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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち
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エルーダ迷宮迷走中(霊水入手編)24

 僕は結界を張る。主に落下してきたワイバーンの直撃を避けるために。

 全員が対空戦闘準備を整えた。

 接近するワイバーンの数は十二。大盤振る舞いだ。

 このエリアだけやたらやる気があるようだ。危険地帯ということか?

 これなら最後の宝箱は期待できそうだ。

 でも、戦闘は一瞬だった。

 雷鳴が轟いた。

「フッ、雑魚共見たか」

 ナガレが連射した。

 手を出すなと言ったのに。

「コロコロ狩るのです」

 時間がないっていうのに。

 ナガレはリオナと反対方向、落ちたワイバーンをぶっ刺しに向かった。

 リオナは単身コロコロのなかに。

「落っこちるなよ」

「わかってるのです」


 解体屋にコロコロ四匹を送った。数はいても一匹やれば逃げていくもので、断崖の多いこの傾斜地では大量にとはいかない。

 でも……

「肉祭りができるのです」

 どの道全部は持ち帰れない。


「見えたぞ」

 三つ目の巣が見えた。断崖絶壁の頂にせり出したそれはあった。

 だが、ここにも毛色の違うワイバーンが地上で待ち構えていた。巣に向かう一本道を跨いで

灰色の巨体が横たわっていた。

『ワイバーン、レベル四十八、オス』


「あちゃあ、やっぱりすんなり終らないか」

「どうしたの?」

「リアル級のワイバーンだ。レベル四十八」

「ああ、魔力が……」

 ナガレが騒ぐ。

「もう雷撃使えないのです。今度使ったら魚一匹減らすです」

 召喚カードを見せつつ、減った魔力を取りあえず補充するリオナ。それを見て肩を落とすナガレ。

「なんでよ。最大の見せ場なのにぃ!」

 身をどんなにくねらせても現状は変わらない。

 レベルがあっても地上戦じゃな。ワイバーンの戦場は空だ。地上に降りて来てる段階でハンデとも言えるが。これは偶然か、想定されたシチュエーションか。

「エルリン、行くのです」

 全員が駆け出し散らばった。

 ワイバーンが威嚇する。断崖絶壁を登るための強靱で鋭い爪で地面をしっかり掴みながら巨大な羽を大きく羽ばたかせる。

「突風が来る!」

 アイシャさんが、衝撃波を逆にお見舞いする。

 ワイバーンはよろけて、後ずさる。ワイバーンが怒りの咆哮を上げる。

 足の速いリオナが既に敵の尻尾の射程圏内に入っている。

 案の定尻尾がリオナを叩きに来る。

 ロメオ君がその尻尾に研ぎ澄まされた雷撃を当てる。

「凄いな。まるで一本の槍だ」

 僕の関心を余所に、ワイバーンは痛みに叫びを上げる。

 リオナが銃弾を筋骨隆々の太い足にぶち込む。

 麻痺弾が効いた。

 次の瞬間、ワイバーンの片足が吹き飛ぶ。ワイバーンの片翼が地面に崩れ落ちる。

 トドメはアイシャさんが眉間に氷結を放った。脳髄まで一瞬で凍り付いた。

 動かなくなったワイバーンが地面に崩れ、地面に貼り付いた。

 今回は魔石になるのを大人しく待つ。

 落ち込むナガレをロザリアはいたわりながら、「そもそも駄目だと言っているのに撃ちまくったあなたがいけないのですよ」と説教をしている。

 ナガレもこれで少しは懲りただろう。強い武器には使いどころがあると言うことを。

 て言うか僕は出番すらない。すっかり鍵当番だ。

 はずれの風の魔石(中)を回収して、巣に向かう。

「何が出るだろうね?」

「銅だよ、銅。金、銀と来たら銅でしょう」

 ロメオ君がはしゃぐ。

「有り難くありませんわね。やはり有用なアイテムがいいですわ」

「珍しいお肉の詰め合わせがいいのです」

「お菓子、お菓子」

「魔力回復する召喚獣専用アイテム!」

「え? そんなのあるの?」

「希望を言っただけ」

「あ、そう」

 僕は全員を遠ざけ、鍵を開けた。

「?」

 僕は首を捻った。

 出てきたのは透明な液体が入った透明な壺だった。

「アイシャさん、ロメオ君、これなんだろ?」

 僕は物知りのふたりを呼ぶ。

 呼んでもいない連中も一緒に全員が寄ってくる。

「水?」

「水銀でしょうか?」

「ラベルが貼ってある」

「霊…… 水」

「……」

「え?」

「ええ?」

「えええええええ!」

 まさか、こんな所に万能薬の原料が。本来、精霊石を溶かして作るという霊験あらたかな液体である。僕には代用手段があるので無用の長物なのだが、それでも使えるのか?

