西方遠征6
リオナが部屋を出て行った。
テトが入れ替わりに戻って来たので交替だ。
僕はキャビンの様子を伺った。
キャビンではアイシャさんが陣頭指揮を取っていた。
「チッタとチコは身体を固定しろ! オクタヴィアはチコに抱かれてろ! ヘモジはご主人の所に行け。リオナとナガレは上じゃ。ピノとピオトは見張り部屋に行け! ロメオとロザリアは後方狙撃室じゃ!」
『目視した! 正面一、右から二』
「近い方から叩くぞ」
「右が近いよ」
チコが教えてくれた。
「テト、こちらから迎え撃つ。下の冒険者の邪魔にならないように距離を取るぞ」
キャビンはアイシャさんに任せて操縦室に戻る。
魔力補充担当席に座るとヘモジもやって来たので、なんとなく膝に置く。
窓の正面に二つの影を捕らえた。
「引き寄せたら左に旋回する! 狙撃担当は右側で待機! 攻撃のタイミングは各自に任せる」
伝声管で指示を出す。
テトが船を減速させると同時に、舵を左に切った。
「見事に衝突コースに乗った」
僕は念のために結界を張る。
落雷が一匹目の頭上に降り注ぐ。
断末魔の叫びを上げると、ワイバーンは羽根を二つに折りながら墜落した。
「このまま左を捕らえる! 直進そのまま!」
二匹目を捕らえた。接敵する前にワイバーンが勢いそのまま船の下方に落ちていく。
リオナの遠距離狙撃が命中したようだ。
必中もなしになんで当たるかな。
「テト、後ろに張り付いた奴を振り切るぞ」
「了解ッ!」
「最大船速、高度上げ!」
落雷が命中した。
今度は後方狙撃室のロメオ君だった。
「えーっ!」
僕とテトはがっくりと項垂れた。
「終っちゃった……」
「活躍できなかったな」
「せっかくの腕の見せ所だったのにぃ。やり過ぎだよ、みんなぁ」
テトが不満を漏らしながら、船の姿勢を戻した。
落ちた三匹は皆絶命していた。特別欲しいものもないので、野犬にくれてやることにした。
「敵はもういないかな?」
「ぶーっ」
テトがほっぺを膨らました。
こっちを睨むなよ。しょうがないだろ、倒せちゃったんだから。
「戦闘体勢解除。通常航行に移行する」
ヘモジがテトの肩に乗り、頭を撫でて慰める。効果覿面だった。
それにしても新型艇様々だな。速度で遅れを取らなかった。というよりうちの連中、ますます遠距離攻撃に磨きが掛かっていた。
親父たちはことあらば加勢しようと腰を浮かせていたが、余りのあっけなさに呆然としていた。
兄さんはチコの横の席でオクタヴィアの頭を撫でながら楽しそうに笑っていた。
子供たちの豹変振りと親父たちの呆れ顔が余程面白かったのだろう。
僕はそれをさも当たり前であるかのように澄ました顔で眺めた。
『川が見えるよ』
テトが言った。
「チッタ、方角は?」
「予定通りで問題ありません」
テトは船首を回頭させた。
のんびりおやつの時間を楽しんでいると、回廊から広々とした森に出た。
雪を被った森の下に活動中の生命が溢れていた。
「この生命力は?」
いきなり森のど真ん中に衝撃波が放たれた。周囲の積雪が高く巻き上がった。そして巻き上がった吹雪も強風で押しのけられた。
アイシャさん、やること豪快過ぎだよ。
森に被っていた積雪はきれいに取り払われた。にも関わらず……
「気配はすれども姿は見えず」
目視できなかった。
「土のなかにいるのです」
「モグラだな」
叔父さんが言った。
「じゃあ、ここはモグラの天国か?」
その数は足の踏み場もないほどだった。
「貰うぞ」
兄さんがおもむろにテーブルのパンを一つ取ると、窓から落とした。
パンが地面に落ちると、突然、さざなみのように地面が波を打った。
「げっ!」
「うわぁあ」
みんな驚いた。
