エルーダ迷宮迷走中(サイクロプス編)26
待ちに待ったヘモジのためのフロアー。エルーダ迷宮地下二十九階、サイクロプスの住む広大な世界である。
情報ではトロールのフロアーに近い丘陵地帯らしいが、こちらの世界は相当殺伐としているようだ。
サイクロプス同士が派閥を作り、縄張りを主張し合い、抗争を繰り返しては血で血を洗う、相当クレイジーなフロアーである。しかもご丁寧に紛争のど真ん中を通過しなければならないようにコースセッティングがなされている。
マップ情報には『戦場が君を待っている』というふざけた文言が記されてあったが、実際ふざけてなどいなかった。
いくつの派閥に別れているのか知れないが、あちこちでサイクロプスが暴れているのである。
「ヘモジ出すのかわいそうかも」
「随分と野蛮なフロアーじゃな」
まず入り口の小さな洞穴から出るのに、僕たちは二の足を踏んだ。
まるで戦場だった。
とは言え、ヘモジを成長させるためには仕方がない。
「ナーナナー」
今日も元気である。
「ナ?」
「今日の相手はあれよ」
ナガレが説明する。
「ナナッ!」
いきなり巨大ハンマーをぶん投げる。
接近してきていたサイクロプスの飼い犬、でかい野牛サイズのブラックドッグなのだが、あっという間に粉砕した。
「ナーッ!」
飼い主のサイクロプスが遠くからこちらを睨む。
おいおい、もう開戦か? レベル差に気を付けろよ。
単眼巨人が咆哮を上げて駆け出した。
ヘモジの身体はまだサイクロプスに及ばない。レベル差は二十以上はあるだろう。
『サイクロプス・オルグ、レベル四十七、オス』
ヘモジはハンマーを拾い上げると、すぐさまサイクロプスが振り降ろす棍棒を弾き返した。が、如何せん体力差があり過ぎて、大きくよろめいた。
サイクロプスが突然、叫んで跪く。
リオナが踵の腱を切り裂いたのだ。
ヘモジは渾身の一撃を敵の兜に振り下ろした。
「なんだか、違う世界に来た気分だ」
ロメオ君が呆けている。ロメオ君だけではない、ロザリアもオクタヴィアも口をぽかんと開けている。
「ナーナー」
「早っ!」
もうレベルアップである。一回戻して再召喚する。
「ナーナナー」
いつもと同じポーズで登場だ。こだわりがあるのか?
巨人も石に変わった。土の魔石(大)であった。
土属性か。
でも、ここのサイクロプス全部討伐したらいくらになるんだ? 土属性とは言え魔石(大)である。金貨四十枚は堅い。十体倒すと四百枚。百体倒すと…… なんでこのフロアーに冒険者がいないんだ?
「危ない!」
結界に衝撃が。
振り返るとゴロンと棍棒が地面に転がり落ちるのが見えた。
「ナー……」
サイクロプスの団体がヘモジの姿を見つけて大勢集まってくる。
「棍棒投げたのどれだ?」
「あいつなのです。武器持ってないのです」
「お仕置きだ」
すっかりおニューになったライフルを構える。スコープが一つ目の顔をクリアーにとらえた。
行くぞ!
「『魔……』」
目の前に雷が落ちたッ!
ゴロゴロゴロゴロ…… 雷鳴が轟く。
「どうだ、見たか! 愚か者。みんな揃って地獄に落ちろッ!」
ナガレ…… またお前か…… お前は鶏か? 何度言えば分かるんだ。
「ナーナーナァー」
ヘモジがハンマーを投げた。
「なっ!」
見事にサイクロプスに命中した。が、さすがにあちらも頑丈だ。
「ヘモジ、武器投げちゃ駄目だよ……」
「ナ、ナーナ」
足元に落ちている棍棒を拾い、振りかざす。
一回りちっこいくせにパワフルだ。
「ナーナーナー」
ヘモジが駆け出した。
サイクロプスの集団も駆け出した。
おい、無茶だって! ヘモジ!
