エルーダ迷宮暴走中(クヌム・メルセゲル・ゴースト、クエスト編)14
結界がなかったら即死だった。僕は『完全回復薬』を飲み干す。
二階分の天井高のある大部屋に窮屈そうに腰を折った巨人が姿を現わした。
サイクロプス……
単眼巨人。でかい棍棒をゆっくりとめり込んだ瓦礫から引き剥がした。
でも本命はその後ろの召喚士だ。サイクロプスは実体のある幽霊ではなかった。召喚獣そのものだ。でも、ヘモジに比べれば小物だ。ただでかいだけなら敵じゃない。
『魔弾』を装填し『一撃必殺』を発動する。
巨人が大きな棍棒を振りかぶる。
僕は『魔弾』を放った。飛んでいった先は巨人ではない。術者の方だ。
巨人が吠えた。結界に阻まれ振り下ろすことも叶わなかった拳もろとも虚空に消えた。
念のため『万能薬』を舐める。
「はぁあ、レベル高すぎだろ」
オクタヴィアでもいれば楽勝なんだがな。念のため召喚獣のカードを探すが見つからなかった。
甲冑の音だ。
今度はなんだ?
光魔法を放った。
闇のなかにいたのは……
騎馬だ!
軍馬に跨がり、ランスを構え、こちらを倒す一瞬をフルプレートの騎士が狙っている。
召喚獣と違ってこちらは馬もゴーストだった。
その馬が嘶いた。血圧が心配になるくらい興奮した馬が地面を蹴った。
長いランスを低く突き立て、騎士が殺意を込めて突っ込んでくる!
僕は地面に穴を開けた。
「落ちろッ!」
甘かった。幽霊は穴に落ちることなく迫ってくる。
もう一度『無刃剣』だ。今度は鞭のように横一線に薙ぎ払う。馬はそれすら軽々と飛び越えた。
呆れた馬だ。ペガサスの化身だとでも言うつもりか?
だが突撃の勢いはもうない。仕切り直しである。
距離を取るために騎士は背中を向ける。
「時代は変わったんだよ」
こちらの攻撃が届かないと高を括っていた騎士は振り向き様、あっさり『魔弾』の餌食になった。
馬上槍の闘技場と一緒にするなよ。
あと何人だ? 十二人とか言っていたけど。王様、アサシン、弓使い、召喚士、騎士。五人か。この大部屋のなかにあとひとりはいそうだけれど。
他の奴の戦闘に巻き込まれて死んだか? それともまだどこかに潜んでいるのか? 部屋のなかでまだ足を踏み入れてない場所は……
突然地面が揺れた。
土魔法! 僕は咄嗟に跳ねて、地面を凍らせた。
魔法使いか?
闇のなかから火の玉が!
結界が軽々弾く。このエリアの影響を受けるのは魔法を使う以上敵も同じだ。
そして、魔力の残滓なら僕にも追える。
石像にカモフラージュした石棺のなかに魔法使いはいた。魔法が飛び交うなか、まるで別の方向にそれはいた。
こういうトリッキーなやり方もあるのだなと、感心した。が、こうでもしなければ己を守れない程度の魔法使いなのだと、姉や、アイシャさんを見て思う。現に、あちらの魔法攻撃は一切効いていなかった。
火の玉が効かないと分かると、爆炎を放ってきた。
だがそれも二発で打ち止めだった。二発も撃ち込まれれば普通のパーティーなら壊滅レベルだが、あいにく僕は立っている。
もはや打つ手なしだ。次の一手はもうない。
大体、水魔法専門の羊頭のくせになんで火の魔法なんか使ってるんだ? 第一ゴーストだろ? 普通はヒヤッとするもんだ。暖めてどうする?
僕はライフルを魔法が飛んできた方角ではなく、壁に立て掛けられている石棺の像に向けた。 攻撃を受け止めようと障壁が一瞬、七色に輝いた。が、石棺は砕け散った。
これで六人。
次の大部屋に残りがいると思われた。さすがにボロボロになったこの部屋に更に六人はないと思われた。倒す前に天井が落ちてきて双方圧死だ。生きている分こっちの方が分が悪い。
呼吸を整えて、魔力残量を確認する。
まだ行けそうだ。余裕がある。
大きく息を吸い込み、吐き出した。
さて、踏み込むか。
槍が刺さった! 格子扉の開いた隙間を抜けて、すぐ脇の石畳に斜めに突き刺さった。
結界が掻き消された!
