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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第八章 春まで待てない
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指名依頼と魔法少年4

 僕たちは宰相殿が決めた通りのルートを進む予定だ。

 あえてアポリアーニの影響が色濃い領地を横断して、魔法学校に向かうルートである。

 強引な手であったが勝算はあった。

 宰相殿がいきなり乗り出してきたことの真意がそこにあったからだ。


 宰相の予期せぬ登場は本妻を焦らせたに違いなかった。

 末端の貴族に宰相がわざわざ会いに来るなど余程の理由がなければあることではないのだから。王家が世継ぎ問題に干渉しようとしていると勘ぐるには充分な理由であった。

 ロッジ卿のことだから、笑顔で煽るようなことを言ったかもしれない。

「血筋は大事にすべきだ」とか、「アポリアーニの影響を受けた領地は酷い目にあっているようですよ」とか、本妻の耳に届くように、あからさまにやったかもしれない。否、やったに違いない。

 本妻は実家に早馬を走らせずにはおれなかっただろう。

 彼女自身傀儡なのだから、失敗して実家からの援助を打ち切られたくはないはずだ。元々子供ができていればこんな問題にはなっていなかったのだから、彼女も気が気ではなかっただろう。事態の急変を一刻も早く実家に知らせなければならない。


 連絡を受けたアポリアーニの当主も宰相の登場には動揺するだろう。

 そして多少手段が乱暴でも早期に解決する道を選ぶだろう。

 宰相がザクレスにいる間は領地には手は出せない。あからさまに対立するようなマネをすればそれこそ自分たちの身が危うくなる。

 残るは元凶の排除である。

 最も簡単で、分かりやすい解決方法だ。

 問題はその元凶を襲撃する機会が、今回の一連の計画で、却って限られてしまったことだ。

 苦虫を噛みつぶした顔で「巻き込まれる王宮魔導士は運がなかった」とか言って、悪役を気取っていることだろう。

 その魔導士がどこぞの魔女だと知っていれば、対応も変わっていたのだろうが、他人を侮り続ける者には滅びの瞬間まで、すべてが御しやすく見えるものだ。

 少年は運のいいことに自分たちの領地を横断中である。運悪く夜盗に襲われたとでも報告すれば誰も異議の唱えようがない。そうだ。問題など何もないのだと。


「さすがに馬がばててきたみたいだな」

 僕たちは手頃な場所で馬を休めることにした。

「この先の検問押さえられてるんじゃ?」

 パスカル少年が心配そうに尋ねた。

「問題ないよ」

「エルネスト、次は馬車で矢を受けてくれ。証拠を取っておきたい」

「了解」

 僕は万能薬をヘモジに渡した。

「馬に飲ませてくれ」

 するとヘモジが自分も欲しいと言い出した。

「召喚獣に効くのか?」

 ヘモジはグビグビと小瓶を飲み干した。

「ナーナナ、ナナナナナナン」

「『元気になった。ハンマー百回投げられる』?」

 ほんとかよ?