先頭のサイクロプスの棍棒をすり抜け、胸の鎧を打ち付ける。
サイクロプスが宙を一回転して地面に転がる。
砂煙が舞い上がり、押し寄せる後方の群れの姿が隠れる。
くそ、視界が。僕は風魔法で薙ぎ払う。
「こら、ヘモジ、邪魔よ!」
ナガレが奥にいるサイクロプスに雷を放った。
五本の落雷が五体のサイクロプスを貫いた。
まだ半数以上残っている。
ロメオ君が氷槍で足止めを。ロザリアがアムールとベンガルを召喚し、ブラッグドックを蹴散らしながら銃で応戦する。
無茶苦茶だ……
「ナーナーナー」
勝利を収めたか。でもまだまだ来るぞ、団体で。肉弾戦ではまとめて吹き飛ばせないのが痛いな。
リオナが銃弾すべてを撃ち尽くして戻ってくる。
「面白いのです」
「気を抜くなよ」
「分かってるのです」
弾倉を取り替えたリオナが前線に戻る。
「ちょっと、魔力の補充して行きなさいよ」
「今日は特別なのです。お祭りなのです」
あっさりカードに魔力を補充して去る。
「支援は任せなさい!」
支援じゃなくて、メインの大砲だろう。
こうもばらけるとガードがしづらいと思いきや、メンバーは僕の障壁の外に出ることはない。
それぞれが連携して敵をこちらの射程に追い込んで殲滅している。
例外はヘモジだ。ヘモジが駆け回りながらうまい具合に敵の注意を引き付けている。
「ナーッ!」
棍棒で敵の膝を砕く。沈んだところに二撃目をぶちかます。
「ナーナナー」
お、またレベルが上がった。手際よく再召喚する。
「ナーナナー」
戦場でもポーズは外さないんだな。
心なしか、ハンマーが豪華に、でかくなったような…… しかも時たま炎を帯びるような。
「やったわよ。エルネスト」
ナガレが戦いそっちのけで戻って来た。
「何が?」
「ヘモジの武器よ。とうとう姿を現わしたのよ。わたしのブリューナクと双璧をなす伝説のあれがね」
「あれってなんだ?」
「神槌ミョルニルよ」
「にょろにょろ?」
「ミョ・ル・ニ・ル!」
言ってるそばからヘモジがハンマーを投げた。敵を打ち倒すとハンマーはヘモジの元に戻ってきた。
「ナ、ナーナ」
「ヘモジが、『魔力足りない』って」
「へ?」
僕の魔力が大幅に減っている。いつの間に。僕は万能薬の小瓶を飲み干した。
「ナーナーナー」
ヘモジが元気を取り戻して駆けてった。
「ナー」
粗方片づいたなか、最後の一体にハンマーを食らわせる。
「剣の腕を磨くのが空しくなるな」
「ヘモジ凄すぎる。アハハハ」
ロメオ君、笑っちゃってるし。
「アイテムを回収。ヘモジとナガレは見張りだ」
「ナー」
「了解」
一度の戦闘で十八個の土の魔石(大)と防具を手に入れた。
「また棍棒が香木だったりしないかしら?」
ロザリアが言った。魔石(大)に香木を欲するとは欲深な。
そういやクイーン部屋討伐の人選決まったのかな?
「防具は全滅。只のボロ切れと鉄の鎧だったよ」
「宝箱、見つけた」
オクタヴィアがどこからか戻って来た。
「お前、チョロチョロしてると、ブラックドッグに食われるぞ」
「大丈夫。あそこだから」
それは目と鼻の先の小さな洞穴だった。
「変なクエストに出くわしませんように」
僕は鍵を開ける。
宝箱のなかにはメモ書きが。
僕は蓋を閉めた。
「見なかったことにしよう……」
「何言ってるのよ! クエストは強くなるための試練なのよ! 受けなきゃ損なんだからね。クエストなんて一生にそう何度もお目にかかれるものじゃないんだから」
僕は漫然と目の前にいるふたりの召喚獣を見つめた。
お前らもクエスト報酬だったな。
「今度は何が貰えるんだろうね?」
ロメオ君はやる気か?
僕は渋々メモを取り出す。
「えー、『オルグ族とルサン族とレルム族を三つ巴の戦いに導け』以上」
「三つ巴?」
「既に三つ巴では?」
「いや、それぞれ対立はしているが、三つ巴になっている場所はないぞ」
「これって、三つの種族を一緒に戦わせろってことだよね?」
「多分ね」
「何が起こるか分からないけど、試してみる?」
全員が頷いた。
「オルグはあっちに一匹いる」
「ルサンとレルムが森の外れに。もう少しで小競り合い始めそうだよ」
「じゃあ、誘導するか」
「オルグを誘導するのが容易いだろう」ということで、誘導役は一番硬い僕がやることになった。召喚獣ふたりは誘導以前に殺しかねないので居残り。残りのメンバーも高みの見物である。




