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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第八章 春まで待てない
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西方遠征5

 まず、予備の魔法陣を作動させて、左右のコンテナの魔法陣を切ってみた。

「駄目だ! 高度が落ちるよ」

 やはりコンテナ二つ分の重量は支え切れないようだ。

 仕方がないので降ろす右側のコンテナの『浮遊魔法陣』だけを切る。と同時に、予備の魔法陣をフル稼働させ、影響を最小限にとどめることにする。

 船が震動と共に大きく右に傾いた。

 子供たちが悲鳴を上げる。が、なんだか楽しそうである。

 魔法陣の出力を調整しながら傾斜を徐々に戻していく。右斜め下方の魔法陣を働かせて、船に捻る力を加える。

 取りあえず船は傾いたまま安定した。

 ふたりの操縦士はほっと溜め息をつく。

 正常なバランスではないので予備の魔力の減少は続いている。

 僕と棟梁は船外活動を始めた。

「おー、寒い。冷たい」

「通路だ」

 棟梁が「そっちに行け」と指差した。

 オープンラウンジを出て僕たちは点検通路を進んだ。

「ここから降りるぞ」

 こんな所に梯子があったとは。僕たちはコンテナの腕の接合部まで降りる。

 風は強いし、足元は前のめりに傾いてるし、揺れるし。命綱を手摺りに縛ってはいるが、結構怖いものがある。

 手摺りを掴みながら、親方の指示の元、固定ボルトを抜き、最終ロックを外す。

 ガクンと揺れた後、足元のコンテナが宙づりになった。滑車に吊されたワイヤーロープがコンテナを支えていた。

「こういう仕組みだったんだ」

「まあな」

 滑車のハンドルを回しながらゆっくりコンテナを降下させる。

 降りて行くコンテナを真上から見るのも面白い。中庭から降下位置がずれている。

 この間も船は傾いたままだ。

 ワイヤーが伸びきると、手と大声で合図しながら、落下ポイントを修正、ワイヤーが届く高さまで船の高度を慎重に下げていく。

 なんとか接地すると、下の連中がコンテナに登りフックを外していく。

「よーし、全部はずれた!」

 船は一度高度をとるため浮上する。僕たちはワイヤーを巻き上げると、反対側に回った。

 船はゆっくり水平を取り戻した。そして反対方向に傾き始める。

 予備の魔法陣だけで浮力は稼げているようで、次のコンテナの魔法陣解除はスムーズにいった。

 こっちの作業も二度目となれば手慣れたものだ。最初に降ろしたコンテナの横にきれいに揃えて降ろして見せた。

 親父がオープンラウンジに出てくると、他人のボードで飛んでった。

「大丈夫かよ」

 体格違いすぎるんだから、落ちるなよ。

 ワイヤーを巻き上げながら下を覗くと、親父がランディングを決めていた。

 無事に着地できたようだ。

 僕たちが船内に戻ると、棟梁が言った。

「問題山積だな」と。

 せっかくのプレゼンテーションの機会がこんな形になってしょげているようだ。

「そのための実験船ですよ」

 僕は棟梁の評価を下げたりしない。僕たちがやってることは初めてのことなんだから。陸とも海とも違うんだ。こんな楽しいことはない。

 それにこれだけ傾いても落ちないことは分かって貰えたはずだ。コンテナがなくなったこれからがこの船の本領発揮なのだ。

『棟梁、魔石どうしますか?』

 ロメオ君が聞いてきた。

「予備の石だけ交換しておいてくれ」

 伝声管で伝えると、棟梁は近場の椅子に座り、メモを取り始めた。仕事人の顔だ。

 しばらくして親父が戻ってくると、船は再びリバタリアに進路を取った。

 コンテナはスプレコーンに帰るときに回収する約束をした。

 ようやく酒樽の栓が開いた。



 リバタリアで棟梁と母さんを降ろすと、アンドレア兄さんと西部遠征の責任者の叔父グレゴリオが乗り込んできた。

