表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第八章 春まで待てない
370/1072

エルーダ迷宮暴走中(クヌム・メルセゲル・ゴースト、クエスト編)16

 これなら羊頭が惚れるのも無理はない。僕は惚れないけど。

「そちらの角笛をお持ちください。『使役の角笛』と申します」

「角笛?」

 僕はテーブルの上の角笛を手に取った。角笛が怪しく一瞬輝いた。

「あなた専用の道具になりました。それは魔物や獣を手なずける魔道具です。目的の魔物に聞こえるように吹くだけです。魔物はこの角笛を聞くと一瞬立ち止まりますから、その隙にやらせたいことを命令するのです。魔物はすぐにあなたの命令に従うでしょう」

「どんな強力な魔物でも従えるのか?」

「はい。ですが、その分の対価はそれ相応の魔力ということになります。ここまで来られたあなたなら充分な魔力があると言えましょうが、無理は禁物です。それからウィスプやランタンのような知能のない魔物は従いません。逆に頭のよすぎる魔物も従いにくいでしょう。ドラゴンを使役するなど無謀なことは止めましょう」

 心読まれた?

「目的を完了するか、使役者の魔力が尽きたら命令は解除されますからお気を付けください。同じ命令なら複数の相手に命令できますが、複数に別の命令をさせることはできません。それと人やエルフには効きませんのであしからず。ああ、後ですね、聴覚のない者にも効きませんのでお気を付けください」

「では、またどこかでお目にかかりましょう。ごきげんよう」

 彼女は消えた。僕は化粧箱に角笛を入れるとリュックにしまった。

「何を使役できるかで、価値が変わるよな」

 今日はもう昼を食べて帰ろうかと思ったが、少し遊んでいくことにした。

 その前に、脱出しなければ。

 部屋の反対側にある扉を開けた。

「何? 今度は上りなの?」

 長い上り階段が待っていた。

 仲間を全員やられた腹いせにしか見えんぞ。

 とても歩く気になれなかったので、上まで転移した。

「嗚呼、降りるときも転移すればよかったんだよ」

 後の祭りである。

 登り切った先に脱出部屋が今度こそ確かにあった。転移部屋に辿り着くと僕は外へと飛び出した。

「そういや、創世王はどうなったんだ?」

 ゲートから出てからふと思った。見落とした? まあ、いっか。

 恐らくこの流れだと次のフロアー辺りにいそうなんだけど。

 取りあえず、今は昼だ。その前にアンデットフロアーで染みついた死臭を消さなければ。消臭魔法を掛けて、臭いを消した。

 食堂に入ると既にピークは過ぎていて座席はほとんど空いていた。

 ひとりだけれどいつもの席に座った。

「いらっしゃいませ」

「日替わりまだある?」

「すいません、もう売り切れました」

「じゃあ、お肉定食にウーヴァジュースを」

 店員に葡萄ジュースを頼んだ。

 さて、『使役の角笛』をどこで使うか。

 セベクにするかな。面倒だけどあいつの鰐皮はよく売れるから。


『依頼レベル、C。依頼品、セベクの皮。数、一以上。期日、水前月末日まで。場所、エルーダ迷宮洞窟。報酬依頼料、金貨五枚から/枚、全額後払い。依頼報告先、冒険者ギルドエルーダ出張所』


