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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第八章 春まで待てない
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指名依頼と魔法少年7

 それにしても堅剛な城壁だな…… 

「凄いですね……」

「この国の魔法のほとんどがある場所だからね」

 すべてと言わないのは最重要機密が魔法の塔にしかないからだ。

 二つの門が並んだ正門の上に魔法学院の古ぼけた旗が棚引いていた。

 魔法の塔のエンブレムが入った馬車だから通してもらえるかなと思ったら、正面ゲートの手前でふたりの門番に止められた。

 御者台にいた僕たちは若干うろたえて、車輿に指示を仰いだ。

 姉さんが窓から顔を出す。

「筆頭補佐官殿!」

 門番たちは慌てて後ずさった。姉さんと一言二言言葉を交わすと僕たちに進むように促した。

 

 城壁を越えると広大な敷地のなかに学舎が点在していた。

 道がいくつも分岐していてあっという間に行き先が分からなくなった。

 案内を見るが、そもそもどこに行けばいいのか分からない。

 姉さんが降りてきて御者台に飛び乗った。

「ほら、代わって」

 手綱を渡し、僕たち三人は御者台に座った。ヘモジだけが車輿のなかでスヤスヤ眠っている。

 馬車はひたすら進んだ。

「左の赤煉瓦は厩舎だ。貴族たちが間借りしている」

「あんなに大きい建物が厩舎?」

「お抱えの御者や馬番が泊まる施設が併設してあるんだ」

「外出は認められないんじゃ?」

「だから金のある貴族は御者に頼んで町の外と連絡を取るんだ。大概、下らない買い物を押しつけられるだけだがな。あそこの連中とは仲良くなっておくといい。情報やお裾分けが貰えたりする」

「それにしても、なんでこんなにスカスカなんだ?」

「敷地に比べて人口が極端に少ないからな。それに自給自足が原則だから田畑が多い。ここでは大概の物を作ってるぞ。魔法や調合を使った農業の研究なんかもしてるから、一石二鳥だろ?」

「農法もですか!」

 パスカル少年の目が輝いた。

 思わず笑ってしまった。魔法より頑張っちゃいそうだな。

「僕も知りたいかな」

「お前の所にはユニコーンがいるだろ。みんな任せとけばいいんだ」

 パスカル少年が食い入るような目で僕を見た。

「ユニコーン?」

「休みができたら遊びに来るといいよ」

 やがて住宅街に差し掛かる。ハイソな住宅が立ち並んでいた。

「ここが寮エリアになる。使用人を連れてくる貴族も多いから、学生以外も大勢住んでいる。パスカル君にはうちの寮を使って貰おうと思ってる」

「まだあるの?」

 姉さんが何か言いかけて止めた。恐らく僕のために残していたんだと言いたかったのだろう。

「ヴィオネッティーの持ち物だから、気兼ねすることはない。残念ながら使用人はいないがな。でないとあっちの男子寮に住むことになる」

 巨大な赤煉瓦の箱だった。

「寮生活も楽しそうだけどね」

「新人はこき使われるぞ」

 一瞬、寮暮らしをしている幼い自分を想像した。胸に込み上げてくるものがあった。

 やがて白い建築物群が中央広場らしき場所を中心に同心円状に並んだエリアに差し掛かった。雪をかぶっているせいで何もかもが白かった。

 雪が溶ければ芝生や木々の緑が映えることだろう。

「ここが学舎の中心。建物はすべて校舎だ。一番世話になる建物だな。背の高い建物から一年生。学年が上がるごとに低い建物に移っていく。一番低いあの建物が最上級生の校舎だ」

 うわっ、ふるいに掛けられる現実を目の当たりにする光景だ。

 僕たちは広場を横断して、更に奥に進む。

 窓から生徒たちの顔が覗く。

「あんなに幼い子もいるんだ」

「年齢制限はないからな。地元や自宅で学ばせるくらいなら、ここにさっさと入れてしまおうと考える親も多い。一方で入学金を頑張って自力で貯めてから入ってくる年長の者も少なくない。ただ言えるのは各学年留年は三度まで、六学年で卒業することだ。もちろん優秀な人材には飛び級もある」

「姉さんは?」

「アシャン老のおかげで基礎は身に付いていたからな。四学年から初めて、飛び級して一年で最上級になってやった。図書館の本を読破できなかったから、わざと留年して三年間居座ってやったけどな。そのおかげでジーノや他の友人とも知り合うことができたから無駄じゃなかった」

