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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第八章 春まで待てない
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少年Tの家出事件4

 新年明けましておめでとうございます。

 今年もよろしくお願いします。m(_ _)m

 太陽が正面から昇ってきた。眩しい朝の到来である。

 鳥の群れが朝の食事集めのために飛び立った。

 前方から接近する影が。奴らも朝食の準備を始めるようだ。

 火竜が来る。幸いどれも単騎である。どこから来たのか?

 遠出した帰りだろうか?

 こちらを襲う様子はなかった。狙いは別にあるようだ。

 テトを起こして、操縦桿を替わって貰う。

「火竜ですか?」

「こっちに来る様子はないけど、念のためにね」

 視認できるだけでも十体ほどが宙を舞っている。

 巣の見張り役か、斥候か? 

 巣から飛び立ったにしては速すぎるし、飛んできた方角もまるで違う。この辺りをテリトリーにしている別の集団と考えるべきか?


 後の調査で、この一帯には大きな地下渓谷が点在していることがわかり、そこが彼らの住処になっていることが判明する。以前駐屯予定地を襲った連中も山の大集団の一員ではなく、そういった地下渓谷のはぐれものの一派だった可能性が高かった。

 テトは滝の存在を地図にしっかり記入していた。

 瀑布の存在についてもう少し深く考えが及んでいれば、地下渓谷と火竜の存在を関連づけられたかも知れなかった。

 だが、このときの僕たちには知る由もなかったのだ。


 こちらの高度が高かったせいだろうか? 奴らには見向きもされなかった。

 例の速い気流に飲み込まれる危険性を分かってるからじゃないだろうかと勘ぐってしまう。

 こちらとしても昨日一日の努力を無駄にはしたくない。

 進路を固定したまま、彼らをやり過ごし、ひたすら直進し続ける。


 彼らの狩り場から逃れられたと感じたのはそれから二時間後のことだった。

 景色は余り変わっていないが、勢力図は大きく変わっている。火竜の餌になりそうな中型の魔物が増えてきたのだ。

 で、こちらもようやく朝食の準備を始めることにした。

 ようやく狩りの時間である。

『楽園』に潜れば、豪華な食材やスパイス、料理すらも夢ではないが、僕が消えれば船のなかにはテトがひとりぼっちになってしまう。心細くなるだけでなく、危険である。

 ステッキのときのように手だけ突っ込んで取り出せないものかと試みる。

 さすがに事前に放り込んだ物ではないから、何も反応がなかった。

 なかに入って創造するプロセスがどうしても必要らしい。

 

 狙いはセンティコアだ。小動物もいるにはいたのだが、皆森のなかで、船の上からでは手が出しにくかったのだ。

 川縁で巨大な水牛を狩る方が楽だと判断した。問題は、一緒にいるセベクである。あいつらに襲われると面倒この上ない。血を流さずに倒せば問題ないかも知れないが、リオナのせいかこっちまで苦手意識が伝染している。

