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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第八章 春まで待てない
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エルーダ迷宮暴走中(クヌム・メルセゲル・ゴースト、クエスト編)15

 パキパキパキ……

 足元が凍る。

「魔法使い!」

 周囲を索敵するも敵の姿はない。取りあえず凍る前に物陰から出るしかない。

 出た途端に火の玉が。

 ただの魔法使いなら御しやすい。姿が見えればだが…… まさかアサシンスタイルの魔法使いじゃないだろうな。

 飛んできた方を探っても敵は見当たらない。

 僕は待避用の壁を作りながらゆっくりと間合いを詰める。攻撃されたら身を隠し、応戦しながら次々壁を作っていく。やることは敵を後ろに逃がさないことだけだ。

 逃げるそぶりを見せれば、回り込んで壁を作り、足止めのために魔法を放り込む。

 そしてついに敵を部屋の角に追い詰めた。

 呆気ないな。だが魔力の残滓は確かにそこにある。

 嫌な予感がした。

 来たッ!

 竜巻だ! 

 風の流れがふわっと起こったかと思うと、突然荒れ狂い周囲の瓦礫を巻き込んで、大きくなっていった。せっかく作った壁が次々壊される。

 一旦撤収して既存の物陰に隠れる。もちろん接近してくる竜巻の前では気休めだ。

 渦の端がどんどん近づいてくる。

 敵の居場所を再確認。ほとんど移動していない。押し切れると確信しているらしい。

 これだけ魔力が充満していればいけるか?

 僕は転移ゲートを開く。魔力の残滓の尻尾の先にこっそりと。

 敵は膨大な魔力を操るのに集中していてこちらにまったく気付いていない。

 メルセゲルだった。が、想像していた姿とは違った。お仲間だった。魔法剣士である。ただし軽装盾持ちだ。

 ゲートからの飛び出しと同時に斬りかかる。もちろん一撃で決まるとは思わない。あくまで魔法を止めさせるためだ。

 驚いた魔法剣士は振り返り、攻撃を防ごうと、殴り気味に円盾を構えた。

 僕は盾もろとも両断するつもりで剣を振り下ろす。

 腕に固定していた盾ごと左腕を切り落とした。

 だが魔法剣士は悶絶するでもなく、お返しとばかりに剣を薙いだ。そして距離をおき、風の刃を発動させた。

 こちらは『無刃剣』で迎撃する。

 魔法剣士の装備が攻撃を弾いた。こちらも結界が防いだ。

 敵が剣を繰り出す。だが剣技は魔法ほどではなかった。

 爺さん張りの体捌きで切っ先をかわしながら反撃を当てていく。生身ならとっくに出血多量で死んでいるはずだが、ゴーストには流れる血がそもそもない。

 剣を受け流し、背中に回り込み、あるはずもない心臓目掛けて剣を突き立てる。これで消えなきゃ反則だ。

 だが次の瞬間、暗闇から飛んできた矢が目の前の消えゆくゴーストの身体を貫通して、僕の頬をかすめた。

 結界を抜けた!

『結界砕き』付与の矢か? 弓使いの奴、生きていたのか? それとも新手か?

 僕は走らされた。

 竜巻で遮蔽物を破壊され、隠れる場所を失ってしまったのだ。

 一応多重結界は掛けてあるが、二本同時に射るぐらいしてきそうで油断できない。

 敵の移動が速すぎて捕らえられないから、兎に角逃げる。

 大部屋を逃げ回っていたら別の存在に見つかった。完全重装備の槌、盾持ちだ。

 二対一は不味い!

 重戦士から距離を取る。だが弓使いが邪魔をする。

 ああ、もう! うざったい! 

 奴のせいで魔法が使えない。

 矢は的確にこちらを追い込んでくる。

 消される度に結界を上書きしていく。

 このままじゃ魔力が尽きるだけだ。

 一階の回廊の隅に陣取ることに成功した。というより誘い込まれた。

 そこにもうひとりのゴーストが待ち構えていた。

 両手剣持ちの重剣士だ。

 一撃が降ってくる。

 ガキン! 結界が防いだ。

 その攻撃に歩を合わせて盾持ちがシールドバッシュを放つ! 剣士に斬りかかろうとするタイミングを外され、僕は後ずさる。

 なんとか避けることができたが、とても重戦士の動きじゃない。

 追い打ちを掛けるようにふたりの間から矢が飛んできて、結界を一枚剥いでいく。

 剣が脇腹をかすめる。

 大きな盾に隠れた金属の塊が迫ってくる。

 僕は結界で受け止める。そこへまた矢が飛んでくる。

 結界は砕けて、剥き出しになる。

 トドメとばかりに剣が狙いを定めて狙ってくる。壁に追い込まれた。

 でもこれでいい。

『完全なる断絶』を発動させる。剣士が腕を伸ばしきる前に剣を弾いた。槌が振り下ろされる

前に槌を弾いた。

 剣士のがら空きになった胴体に剣を突き立てる。

 剣を握る手が抵抗を感じた。未だかつてこれ程の抵抗を感じたことはなかった。ゴーストのくせにこれだけ耐魔性能に優れていたらもはやほぼ無敵だろう。物理攻撃はそもそも効かないのだから。