「お久しぶりです。叔父さん」

「でかくなったな、エルネスト。今日は頼んだぞ」

「はい」

「兄さんも久しぶり」

 こないだ会ったばかりだけど。

「ああ、久しぶりだな。早速見せて貰っていいか?」

 ふたり揃って小さく含み笑いをする。

「どうぞ」

「案内するのです」

 案内をリオナたちに任せて、僕はチッタの元に向かった。

 親父は既に詰めていて、地図を前に航行ルートの説明を操縦士のふたりを交えて説明していた。

「まずは、この山の山頂に向かって飛んで、この川に差し掛かったら二十度北に回頭。山を越えて回廊に入ったら……」

 チッタが長テーブルに身を乗り出して、地図に定規を当てて線を書き込んでいく。

「回廊を出たこの辺りにベースキャンプを造ろうかと考えている。今日のところはこの辺りを重点的に頼む」

 到着時間を考えると、現地調査をする時間は余りない。

「日が沈んだら回廊の裏手まで下がり、一泊して、翌日続きをしよう」

「その場に留まらないのですか? 夜には夜の、冬には冬の敵がいるのではありませんか?」

 兄さんが戻ってきた。

「わしらは先発隊ではない。まずは地形の大まかな掌握とルート作りだ」

「どの道遠征は春からしかできん。急ぐことはない。今からやり過ぎると余計な人員を割かなければならなくなるぞ」

 叔父も続いてやって来た。

「エルネストはどう思う?」

 兄さんが聞いてきた。

「兄さんがいる間に安全地帯を造るところまではやってもいいんじゃないかな。取りあえず当初の予定通り、川の流れを変えて溝を掘るところまで。うまくいけば先遣隊が来たとき、成果を確認できるはずだよ」


 打ち合わせが終ると、操縦士と索敵以外は休憩に入った。

 回廊まで最速でも二時間かかる。みな僅かな時間を思い思いに過ごすことにした。

 ナガレとアイシャさんは親父たちに地獄門の正体について解説し始めた。

 子供たちは解放されて、船のなかを飛び回っていた。

 オクタヴィアとヘモジはソファーで昼寝している。

 僕は操縦桿を握り、限界速度にアタックしていた。

「速いのです! 鳥を追い越したのです」

 リオナとロメオ君は僕の後ろで景色を堪能していた。

 鳥の群れが後方に流れていった。

 この辺りはもう僕の知らない土地だ。とは言え一面真っ白でこれまでの景色とさして違いはなかった。

「大物です」

 雪上に蠢く姿があった。

「なんだ?」

「地竜じゃないかな?」

 あれが地竜?


『地竜 レベル六十、オス』


「ほお、この時期に出歩いているとは珍しいな」

 兄さんが様子を見に来た。

「肉食べれるですか?」

「さあ…… わたしは食べたことないからな」

「焼いてみないと分からないですか」

「大人しい奴だから見逃してやろう」

 突然、地竜が長い首をもたげて後方を覗いた。そして大きな身体を揺さぶり後方を長い尻尾で薙ぎ払った。

「冒険者だ!」

 どうやら迎撃部隊のようだ。

 大掛かりな部隊だ。四組以上のパーティーが出ていた。

「この先の町の依頼だろう」

 フライングボードの廉価版に乗って接近してくる。

「おー、役立ってるなぁ」

「へー、ああやって戦うんだ」

「目が回りそうだな」

 ハイレベルな冒険者の戦闘はなかなか見る機会がなかったから、興味津々である。

「お前たちはどうしてるんだ?」

「え?」

 僕たち? それはですね……

「一撃必殺なのです。フロアー殲滅なのです」

「ええと……」

「やられる前にやるのです」

「まあ、そんなとこ」

 何かに見つかった気がした。

「敵発見なのです!」

「新手の敵三体捕捉。急速接近中!」

「ワイバーンだ!」

 こんなときに! 山間部からはまだ少し距離があった。余程餌に飢えていたのか? それとも狙いは地竜か?

「戦闘準備!」


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