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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち
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エルーダ迷宮迷走中(神様の腰掛け編)25

 開けると鍛冶屋のアガタが修理の済んだ僕のライフルを持って現れた。背中には大きな背負子を背負っている。

「銃が完成したんだ。持ってきた」

 断わりもなくなかに入ってくる。

「ほれ、お前の銃だ」

 投げて寄越した。

 僕がテーブルで梱包を解いている間、アガタは居間を巡り、厨房を巡り、二階を一周し、三階に。エレベーターに首を傾げ、一通り見て満足すると戻って来た。

「いい家だな。いい職人を使ってる」

「分かるのか?」

「まあ大体」

「で、これはどうだった?」

 本題に戻した。

「緩みを直しただけだからな。銃身が反ってるわけでも、部品が歪んでるわけでもないしな。作業自体は問題なかった。面白いものが付いてたから、そっちも改造しておいたぞ」

「面白い物?」

 指差したのは照準器だ。

 望遠鏡を仮止めしていたものを、しっかりした固定具で固定してあった。まるで初めからこの銃のために付いていたかのように。

「明るい。それに何このバッテン?」

「レンズが安物の雲母ガラスだったからな。水晶に変えておいた。バッテンは目安だ。照準はそこに合わせてある」

「ほんと明るいな。うちの望遠鏡よりよく見える。サンキューな」

「前金の礼だ」

 何やらソワソワしている。

「あ、あのだな。この町の鍛冶屋はどこから材料を調達してるか知ってるか?」

「ああ、そのことか。多分他の町から買ってると思うぞ。うちの領地ではまだ鉱山の話は出てないからな。自分で掘りたいのか?」

「ドワーフだからな。掘るのも仕事の一環なんだ。人から買うというのは、どうにもむず痒くて」

「迷宮は駄目か?」

「できれば穴掘りがしたい」

 目的が違うんじゃないか? 姉さんと同類か? 土を掘りたいだけか?

「お前の庭を掘らせてもらえんだろうか?」

「はぁあ?」

「今作ってる第二城壁との間に掘れそうな場所があるんだ。実際試掘しないと分からないんだが。聞けばお前の土地だって言うじゃないか。掘らせてくれよ。住人たちが住みだしてからじゃ面倒だからさ」

「城壁建造の邪魔をしなければ構わないよ」

「水が多い地域だからな、魔法を駆使しながらの採掘になるけど、姉御もいるしな」

 姉御? ああ、姉さんのことか!

「いっそ穴蔵に住んだらどうだ?」

 アガタが固まった。そしてぷるぷる震えだした。

 なんだ? 発作か?

「おおおおっ! それはナイスアイデアだァ! さすが坊ちゃんだ!」

「お前」と言ったり、「坊ちゃん」と言ったり忙しい奴だな。

 ドワーフに抱きつかれた。

「それなら弟子の住処にも事欠かないよ! 工房から弟子をふたりも任されて、どこに住まわせようか悩んでた所だったんだ。早速姉御と相談してみるよ! 助かった。また来るぜ。じゃあな」

