなにも三十四階をクリアーしておいて貰わないと合流できないんです」

「やる、絶対やるのです!」

「でも十二氏族の最後の重戦士ってのが厄介なんだよ。物理攻撃も魔法攻撃もほとんど効かないんだ。僕は一度クリアーしちゃったから、手は貸せないし」

「ゴーストだから物理攻撃が効かないのは分かるけど……」

 アイシャさんが僕を見る。

 事実上、あれと戦って勝てるのはアイシャさんしかいない。それも距離を置いてのハイエルフの魔法であるならばだ。

 召喚獣ふたりが全力を出せればあるいはとも思うが、如何せん戦場が狭すぎる。却って大きな身体が仇になるだろう。結局、武器頼みの攻撃になるが、どちらの武器も魔力に特化したものではない。突破は難しいだろう。

「ゴーストのくせに装備付与っぽいんですよね。ドロップするわけでもないのにあれは反則ですよ」

「それって気にしなくていいんじゃないの?」

 ナガレが言った。

「なんで?」

 僕が尋ねるとナガレはロザリアを指差した。

「ゴーストなんでしょ? 専門家がいるじゃない」

「!」

 失念していた。うちにはいたんだ。聖少女が。

「問題解決じゃな」

 アイシャさんが笑った。


 今週中にでもクエストをクリアーしておいて貰えればいいだろうと思っていたのだが、「今日中にクリアーしてくる」と言って全員出ていった。

 ロメオ君も「ひとりではクリアーできないだろうから一緒に」と強引に誘われて参加することになった。

 僕は解体屋と約束してしまったので、一緒に村まで行って、ケルベロスを届けにいった。

 誰も見ていない迷宮内から転送したのだが、特に何も言われることなく受け取って貰えた。


 僕は待っている間、地下二十八階で宝箱を漁ることにした。

 相変わらず狩猟コースは人気があった。分かるだけでも四組のパーティーが鹿や、牛、コロコロなどを狩っていた。

 僕は狩りそっちのけでひたすらワイバーンの巣を目指した。

 とは言えワイバーンの巣に行くのだから、当然対峙することになる。だが、そこは角笛一発でやり過ごす。

「別の小山の獲物を狩ってこい」と命令して、遂行させている間に宝箱を開けるのだ。

 今回なかに入っていたのは宝箱サイズの大きな金塊だった。

 ひとりじゃ持てないので『楽園』のなかにぽいである。前回同様であれば修道院を使ったのだが。

 へそくりということでいいだろ。我が家の金庫にこのまま押し込んでやる。

 二つ目の宝箱を目指して街道を歩いていると、はぐれたコロコロに出くわした。ホルンを鳴らして、逃げられる前に眠らせた。今日のおみやげだ。

 二つ目の宝箱には『がらくた』が入っていた。ただしすべてミスリル製だ。やはり宝箱一杯分入っていたが、塊にしたら四分の一程度になってしまった。こちらも懐に収めた。

 少々待ち合わせには早かったが、最後の宝箱は開けずに僕は地上に戻ることにした。


 程なくしてリオナたちがやって来た。

「お早いお帰りで」

「ナーナ」

 何?

「召喚獣なのにアイテム貰えたから不思議がってんのよ。別にいいじゃない。わたしだって貰ってるんだから。オクタヴィアまで貰ってんのよ。大体、そういうことは蛙の着ぐるみ貰った時点で言いなさいよ」

 ナガレがヘモジの疑問を一蹴した。

「個としての自我が強いのだろうな」

 アイシャさんが言った。

「確かにうちのふたりは普通じゃないもんね」

 ロザリアも同調した。

「じゃあ、オクタヴィアが貰えたのも」

「自我がはっきりあるから、カウントして貰えたのよ」

「でも、他のと違う」

 オクタヴィアが凄く残念そうな顔をする。

 オクタヴィアの報酬だけが、角笛ではなく小さなカタツムリのような物だったからだ。紐で首から下げている。

「これって……」

 認識スキルで確認したら『使役のホイッスル』と出た。

 ホイッスルってなんだ? 認識できたってことは、知っていたことになるんだけど、思い出せない。何かの本で読んだかな?

 オクタヴィアは口にくわえて、ヒョロロロロと弱々しく吹いた。

「もうちょっと勢い付けて吹く物なんじゃないか?」

 なんとなくそう思った。

 オクタヴィアは大きく息を吸い込んで息を吹き込んだ。

 ピーッっと大きな音がして、一斉に周囲の注目を集めた。

「びっくりした」

 吹いた本人がポテッと尻餅をついてた。

 でも気に入った様子だった。尻尾を立てながら愛らしい笑顔をこちらに向けた。

「で、どうだった?」

「おっさん、意外に強かった」

「詳しい話は食事しながらにしない? 僕、お腹ペコペコだよ」

 ロメオ君の提案を受け入れ、僕たちは食堂に向かった。そしていつもの席でいつものオーダーをした。

「おっさんはリオナが仕留めたです。結構楽しめたのです」

「アサシンはヘモジがやったわ。ミョルニルで一撃よ。姿見ないうちに終っちゃったわ。召喚士はロメオ君がやったのよ。雷撃で一撃。こちらも召喚される前に倒しちゃったから楽勝だったわね」

 ナガレが我がことのように自慢する。

「事前に情報があったからね。狙ってたんだ」

「騎士はわたしがやったわ。ブリューナクの敵じゃなかったわね。弓使いはアイシャが衝撃波で仕留めちゃったわ」

「話しに聞いていた通り、わずらわしい奴じゃったからの。早めに仕留めておいた方がいいと思ってな」

「魔法使いは?」

「あれはわたしが昇天させました」

 ロザリアが仕留めたらしい。

「槍使いは誰でしたっけ?」

「あれはアイシャさんとロメオ君が面倒臭いからって絨毯爆撃したんじゃなかった?」

「革鎧の戦士と斧戦士も巻き込んだ」

 オクタヴィアが口を挟んだ。

「魔法剣士はわたしとヘモジで相手したわ。どちらも半端だったわ。うちの魔法剣士の異常さの足元にも及ばなかったわね」

 異常って言うなよ。

「重戦士はリオナが相手したです。硬かったのです。全然切れなかったのです。銃弾も効かなかったのです」

「重剣士の相手はアイシャさんよ」

「あれは確かに反則級だな。事前にそなたの剣を借りておけばよかったと後悔したぞ」

「その手があったのです」

 お前が持ったら卒倒するだろうが。戦う以前の問題だ。

「とどめは作戦通り、ロザリアの光魔法で」

 料理が来たので、会話を中断した。

「あ!」

 ロメオ君が声を上げた。

「もしかして『回復薬』で倒せたんじゃない?」

「え?」

「あ……」

「そうね…… ゴーストだもんね。『完全回復薬』なら誰でも楽にやれたかもね」

 ヒョロロロロ…… 溜め息と一緒に、オクタヴィアはホイッスルをならした。


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