エルーダ迷宮暴走中(クヌム・メルセゲル・ゴースト、クエスト編)13
若干の寂しさを感じながら、やって来ましたエルーダ迷宮。寒くても相変わらずの賑わいである。
さすがに地下三十四階で受けられる依頼はなかった。
敵がアンデットだから闇の魔石だし、ギルドランクも上がらなさそうだ。
こうなったら精々いい装備品を落として貰いましょう。
地下三十四階は、先の頭蓋骨の討伐で訪れた地下墓所に近い構造だった。敵はリオナたちの情報通り、生きた羊頭たちではなく、ゾンビたちになっていた。
挨拶がてら炎で焼いてやった。
ゾンビには病気攻撃があるので、接近戦はなしだ。フルプレートの盾持ちでもなきゃ、回復薬がいくらあっても足りなくなってしまう。
通路の先の暗闇から水の魔法が飛んでくる。
ゾンビになってもクヌムはクヌムか。だとしたらメルセゲルの盲目攻撃も有効か?
お返しに火の玉を返してやる。
あれ? 何かがおかしい。
それでも敵は燃え上がり、辺りを一時明るくして崩れ去った。
アンデットフロアーの特徴である魔素の少なさは分かるが、威力が格段に落ちている。
奴らの装備か?
最初の獲物のアイテムを物色する。だが耐魔装備など見当たらなかった。
そうこうしていると、薄ら何かが通路を横断するのが見えた。
ゴースト!
初めて戦う相手だ。物理攻撃が通じない魔物だ。奴の攻撃はエナジードレン。触れた物の体力を一気に奪う厄介な奴である。奴をやるには魔法攻撃しかない。が、威力が弱くなっている攻撃でどれだけ対抗できるのか?
「このフロアー、戦闘は避けた方がいいな」
戦うならいつでも脱出できる状況の方がいいだろう。今回サポートしてくれる仲間はいないのだ。一度倒れたら終わりだ。
マップを確認して最短コースを進む。
が、行き止まりにぶち当たった。
「そんな!」
なんとマップ情報が役に立たなくなっていた。
他の通路を進んでも同様だった。ないはずの分岐があったり、あるはずの部屋がなかったり。このフロアーは正規ルートとは別物だ。
ここに来て確信した。
クエストはまだ続いている!
参ったな…… リオナもいないんだぞ。仮にいても鼻がもげてるだろうが。
いまさら出口を探しながら進まないといけないのか?
「まさか、ここに来てマッピングする羽目になるとは……」
だからか、だからあいつら…… 足踏みしてたのか……
メモを取り出し、早速足跡を記録する。敵の配置も記入する。
このままでは下手すると一日でクリアーできない可能性が出てきた。
一通り記録すると僕は『無刃剣』で床に印を記入した。
高速射出する水流で汚れを払うときれいな石材の地肌が現れる。
はっきり分かる矢印を記入できた。
そしてそのまま戦闘に入ると射出速度を上げて、そのまま敵を真っ二つである。
「こりゃ便利だ」
お肉の解体専用にするには便利すぎる魔法だ。
『無刃剣』で周囲に印を残しながら、戦闘では鞭のようにしなる高速の刃と化した攻撃で敵を切り刻む。ゴーストですら真っ二つである。
白墨で落書きして遊ぶ子供のように壁に印を刻みながら、出口を探す。
ただ使用中は魔力が垂れ流しになるので、注意が必要だ。
またゴーストが現れた。
頭に絵が浮かんだ。一粒の水滴が弾丸のように高速で敵を射貫く鮮明なイメージが。
僕は五つの水滴を放っていた。
ゴーストが跡形もなく四散した。
「今の何?」
距離はまだ大分離れていたにも関わらずこの殺傷力? 水流をぶつけるより遙かにスマートな攻撃だった。
大部屋のなかで甲冑の音がした。
はて? クヌムもメルセゲルも軽装の筈だが……
そこにいたのは実体のあるゴーストだった。
「待ちかねたぞ。我が救世主よ」
クヌムの王だった。
「成仏したんじゃなかったのか?」
「だからここにおる。我らが盟主を守護する十二氏族のひとりとなって」
またおかしなことになってきた。
「十二氏族?」
「ここは我らが王、創世王の陵墓である。我ら子孫は代々この地を守る役目を帯びている。我もまた、死してこの大役を授かる栄誉を得た」
「用件は?」
「ここより先に進むこと叶わず。進みたくば我らに力を示せ」
恩を仇で返す気か?