 計画は難しくない。僕が魔法でまず一匹を仕留め、転移して地上に降り、結界を張りながら解体を始める。あとはもう一度転移して肉をお持ち帰りすれば任務完了だ。

「どの辺りが食いたい?」

「どこが美味しいのかわかんないよ」

「じゃあ、積めるだけ取ってこようか」


 センティコアの群れの隅にいた一頭目掛けて落雷を落とした。

 大きな身体が横転するのを確認した。

 群れは逃げ出し、セベクは間を縫うように水中に逃げ込んだ。

 少し巻き込んだが、死んではいないだろう。

 僕はゲートを開いて地上に降り、獲物を結界で囲う。

 解体作業の開始である。

 血抜きと、内臓の取り出しだけは済ませなければならなかった。でないと船内が酷いことになるからだ。

 しかし、逆さ吊りにして血を抜くにはでかすぎるし、やってる暇がない。

 だから、兎に角腹を割って内蔵を取り出し、高圧水流で一気に洗い出すだけにする。

 これだけの巨体ともなるとそれだけでも大仕事だが、やらないわけにはいかない。

 切れる刃物がないので面倒この上なかった。最初は風の刃で切り刻んでいたが、切り口は散々だった。

 血を洗い流すために魔法で水を流していたら、ふと高速射出すれば、これで切れるんじゃないかと思い立った。

 試行錯誤の末、刃物のような切れ味を生み出すことに成功した。骨まで切り落とせたときには正直驚いた。砂を使えば鎧でも刻めそうだ。

 新たな攻撃魔法の誕生である。銘々『無刃剣(ノンブレードソード)』だ。お肉の解体専用魔法である。

 ここでふと思った。『無刃剣』なら氷も切断できるのではないかと。

 持ち出せる大きさに解体してから氷付けにして運び出すつもりだったが、すべてを凍らせてから切断してもいいのではないか? 内臓も取り出したし、遙かにその方が楽だ。なんといっても血を浴びずに済む。内蔵の取り出しをした段階で既に結構悲惨な状況になっているが。

 僕は方針を変えた。まず全身を一気に凍らせ、それから輪切りにした。更に抱えられる大きさに数等分して、運び出しの準備を整える。途中で魔物たちにがめられても困るので、獲物とゲートを囲うように土の壁で覆い隠す。

 あとはひたすらゲートを往復するだけだ。

 細かい解体作業は、食べるときに食べる分だけすればいいだろう。


「大量だーっ」

 空の上で僕たちは大はしゃぎだ。

 早速オープンラウンジで焼き肉パーティーである。

 ラウンジの扉の位置も前回とは場所が若干変わっている。一階後部を上がった二階部分がオープンラウンジだったが、今回は二階の扉を出た先にある。出た先は変わらないのだが。

 据え付けのテーブルに、携帯コンロを置く。魔石を使って焼き始める。

 何もかも足りない。塩も香辛料も添え物も飲み物も足りない。

 食器類があっただけでも神に感謝すべきか?

 それでも空腹は最高のスパイスであるらしく、テトはいつになく肉にがっついた。

「おいしい」

 満面の笑みである。こういう顔を見るとまだまだ子供だと感じる。そういう自分もだが。

 肉を頬張っては水で流し込む。一日ぶりの食事である。

 周りの絶景を楽しみながらの豪勢な食事とも言えた。

「匂いに釣られて魔物たちが来なきゃいいけど」

 風向きは僕たちが来た方角に流れている。

「火竜が匂いに釣られてくるかもな」

 船はギリギリの高度で浮いている。索敵も取りあえずしている。

「はーっ、もうお腹いっぱい」

 テトは椅子の上で腹を抱えて踏ん反り返った。

「そりゃよかった」

 食後の休憩を済ませると僕たちは気分一新、全速前進である。


 操縦桿を譲り、僕は眠りについた。

 たまに起こされると接近する火竜に雷を落として、気晴らしをしてまた眠る。

 お昼を食べてまた夕方まで眠る。

 夜は僕が舵を取り、テトが眠りについた。

 結果として地図作成を頑張ることになった。

「自動航行装置が欲しい」

 二日目も終わる頃、僕は音を上げた。

「改造してやる」

 僕は操縦士を介さず、魔力を直接流し続ける仕組みを考えた。事実上、補助システムが魔石から魔力を抽出している以上できないわけがないのだ。違いは操縦士が操縦桿を握りしめることで出力の調整をしている点だけだ。

 だとしたら、補助システムの構築は簡単である。直結してしまえばいいのだ。

 船の構造はテトの方が詳しいので、起きたら任せることにする。それまでは我慢することにした。

 明け方交替の時間になった。テトは修理工具を持ち出すと回線を抜き出して、バイパスにスイッチをかませた。

「これで自動航行できますね」

「周囲の安全には目を配らないと行けないけどな」

「でも大分楽になりますよ」

 その分魔石の在庫との勝負になってくる。

 だが杞憂であった。僕が揺り起こされたとき、目の前には薪の炎が並んでいたのである。


 三日目の朝、僕たちは駐屯予定地の現場に辿り着いていた。


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