 僕は魔力を剣に注ぎ込む。

 切れ味が急に増して、切っ先が装甲を貫いた。心臓を抉った。あればの話だが。

 そのまま霞を切り裂くように横薙ぎにして剣を引き抜くと、その勢いで盾持ちに切りかかった。

 ガツッ!

 更に硬い衝撃に襲われた! 大盾で防がれた。

 まさか、受けきられるとは……

 このまま更に魔力を上乗せすれば切り裂けないことはないが。でも今は諦めた。のんびりしていては弓使いに横槍を入れられる。

 今奴の攻撃から僕を僕を守っているのは他でもないこの重戦士の巨体だ。この図体に隠れているせいで僕は助かっている。

 僕は盾を切り裂くのを止め、一転足元に剣を突き立てた。

 大男の足を地面に釘付けにしたのだ。

 僕は剣を離し一歩退くとライフルを取りだした。

「『魔弾』装填、『一撃必殺』ッ!」

『魔弾』を放った。

『魔弾』は重戦士をすり抜け遙か後方に飛んだ。

 二階部分の回廊に命中して、周囲を跡形なく容赦なく吹き飛んだ。

 重戦士が僕の剣を引き抜き、乱暴に投げ捨てた。盾を構えて突進態勢を取る。

「もう終わりだよ」

 僕は『魔弾』を放った。

「コホッ、コホッ」

 余程弓使いに頭が来ていたのか、本気を出しすぎた。重戦士が周囲もろとも跡形なく消えてしまった。

 結界を張り直し、万能薬を一瓶飲み干した。

 魔法剣士と、重戦士、重剣士、死んでなかった弓使い含めて、これで十二人。

 王様、アサシン、召喚士、騎士、魔法使い、槍戦士、軽戦士、斧戦士、魔法剣士、重戦士、重剣士。弓使い。ひとりで相手する連中じゃなかったな。

「さてと、出口、出口」

 全く無駄なことをさせるよ。ゴーストだからアイテム一つ落とさないんだもんな。こっちは薬何本飲んだと思ってんだよ。これで手ぶらだったら、王様の棺桶、奥さんから引き離して川に流してやるからな。

 それにしても……

 僕は振り返る。

 部屋がとんでもないことになっていた。

『闇の使徒』出てこないだろうな。面倒はごめんだぞ。

 僕は大部屋を出て先を行く。相変わらず通路には遺骨がずらりと並んでいる。

 敵発見。メルセゲルのゾンビ。

 水滴で吹き飛ばした。

 そうだ、マップに記入しないと。足を止めてメモを取る。

 よくよく無駄なことをしている。恐らく次に来るときにはこのフロアーはなくなっているはずなのだ。いや、僕抜きでなら、権利持ちのリオナたちが来れば対戦できるのか。

 

 出口であろう場所に出た。

「やっと出口か」

 外へと続く大扉を開けたら、まだ下に伸びる長い階段があった。その先に奈落から生えた一本の石柱に支えられた白い小部屋があった。

 まだ先があるのか?

「ここ降りなきゃ駄目か?」

 もう帰りたい。

 お昼食べたい。

「でもここまで来て引き返したら、また十二戦しなきゃいけないしな」

 万能薬を舐める。体調は戻るがやる気までは戻らない。

 とろとろとゆっくり階段を降りるとようやく扉の前に辿り着いた。

 扉をゆっくり開ける。

 なんだか罠部屋みたいだな。

 それもそのはず、部屋の中央に今回の報酬であろうアイテムが置かれていたのだ。

 アンティークな丸テーブルの上に置かれた化粧箱のなかにそれは収まっている。僕は警戒しながら部屋に入る。扉の隙間に土魔法で作った石をかませて、閉まらないようにしておくことも忘れない。

 罠の可能性を探る。

「罠はありませんよ」

 突然、女性の声がしてびっくりして振り返る。

 立っていたのはヘケトさんだった。見違えるほどきれいな衣装を身に纏っていた。


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