「出口を探してるだけだ」
「なおさら進むしかあるまい。我らを倒し、創世王の元に辿り着くがよい」
面倒臭いことになったな、こりゃ。ひとりできたのは間違いだったな。
おもむろにクヌムの王は大剣を抜く。
リオナが喜びそうだな。後で話したら悔しがるに違いない。
「参る!」
いきなり大剣を突いてくる。危なッ!
とても牢に繋がれるような間抜けの剣には見えなかった。
やばい。集中しないとやられる!
完全なファイターだ。剣のレベルも雑魚敵とは別格だ。
一旦距離を置く。そして『無刃剣』を放つと同時に『ライモンドの黒剣』を振るう。『無刃剣』を受けて鎧が陥没する。
「うがぁあ」
黒剣が紙を切るかのように鎧を切断する。
「見事なり」
四散して王は消えた。こんなことで降格されなければいいがな。
弓矢が飛んできた。
今度は弓使いのゴーストだ。結界が攻撃を弾く。その隙に物陰に隠れる。
「何? もしかして連戦なの?」
アンデット相手には『竜の目』も役に立たない。
矢が待避していた柱に当たって弾かれた。
こちらを狙うには二階ベランダの一角しかない。
来た!
僕はライフルを構える。が、敵の攻撃が当たった。矢が弧を描いて飛んできたのだ。
もちろん結界が防いでくれたが、なければ身体に二つほど出と入りの穴が開いていたことだろう。相手は只者ではない。
攻撃のタイミングを逸した僕は、深めに隠れて、思案する。
ちょっとの角度なら奴は修正して当てててくる技量かスキルを持っている。怖いのは『結界砕き』を持っていた場合だ。早めに仕留めないと。
自由には撃たせない。
『魔弾』に切り替えて盲撃ちを始める。くそ、どこにいるか見えやしない。
背中に気配を感じた。
僕は咄嗟に後方にぼた餅をばらまいた。
連鎖して爆発が起きる。僕は爆風に乗ってその場を離れ、別の物陰に入る。
あいつ! 隠密行動もできるのか?
このままじゃやられる!
と思ったら、後方で爆死ししていた。
近づいて覗き込む。
あれ? こいつ弓兵じゃない?
短剣の双剣使いだ。アサシンが別にいたのか?
矢が三本飛んできた。
僕は風を起こし、目標をそらした。大体の位置が見えた。
ライフルを構えている暇はない。その間に逃げられる。
『無刃剣』の応用で作った滴の弾丸を闇のなかにばらまいた。その隙に足元の死角に逃げ込む。
連続じゃないくて、同時攻撃か? 違うな。あの弓使いの動きはこちらを誘っている動きだ。
恐らく、それぞれが受け持つテリトリーがあるのだ。でなければクヌムの王と戦い始めたときに一斉に仕掛けられていたはずだ。
あの弓使い、食わせ者だ。
増援はどのタイミングで来るのか?
待てど暮らせど、弓使いの攻撃はなく、増援もなかった。
仕留めたのか?
僕は二階に上がる階段を探した。僕の攻撃で周囲は惨憺たる有様だった。
死んでいるとしたらこの辺りだが……
壁のなかから巨人が現れた。
「なっ!」
一階まで吹き飛ばされた。