 少なくとも馬は疲労を回復したようである。


 馬車を出してすぐのことだ。

「お、第二陣が来たかな」

 集団が前方から接近してくる。

 僕は望遠鏡で反応を確認する。

「盗賊の振りをしているけど足並み揃いすぎだよね」

「ナーナ」

「いや、今回はやり合わないよ。ヘモジは馬を守ってくれな」

「ナーナ!」

「じゃ、やりますか」

 僕たちは馬の鼻先の向きを変え、街道を逆走し始めた。

 なかなか追い付いてこないので、少し足を緩める。

 こっちの馬は持病が治ったかのように見違えるように元気になってはしゃいでいたが、あちらさんの馬は遠路遙々飛ばしてきたので既に青息吐息であった。

 ようやく矢が飛んできた。一本の矢が馬車の尻に刺さった。

 続け様に数本バンバンバンと刺さった。

 怪しまれないように馬の速度を若干上げるが、道のカーブがきつくなるとわざと速度を落とした。

 飛んできた。バンバンバン、側面に次々命中する。

 紋章を見事に射貫いている。

 あーあ、王宮に弓引いちゃったよ。

 まだまだ飛んでくる。

 あっという間にハリネズミである。

「もういいだろう」

 馬車のなかから声が掛かる。

 走りたがっていた馬に本気で走って貰う。敵の馬の疲弊は甚だしく、距離は見る見る離れていく。

 充分引き離したところで、僕たちは脇道に入り、気配と轍を消して行く。

 追跡者がひたすら街道を疾走していく。

 姉さんは望遠鏡で街道を監視する。

「お、行った、行った」

 さて、行くとするか。僕たちは今度こそ領境に向かう。

 検問に差し掛かると僕たちは馬車を止めた。

「よし、ここまで来ればいいだろう」

 僕は全員の荷物を取り出すと馬車を『楽園』にしまった。

 馬には姉さんが跨がり、検問を抜ける。抜ける際に捨て台詞を忘れない。

「王宮魔導士に何をしたか分かっているのか? 後でどうなるか覚えておけよ!」こんな感じだ。

 斯くしてアポリアーニ家子飼いの領主たちは王宮魔導士も逃がすわけにいかなくなるのであった。

「僕たちはこっちだ」

 警戒の薄い場所にゲートを作った。

「これも魔法?」

「そうだけど、内緒だよ」

 僕たちはゲートを潜った。

 しばらく行った先で姉さんが待っていた。

 僕は馬車を出して馬を繋ぐ。

「これも魔法なんですね?」

 少年は驚嘆している。

「あいつのすることは人外だ。参考にするなよ」

 どっちが人外だよ。

「内緒で頼むよ」

 僕たちはまた針の山のように矢の刺さったままの馬車を走らせる。

「いやー、目立つねー」

「いい目印になる」

 すぐ追っ手が来てくれるかな?

 馬は快調に走る。荒れた道も何のその。ヘモジと意気投合したのか一緒になってご機嫌である。

 こちらの足が速すぎたのか、追っ手はなかった。

 日暮れに差し掛かり、僕たちは今日の寝床を作ることにした。街道をはずれた丘の上に野営地を決めると、いきなり姉さんがやってくれました。

 いきなり地下に通じる道ができて馬車ごと地下に収まった。

 明かりが灯ると、地下に豪華な宿泊施設ができあがっていた。

 すぐに火の魔石を付けた。

「凄い……」

「あれも人外だからな。穴熊だ、穴熊」

 姉さんは馬車の矢の刺さり具合を確認している。

「上々だな」

 満足しているようだ。

 僕はテーブルに食事の皿を並べる。

 パスカル少年とヘモジは馬に水と飼い葉を与えている。

 僕はモチモチチーズパンと野菜スティック、それと焼き肉のブロック、ジュースを取りだした。魔法で火を起こして肉を焼き直して、スライスして全員の皿に置いていく。ジュースを全員のコップに注ぐ。

「野営だというのに豪勢ですね。なんだか豪華な宿に泊まってる気分です」

「ナーナ」

「わかったよ」

 珍しくヘモジが急かした。どうやら腹ぺこのようだ。

「姉さん食事だよ」

「今行く」

 僕たちは暢気に食事を始めた。

「このパン柔らかい!」

「それに美味しい! チーズが入ってる!」

「このお肉も、柔らかい。香草の香りが鼻に抜けて――」

「ジュースも美味しい!」

 感心しきりである。

「ナーナ」

 ヘモジが野菜スティックを差し出した。

 少年は野菜をかじる。

「野菜は…… 野菜だよね」

 この一言にヘモジが怒った。やれ産地がどうとか、採れ立てだとか、品種がと長い講釈が始まった。

「ナナ、ナーナナ、ナナナナナナ。ナナナ? ナナ、ナーナナ! ナナナナナ!」

 姉さんもうっとうしげにジュースをがぶ飲みしている。

「このまま進むの?」

 だから声を掛けて紛らわせようとした。

「どうしたものかな。物的証拠は挙がってるし、これ以上続ける必要はないんだが……」

 姉さんの視線はパスカル少年に注がれていた。寮生活に入ればしばらく外界と接することができなくなる少年に同情しているのか、いつになく歯切れが悪い。


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