大量のモグラが地中から這い出してきて、一個のパンを奪い合い始めたのだ。
風もないのに木々が揺らめいた。
「生きてるよ、あの木!」
ピノが叫んだ。
樹木だと思っていたものは魔物の擬態だった。樹木に絡みつく蔓草が蛇のように蠢き、モグラを次々すくい上げ始めた。
逃げ惑う大量のモグラが蔓草に巻き上げられ、葡萄の房のように枝に吊り下げられていく。
そして暴れるモグラを容赦なく締め上げる。
「うわっ、怖っ! 何だ、あれ?」
さすがのピノもビビっていた。
「『吊るし首の木』だ。人でも容赦なくへし折るぞ」
叔父さんが答えた。
「変な名前」
チコが言った。
「意味は 『わたしは既にお前を見ている』だ」
「怖ーっ、怖いよ! おじさん」
「燃やすわけ?」
「奴らがいる以上、この辺り一帯は焼き尽くさないといけないだろうな」
「モグラは?」
「『吊るし首の木』がなくなれば、他の魔物の捕食対象になるからな。屋根がなくなれば逃げ出すしかないだろう」
「この森、結構大変だね」
辺りを周回して、他の魔物の棲息を探ったが、他に魔物らしい魔物はいなかった。『首つりの木』が群生しているおかげで、地上は至って静かだった。
暗くなる前にどこに陣地を定めるか、防衛ラインの堀をどの辺りに定めるかを決め、一旦回廊の裏手の安全地帯に待避する。
予定より早く日が暮れてしまったのだ。
錨を降ろして、船を空中に留めて、夜を明かすことにする。
食事を済ませるとおやつをこっそり持ち出して子供たちは寝室に下がった。大人たちは十四年物の酒を楽しんだ。
棟梁には、また土産に一樽買っていこう。
「寝る場所決まったか?」
寝室に行き、子供たちの様子を伺う。カーテンから子供たちが全員揃えたように顔を出す。
「分かりやすいな」
向かって左の三段ベッドにアイシャさん、ロザリア、リオナが。真ん中のベッドにはチッタとチコが。向かって右側のベッドにはピノ、ピオト、テトが。真ん中がナガレとヘモジとオクタヴィアだ。ナガレだけ男の子側というのは可哀相なので、互い違いに区切っている壁を取り払って反対側にすげ替えた。真ん中の四段ベッドは三、一で左右に区切られた。
少し遊んでから眠ると言うので、後は任せて僕は下に降りた。
親父たちはソファーを寝床に酔いつぶれていた。余程いい酒だったようだ。
操縦室に戻るとロメオ君と兄さんが座席の背もたれを倒して、ふたり揃って読書中だった。
「お帰り」
ロメオ君が振り返った。
「ただいま」
僕は兄さんを見る。
「兄さん、ここで寝る?」
「いや、酔っ払いから逃げてきただけだ。二階で寝かせて貰うよ」
「毛布は余ってるから好きなだけ持っていってよ。石は絶やさないから、寒くはならないと思うけど」
兄さんを追い出すと、僕はちょろまかした酒のつまみをロメオ君と分けあった。
その夜、僕はひとりこっそりと探知スキルを目一杯働かせて楽しんだ。
大量のモグラには辟易したが、『吊るし首の木』のいないところには別の魔物たちがいた。
なかにはあの「血が血を呼ぶ」セベクがいた。しかも迷宮では四十台だったセベクがここでは五十台だ。
思わず溜め息が出る。迷宮と違ってここでは打ち止めはない。
討伐隊の先の苦労が忍ばれた。
西の方角にぽっかり空白地帯が見つかった。まるで魔物たちが避けているようだった。それはつまり何かがいるか、ある証拠だった。
僕は、集中して空白地帯を探った。
起こすと面倒な何かがいるのではないかと勘ぐった。
すぐにそこが湖だと分かった。水中深くには残念ながら探りは届かなかった。
何かがいたとしても、駐屯地の予定地からは大分距離がある。
明日探りを入れるか……