 もう来るな。

 あっという間に消えた。

「騒がしい奴だな」

 それにしても新しい土地に鉱脈が? 何が出るかね。鉄が出ればいいけどね。

 僕はライフルを構える。

 ぴかぴかにしてくれたな。まるで新品同然だ。 

 僕は地下の装備部屋にある保管棚に自分の銃を納めた。



 翌日、僕とリオナは出かけた。

 一緒に行くはずだったアイシャさんは、新進気鋭の衣装デザイナーがアルガスに来るとかで、朝早くから出かけていた。

「着いたのです」

 ホームの出口を越えると雪化粧の山々が広がっていた。

 僕はライフルを望遠鏡代わりにして周囲を見渡した。

「魔物らしい魔物はいなさそうだな。空を飛ぶ連中は突然来るから安心できないけど」

 雪崩が来ても大丈夫そうな場所を探す。山間の中央の低い小山が狙い目だ。左右を谷に囲まれ、雪崩が仮に起こっても影響は免れそうな地形だった。

「あそこ行ってみようか」

 僕たちは出入り口を塞ぐと傾斜を降りて行った。急な傾斜では空を、なだらかないい感じの傾斜では雪の上を滑った。

 さすがリオナ、余裕で付いてくる。

 豪快な滑りを楽しんでいたら目の前にクレバスが。

 僕たちは宙に飛び上がった。

 大きな亀裂だった。上流から下に雪が動いていた。

「アメージングなのです」

「川か?」

 上流から谷間に沿って雪の塊がゆっくりと移動していたのだ。

「山岳氷河って奴か?」

 上流を見上げると、ホームの出口よりまだまだ高い場所に頂があることを知る。

「絶景だな。今の時期、観光に最適だな」

 僕はメモを取る。

 ここは絶景ポイントだ。


 目的の小山に着く。

「こりゃいいや」

 見下ろす裾野はどこまでもなだらかで、広くて、打って付けの地形だった。上級者にはかえって退屈なくらいだが。

「子供たちが遊ぶならこれくらいがいいのです」

 でも獣人の子供たちだろ? 満足するか? 周囲の危険地帯に行きそうな気がしてならない。

 僕たちは周囲を飛んでみて危険がないか確認する。

 危ない崖などもないし、魔物の巣も見当たらない。この場所でいいかもしれないな。

 僕は地図に周囲の状況を書き記す。絵は余りうまくないが、多分分かるだろう。

「あとはこのまま滑って問題がなければ『神様の腰掛け』に行こう」

 その前に、頂上でティータイムだ。

 周りの雪をカップに入れて魔法で湯を沸かす。そこに茶葉を入れ、しばし蒸らす。

 リオナがハンカチにくるんだクッキーを出す。

「オクタヴィアから盗んできたです」

 もちろん嘘である。クッキーには肉球マークはない。焼いて貰ったのだ。

「うん、おいしい」

 僕の感想にリオナが嬉しそうな顔をした。

「それ、リオナが焼いたです」

「そうなのか?」

 改めてよく見る。教えてる先生がいいからか、遜色ないように見える。

「うん、おいしい」

「よかったのです」

 僕たちがほっこりしていると、山の上の氷の塊が崩れて、渓谷に落ちた。

 びっくりしてふたりで固まった。


 空を飛ぶこと、三十分。

 リオナに魔力の補給をさせつつ飛び続けると平らな景色が見えてくる。

 そしてさらに飛ぶと見えてきた。地面から生えた巨大な岩の柱が。

 なるほど、氷河の川の行き着く先はここだったのだ。大地が大きく抉られていた。

 その上にどっしりそびえ立っているのが目的地である。

 でも少し高いな。

 僕たちは頑張ってほぼ平らな岩の頂上に降り立つ。

「うわっ」

 凍って滑る。

「滑るぞ」

 僕は雪をというか、その下の凍った岩の表面を溶かした。

 広さは思ったより広かった。秘密基地にもってこいである。

「見渡す限りの地平線」

 理想的だ。

「なんか書いてあるです」

 リオナが平らな地面に石碑を見つけた。


『某年、木前月、某日、我、到達す』


 風化して年月日がよく読めない。

 でも、言葉の最後のマークには見覚えがあった。

 姉さんのサインである。

 間違いない。幼い頃使っていたものだ。

 僕の着る服の多くは兄弟からのお下がりだった。体格的に姉さんのものが多かった気がする。男女を問わない物は大概回ってきた。そこには必ず入っていたサインだから忘れるはずがない。姉さんのサインの横に僕の名前が入るのだ。

「姉さん、ここに来たんだ……」

 それも、このサインを使っていた頃にだ。

 ここから何を見ていたんだろう?


 ここは僕の場所じゃなかったんだと急に興味が失せた。ここに小屋を建て、この辺りで菜園でもやって、船の格納庫はあの辺りで……

 僕は溜め息を付いた。

 ここは姉さんの思い出の場所だ。駅のホームを建設するために飛び回って見つけたのだろうか。

 案外、姉さんの親友だったユニコーンと知り合ったのはこの辺りだったのかも。

 僕は姉さんが見ていた澄んだ景色を改めて見回す。


「秘密基地を作るのは止めだ」

「止めるですか?」

「うん」

「残念なのです」

「飛空艇が修理中だから余計なこと考えるんだよな。飛空艇があれば、この空はいつでも見られるんだから。もうしばらく我慢しよう」

「空飛ぶ家を作ればいいのです」

「空飛ぶ家?」

「飛行船より何倍も大きな家なのです。飛空艇も留められるのです」

「そりゃ、すごいな」

「下りたい場所に下りたらそこが我が家なのです」

「いっぱい稼がなきゃな」

「頑張るのです。別荘なのです」

 鼻水が出てきたので、僕たちは転移結晶で家に戻ることにした。

 止めて正解だ。風が強すぎるし、寒すぎるから。

 最後にもう一度周囲を見渡す。

「姉さん、なんにも言わないんだもんな」

 僕たちは開いたゲートに飛び込んだ。


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