「あれ魔法の塔の馬車だぜ」

 子供たちがベランダに身を乗り出してこちらを見下ろしていた。

 どうやら授業が終ったらしい。

「誰が乗ってるんだ?」

「なんで御者台に三人いるんだ?」

「うわっ、真ん中の女の人、すっげー美人だ」

「あれ王宮魔道士のローブよね」

「はーっ。あこがれちゃうな」

 退屈な暮らしを強いられている生徒たちが通過する僕たちを餌に、嬉々として騒ぎ始める。

「両側にいるのは?」

「そう言えば転入生が来るって」

「どっちだ?」

「どっちも歳食ってるね」

 おい、こちとらまだ一五だぞ。パスカル君はもっと若い!

「あのおばさ――」

 子供が爆発した。

「げっ!」

 パスカル君がぽかんと口を開け、目を点にしている。

 煙が晴れると咳き込んだ少年が現れる。

「姉さん…… 大人げない」

「ふん! ちゃんと手加減してるわよ」

 そういう問題じゃなくて。

「建物には障壁が掛かってるから、あれくらい大丈夫なのよ」

 本気でやったらぶち抜けるだろうが!


「すっげー、今無詠唱だったよな?」

「なんだよ、あの飛距離…… 嘘だろ。魔法ってあんなに射程伸ばせるのか?」

「思い出した! あれレジーナ先輩よ。この学校の最優秀卒業生。校長室の前にある歴代首席の肖像画のなかにあった」

「マジかよ! レジーナって『ヴァンデルフの魔女』じゃんか! うっへー、本物かよ」

「みんな呼んでこようぜ」

「それよりあのちびっ子大丈夫か?」

「おー、くわばら、くわばら。口は災いの元だな」

「終ったな、あのチビ」

 僕は思わず吹き出した。

 パスカル君も笑いをこらえるのに必死だ。

「ちょっと、パスカル君?」

「すいません。でもおかしくって……」

 顔を真っ赤にしてこらえている。


 実験棟やら、訓練場やら、実戦闘技場やら、巨大建造物を抜けるとようやく魔法の塔もどきに辿り着いた。

「ここが、この魔法学校の中心。職員棟兼、王立魔法図書館だ。残念ながら規制が厳しくて、欲しい情報が見つからないことが多い」

 姉さんの場合はだろ?

「学年ごとにカテゴリーが決められているので、必要以上の情報を得ようとすると苦労することになる」

「はい」

 真面目に聞かなくてもいいよ、パスカル君。

「そんなときはうちに手紙を寄越しなさい。わたしでもエルネストでも構わないから。手に入るものなら揃えてあげるから」

「はい、ありがとうございます」

「取りあえずエルフの辞書を送って上げるわ」

 僕たちの話を聞いてたのか。恥ずかしい。

 馬車置き場に馬車を留めると、係りの者に手綱を任せた。

「エルネスト、ヘモジを仕舞いなさい」

「え?」

「ここから先は魔法厳禁だから」

 車輿を開けるとヘモジがまだ寝ていた。

「ヘモジ、ここから先少しの間魔法が使えなくなるんだって」

「ナーナ」

 目を擦って起きあがる。

「ナナ」

「うん。すぐ戻してやるからな」

 ナガレだったら断固抵抗しそうだけどな。

 ヘモジの姿が消える。

「ほんとに召喚獣だったんですね……」

 少年は甚く感動していた。大きくなったところを見ているだろうに、消えたときに実感するとは。

 駐車係も目を丸くしていた。

「武器は?」

「駄目に決まってるでしょ」

 建物に比べて小さな入り口からなかに入ると、どこかで見たことのある箱が目に入った。

「魔法の塔にもあった」

 エレベーターだ。

 あちらは完全ミスリル製だったが、こちらの箱は鉄と木でできていた。

 魔力を注入する手を置く装置を探したがどこにもなかった。代わりに姉さんは壁に付いている時計の針のような大きな矢印を動かした。エレベーターが動き出した。

 職員室はすぐ二階にあった。

「待っていなさい」と言われたので僕たちは廊下で待っていた。

 姉さんはひとり職員室に入って、挨拶をしに行った。

 すぐに奥の応接室に通された。

 姉さんとパスカル少年がソファーに座り、僕は後ろの方に立っていた。テーブルに書類が並べられ、事務的な手続きが淡々と進むなか、僕は欠伸を数回こらえた。

 突然姉さんたちが席を立つ。

 手続きが終ったらしい。

 これから学内の案内をしてくれるそうなので一緒に付いて行くことになった。


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