「『結界砕き』ッ!」
続け様に槍が降ってくる!
僕は扉から離れて後ずさった。結界の範囲を極力小さくしながら、敵を探す。
左の奥。柱の向こう!
通路の天井は低い。放物線を描く投げ槍の軌道ではこの位置まで届くことはない。当てようと思うなら、目の前に姿をさらさなければならない。
それに槍がそう何十本もあるとは思えない……
いや、ゴーストの槍なら無限かもしれない。
だとすれば弾切れを待っていても仕方がない。
「多重結界ッ!」
タイミングを見計らい、僕は突っ込んだ。
最寄りの回廊の柱の陰を目指した。
槍が狙いを定めて飛んで来る!
身をかがめ、軌道をかいくぐった。横から切っ先が突然現れた!
「なッ!」
同時攻撃ッ!
身を翻すも、結界を掻き消された。
多重結界が消えた?
消えたタイミングで剣が突き立てられる。
僕は剣を弾くと剣士を切り裂いた。つもりだった。
闇のなかに逃げられた。
奴も『結界砕き』を持っているのか?
明かりを灯そうにも剣で手が塞がっているし、隙も見せられない。
僕は目的の回廊ではなく、中央手前の柱に進路を変えた。あそこなら壁の燭台で周囲を見渡せる。
槍が降ってくる。
僕は土魔法で壁を作りながら移動する。
やはり槍は無制限か?
ことごとく土壁が破壊されていく。
剣士は何処に行った?
僕は周囲の床を凍らせた。
一瞬、甲冑の音が聞こえた。
そこか!
槍が山なりに壁を越えて降ってくる! 完全なフェイントだった。
次の本命の一撃が既に僕を狙っているのが見えた。
更に……
三方同時責めだ。すべてに『結界砕き』が乗っていると考えられる。
だが、思い通りになる気はない!
『無刃剣』で頭上の槍を破壊した。
正面から来る本命の一撃を強度を増した土壁で防ぐ。すると狙ったタイミングで剣士が姿を現わした。僕は容赦なく剣を薙いだ。
七人目だ。
「同じ手は効かないと言っただろ!」
言ってないか。
槍が尽きたのか、槍持ちが姿を現わした。
「うおおおおおっ!」
吠えながら槍を振り上げ迫ってくる。
僕は切り裂いた。横から斧を振り下ろす新手の大男を。槍も来る!
こちらは『結界砕き』仕様なので『無刃剣』で弾き返す。
大男の片腕を落としたはずが、びくともしていない。
さすが幽霊。でももうちょっとは痛そうな顔してくれるとモチベーションが上がるんだけどな。
片腕で重そうな斧をぶら下げ、不敵に笑いながら追撃態勢を取る。
吠えながら大男が踏み込んできた。同時に背後に回った槍使いも動いた。
何かある! そう感じて動きが取れなくなった。恐らく逃げた先にこちらを仕留める一手がある。ヴァレンティーナ様がよくやる手だ。数手先で詰みという奴だ。
取りあえず結界が砕かれた後にあの大斧の攻撃を受けたら助からないことだけは分かる。
槍の『結界砕き』を後に、大斧を先に受けきらなければ。
だがタイミングは見事に逆をつかれていた。
僕は逆の発想に出た。
まず『結界砕き』を発動させてしまおうと、わざと結界の範囲を広げた。
結界は消えたが、大斧が振り下ろされるまで一瞬の間ができた。
僕はもう一度結界を張り、大斧を弾き返した。
そして、槍が『結界砕き』を再び纏う前に今度こそ。
槍を真っ二つに切断する。突っ込んでくる槍持ちの兜を砕いた。
大男が味方の身体もろとも、とどめを刺そうと突っ込んでくる。
結界で一瞬、弾いてやる。動きが止まった。
僕は『無刃剣』で分厚い鎧を切断した。
すぐさま物陰に隠れる。
『万能薬』を飲み干した。
危なー。もう少しで魔力がエンプティーになるとこだった。
これで何体だ?
ふたり倒したから、九人か? 残りは三人だ。




