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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち
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銀色世界と籠る人々5

 水前月一日。

 異国では新暦としてこの日を正月にしている国も多い。そんな日の朝。大きな木箱が我が家に届いた。

 誰も心当たりがなかった。

「宛名はここになってますね」

「どこからの荷物じゃ?」

「王都になってます」

「誰か王都で買い物したですか?」

 この大きな荷物のおかげで、エルーダ詣での出鼻が挫かれた。

「館の荷物が混ざったんじゃないか?」

「聞いてくるです」

 リオナとナガレが飛んでいった。ナガレは行かなくていいだろ?


 しばらくすると、姉さんとヴァレンティーナ様がやって来た。

 こっちもふたり揃って来なくていいのに。

 結局、ふたりにも身に覚えがないらしく、開けてみることになった。

 姉さんが怪しい物がないか入念にチェックする。

 我が家の鼻の効く連中も匂いと音のチェックは済ませている。

 合図と共に木箱の隙間にバールをねじ込んでこじ開ける。


 なかから出てきたのは美しい洋服ダンスだった。タンスのなかにはこれまた見事なドレスがずらりと並んでいた。

 下段の引きダンスの天板にカードが一枚貼り付けてあった。


『ハッピーバースデイ。リオナ。誕生日おめでとう 父より』


「父さん?」

 ヴァレンティーナ様が慌てて口を噤んだ。

「これ…… お母様のドレスなのです」

 ふたりにとって不遇な時代の思い出の品だった。

「そう言えばリオナ、今日あんたの誕生日だったんじゃないの?」

 ヴァレンティーナ様から爆弾発言。

「え? 今日?」

「なんであんたが知らないのよ!」

 ナガレに槍で突かれた。

「三十一日じゃなかった?」

 次の三十一日は来月のはずだ。

「天後月三十一日。この子の誕生日よ」

「えええっ?」

 みんな驚いた。なぜなら天後月三十一日は閏日だからだ。

 毎日が誕生日のようなリオナの誕生日が四年に一度とは。しかもその翌日は……

「奇遇だな。今日はエルネストの誕生日だ。まさか一日違いとはな。これからは毎年一緒に祝えるな」

 姉さんが言った。

 僕の誕生日は本日、水前月一日である。

「なんで言わないのよ、ふたりとも!」

 狩りどころの話ではなくなった。

「プレゼントを用意しなくちゃ」と緊急事態に。狩りは中止になってしまった。

 王様も余計な物を送ってくれたもんだよ。

 こうなることは分かっていたから黙っていたのに。

 それにしても誕生日が隣り合わせだったとは。

「お隣さんだったです」

 その事実が、最高の誕生日プレゼントだった。

「その前に、これをなんとかしないと」

 運送屋も王都から遠路遙々、これだけの物を運ばされる羽目になるとは、さぞ苦労したことだろう。

 僕たちは全員で、このタンスをリオナの第二部屋の方に運んだ。さすがにツリーハウスまで持ち上げるのは無理があった。


 タンスを運び終えると皆消えた。姉さんが残った。

「王様も余計なことをしてくれたな」

「お母さんの形見とはね」

「暢気に構えてていいのか? リオナへのプレゼント」

「どうしたもんかな。肉は定番過ぎるけど、これしかないって気もするしな。何か欲しい物でもあればいいんだけど。まさか閏日だったとはね。あれ? リオナはどこに消えた?」

「もう飛んで行っちゃいましたよ」

 エミリーが言った。

「なんだ、リクエストがあれば聞いてやったのに」

「それって一番駄目なパターンですよ。悩んで用意するから価値があるんじゃないですか」

「あいつ、食い物以外、興味なさそうだしな。困ったな」


 困ったときの流行雑誌頼り。僕は書庫に向かった。アイシャさんの雑誌コーナーを漁る。

『女の子が喜ぶ誕生日プレゼントランキング』

 やった。見つけた。

 一位、オリジナリティーのある物。二位、アクセサリー。三位、財布…… 財布?