 地下二十三階だったかな。ギルド事務所の掲示板で依頼があることを確認すると、かつてリオナとふたりで行った二十三階に降りた。

 解体作業で音を上げたフロアーだ。

 ギルドランクも稼げるし、頑張ってみようかね。問題はいかに効率的にコア、心臓を皮を傷めずに取り出せるかに掛かっている。

 降りた先は相変わらずの湿地帯だ。

 少し進むと早速、セベクが沼のほとりにいた。

 まずは餌だな。

 雷を落として最初の一匹を仕留めると、結界で囲い込んでコアを分ける作業を始める。

 解体した本体はきれいに洗って回収袋に入れる。そして残骸はそのままにその場所を後にする。が、臭いはもう周囲に立ち込めていた。

 すぐに草むらからゾロゾロとお仲間が現れる。あっという間に囲まれた。

 僕は角笛を取る。

 そして天に向けて高らかに吹き鳴らす。

 一瞬動きが止まった。

「互いの心臓を食らえ!」

 まるで悪魔の台詞だ。

 さて、角笛の効果は如何に? これで何もなかったらただの馬鹿なのだが、効果はすぐに現れた。

 いきり立ってこちらに向かってきていた羽のないドラゴンのミニチュアが、突然向きを変え、互いに牙を剥き始めたのだ。

 どいつもこいつも僕よりでかい。二、三メルテもある化け物だ。

 集団妄想にでも取り憑かれたかのように、仲間と三つ巴の、否、四つ巴…… 

 うわっ、セベクの山ができあがった。

 ごそごそと集団で蠢きながら、次々獲物を狩っていく。増援に次ぐ増援。

 僕は同じ命令を繰り返す。

 僕は脱落した亡骸を確認する。

 意外にも皮の傷は少なかった。なかには使い物にならなくなっているものもあったが、それを抜きにしても成果は大きかった。

 彼らの丈夫な皮は彼らの牙にさえ有効だったのだ。結果的に脆い腹部を引き裂くに至ったわけである。

 命令遂行は的確になされていた。

 こちらの魔力がつきかけると、暗示も解けやすくなるようで、早めに補充するよう気を付けた。さすがに数が多かった。

 やがて増援もなくなり最後の一匹だけが残った。

 勝ち残った勇者には自由になる権利を与えた。が、勇者は僕に牙を剥いた。


 解体屋に申し訳ないので、下処理だけして送ることにした。血抜きはしていられないので内臓をきれいに取り出し、洗ってからタグを付けた。

 最後の一匹まで解体屋に転送すると、狩り場を後にした。

 今回の獲物はざっと三十匹。悪くても二十回分の依頼はこなせるだろう。

 査定に時間がかかると思うので、三十五階を見学してから行くことにする。

 マップ情報と違えば、クエストが続いている証拠である。それだけでも調べておこうと思った。


 地下三十五階は相変わらず地下墓地だった。本来いるはずの獲物はメルセゲル、ゴースト、オルトロスである。

 オルトロスとは頭が二つある、蛇の尻尾を持った犬である。

「うーん……」

 目の前にいる奴には頭が三つある。

「ケルベロスだよな」


『ケルベロス オス、レベル五十五』


 氷の槍を放った。すると奴は軽々と避けてこちらに向かってきた。

『無刃剣』を通路一杯に撒き散らす。

 ケルベロスが結界に体当たりをして果てた。

「でかいな」

 犬と言うからもっと小さい奴かと思ったが。セベクと変わらない。

 足の速さには注意が必要だな。

 回収できる部位は……

『魔獣図鑑』で確認する。牙と爪と皮である。

 個人的にはいらない物ばかりだが、問題はこのエルーダ迷宮にケルベロスが登場するのかということである。クエストを知っているなら兎も角、また新種発見で騒がれても困る。

『エルーダ迷宮洞窟マップ・下巻』を確認する。

 今後出てくるならごまかし様はある。

 あった! 四十階にあった。僕は記述を読んだ。

「これって今倒したケルベロスよりえらく物騒な感じだけど……」

 レベルが五、上がっただけでこうも変わるのか?

 複数パーティーによるレイド戦で殲滅が必要だとか。

 因みに回収品は高価で取引されるようだ。特に黒い皮は闇と炎耐性を持った優れものだそうだ。

 闇属性が防げるのは大きいな。それに黒は人気がある。特にアサシン連中に。

「保留だな」

 僕はケルベロスの亡骸を『楽園』にしまった。

 残りの二種類を探す。

 ゴースト発見。普通のゴーストだった。

 あとはメルセゲルだが、反応がないところを見るとやはりゾンビか?

 ようやく見つけた。

「やはりゾンビだった」

 攻略は明日にしよう。どうせみんな帰ってきやしないだろうし。

 解体屋にケルベロスのことも聞きたいし、戻るとするか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