 こいつを使うと、普段より凄い万能薬ができるのか? そもそもオリジナルを知らないのだ。

 でも飽和状態の魔素を含んだ水が霊水なのだから、普段作っている水以上に魔素を含む状態は作れないはずだ。

 普段より効く万能薬は存在するのか? 死人までよみがえったりしてな。

 となると一度正規の方法でトライしてみるべきだろう。

「どうせなら精霊石の状態で欲しかったんだが」

「なんで?」

「鮮度が落ちやすいんだよ。その壺、保存の術式入ってます?」

 アイシャさんが首を振る。

「急いで持ち帰った方がよさそうだな。それにしても……」

「この壺を担いで出口まで行くのは結構至難の業じゃぞ」

 封は開けたくないしな。

「ヘモジが出せる足場ならよかったんだけど」

 ヘモジごと落ちそうだしな。

「どうする?」

『楽園』に入れてしまえば簡単なのだが。

「谷の山道まではみんなでなんとかしよう。山道に出たらヘモジを呼ぼう」

 谷間なら落ちる心配はないからな。

 出口は谷間を抜ければすぐだ。

「ヘモジの奴へそ曲げないかな。いつも碌でもないときにばかり呼び出されて」

「あいつは大丈夫よ。呼ばれるだけで嬉しい子だから」

「そうなのか?」

「犬っころよ、犬っころ。可愛い奴よ。でも戦闘のときだけは鬼ね。鬼。近づきたくないわ」

「何? 知り合い?」

「この業界狭いのよ」

 どの業界だよ。

 僕たちは棒を一本集めてきて、収納袋に入れた壺を吊り下げた。割れると困るので、即席の箱をこしらえて周囲を囲い、落ち葉を充填してクッションにした。その分重くなるが仕方がない。

 身長の近い僕とロメオ君が棒を肩に担ぐ。つくづく『浮遊魔法陣』が欲しくなった。

 しばらく下りると、たまたま、近くにいた冒険者のパーティーが昼食だろう、脱出用の転移結晶を使って消えた。

「今だ!」とばかりに僕たちはほぼ垂直方向に谷の山道まで一気に移動した。

 これでヘモジが呼べる。

「ナーナナー」

 いつもと変わらぬ登場をするヘモジ。

 壺だけでなく、リオナとナガレを肩に載せてもビクともしない。

 僕たちは無事出口まで着き、ヘモジを還すともう一苦労しながら下の階層の脱出部屋に向かう。

 出入りを繰り返し、荷車を用意してようやく僕たちは迷宮を出た。

 遅い食事会もお流れにするしかなかった。

 手頃な保存庫はギルドの販売コーナーにも雑貨屋にも置いていなかったので、即刻このまま帰宅することになった。

 コロコロの肉が多く積めたのでリオナはご機嫌だ。

 先にアイシャさんとオクタヴィア、ロザリアが帰ることになった。

 僕と、リオナとロメオ君とナガレは修道院に本日の収穫の整理に向かった。

 金はほとんど、装備品としては使えなかったので、インテリアになりそうな物だけを残してすべてそのまま売却した。銀製品も実用性のありそうな燭台や、皿や小物などを選ぶと、残りは売り払った。

 実際に現金になるのは後日なので、納品書だけ貰って帰ることにした。


 帰宅すると、アンジェラさんが料理を用意してくれていた。

「みんなは?」

 アイシャさんとロザリアは研究施設で霊水の鑑定をしているそうだ。霊水の封は既に切られていて保存庫に小分けにされて納められていた。

 ロメオ君用とラベルが貼られた瓶があった。ちょうど五分の一の分量に小分けされた保存容器に納められていた。

「本物よ」

 ロザリアとアイシャさんが戻って来た。

 こちらも報酬を取り出してテーブルに並べた。

 アンジェラさんとエミリーが喜んだ。

 ロメオ君は「現金だけでいいよ」と言った。

「現物持って帰ったら、両親本業忘れちゃいそうだしね」

 霊水は現金には換えられないので、このまま我が家に保管することにして、財宝に関しては我が家が先取りした分、現金をあとで上乗せすることでけりが付いた。

 早速新しい食器で出てきた料理をみんなでむさぼり食った。

 食器が変わっただけでどうして料理まで美味しくなった気になるのだろう。

 いつになくがっつき様が半端ない。 

 午後からリオナたちはフライングボードの手入れを始めた。ロザリアのボードは廉価版のため明日は欠席するらしい。

 一方自分の分が欲しくなったナガレのためにリオナはこれからリバタニアの店に出向くことにしたらしい。

 もう突っ込む気にもならない。召喚獣がボードで遊んで何が面白いんだ。

 僕はついでに醤油を分けてくれるようにお願いする内容の手紙を、実家に届けるようリオナに頼んだ。


 僕は早速、規定の分量の霊水を入れて、正規の製法と、いつもの製法の二種類の万能薬を作ってみた。

 何ができるかはあとのお楽しみである。

 鼻歌交じりで地下から上がってきたとき、ちょうど玄関の扉が叩かれた。


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