「うーん、オリジナリティーねぇ。アクセサリーは今更いらないだろうな。最高の付与装備で充実してるからな。三位の財布はわけ分からんから却下」

 オリジナリティー…… 僕だけの何か…… 僕にできること。僕だけにできる何か……

やっぱり肉か? 否、肉だと絶対被る。剣もいらんし、装備も今のところいらないだろ? 手袋はこないだヴァレンティーナ様から貰ったしな。四位は…… 旅行? こないだ海に行ったばかりだ。聖都にも行ったしな。旅行ってのは現地泊まりじゃなきゃいけないのか…… それなら砂漠行ってるしな…… 五位以下はぱっとしないし…… リオナに花束はまだ早いよな…… やっぱり一位狙いで…… 肉…… 肉…… 珍しい肉は…… そもそも誕生プレゼントに肉はありか? 常識を打ち破るのもオリジナリティーだよな。嗚呼、何にすればいいんだ。

「駄目だ、脳味噌沸騰する。こうなったら奥の手だ。『楽園』に行こう」


 相変わらず居心地のよい部屋である。早速探してみる。

「リオナの誕生日にふさわしい物とは?」

「……」

 反応がないな…… 質問が漠然としているからか? そうだ、世界一うまい肉とは? 


『ことわざ辞典』


 なんでことわざ辞典が……

『蓼食う虫も好き好き』

「……」

 あ、異世界のことわざだ……

「馬鹿にしてんのかぁあ」

 オリジナリティー…… 肉…… 肉料理…… あっ!

「いいもんみっけた!」


 その夜、身内だけの慎ましやかな誕生会が執り行われた。

 僕が『楽園』に消えている間に、僕たちへの誕生日プレゼントで玄関が埋もれてしまい、急きょ、プレゼント無用ということになった。因みに八割方、肉だった。

 よかった、肉にしないで。


「お誕生日おめでとー」

「ではまずプレゼント贈呈だな」

「誰から行く?」

 くじ引きで決めた。

 まずはゼンキチ爺さんからだ。

 リオナには食事用のものではない、切れ味の鋭いナイフ。どう見てもアサシン用の投げナイフだ? 僕にはピッキングツールだった。

 爺さん何考えてんだ? 形見分けか? 死地にでも行くつもりか? 


 二番手はロメオ君。僕たちふたりに陶磁のお茶会セットだった。さすがロメオ君。気が利いてる。でも一番喜んでるのはアンジェラさんだけどな。


 三番手はアイシャさん、リオナには自家製の香水だ。僕には表沙汰にはできない魔法術式が…… 戦術級のお笑い魔法『小人の小人による小人のための戦術的撤退』。オクタヴィアの説明では、ピンチのときに使うと小人がワラワラと沸いて出て、一斉に蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑うという魔法らしい。術者はその隙に逃げるという、役に立つんだか立たないんだか微妙な魔法らしい。『ピクシーアタック』という精霊系魔法のもじりだそうだ。因みに小人を大量に召喚するので魔力をどか食いするらしい。

 アイシャさん、意外にお茶目である。


 次はそのオクタヴィアから、クッキーのお裾分け。


 続いてヘモジからは○×△※☆!

「そんなもん家に持ち込むんじゃありません!」

 女性陣が一斉にヘモジを消毒し始める。

「生きたゾンビ鼠なのです……」

「言うな!」

 オクタヴィアでさえ、どん引きしている。

 プレゼントではなく、たまたま見つけたので持ってきたらしい。


 落ち着きを取り戻して続きを再開する。

 エミリーからお揃いの手編みのマフラーを貰った。エミリーが天使に見えた。


 次にアンジェラさんから。手縫いの帽子だ。エミリーのマフラーとセットらしい。これこそ平凡な家族の営み。ぶれないふたりにほっとする。元々フィデリオのおまけで人数分作る予定だった物らしいが、嬉しい限りだ。


 次はナガレである。

「時間がなかったから」

 そう言って真珠を一粒ずつくれた。わざわざ海まで獲りに行ってくれたらしい。

 台所にある大量の土産は見なかったことにしておこう。


 ヴァレンティーナ様から、リオナに、高級菓子の詰め合わせと、来年度のお勉強セットが贈られた。リオナが凹んだ。

 僕には体技用の練習装備一式だ。未だかつてこんなに感動の薄いプレゼントを貰ったことはなかった。優しさが空回りしてますよ。義姉さん。


 実の姉からは恒例の希少本セット。今年は三冊だ。毎度ありがとうございます。

 だがリオナには僕の幼かった頃の諸々。なくしたと思っていたペンやインク。いつの間にか新品とすり替えられていた一張羅の帽子にチョッキ。捨てたはずの古いおもちゃや日用品等々が送られた。

 何してくれてんだよ、姉さん!

 リオナも嬉々として受け取るなよ!

 全くもう、どこまでが冗談だか分かりゃしない。


 そして最後は僕とリオナのプレゼント交換である。

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