エルーダ迷宮迷走中(ワイバーン編)23
ナガレが接近する一匹を稲妻で貫いた。
「回復しないぞ」
「獲物を刺さなきゃ駄目なんじゃないの?」
ロメオ君が言った。
次の一匹が落ちてきてちょうど尾根の近くに引っかかった。ナガレは獲物に接近するとプスリとやった。
「どう、回復した?」
ナガレが聞いてきた。
「……」
全員カードを見直す。
「使用禁止なのです」
リオナが即答する。
「なんでよー」
「ワイバーンが小物過ぎて吸収できる魔力量が消費に比べて少ないんだ。諦めろ」
ナガレはがっくり肩を落とした。
「今日は戦闘主体じゃないからさ。肩の力抜こうよ」
ロメオ君がフォローする。
「もう魔力三分の一使ったですよ」
リオナがとどめを刺した。聞くところによると、魔力が空になったら夕飯の魚が一尾減るらしい。
「しょうがない。雑魚は任せた」
普段からそうして欲しいもんだね。雑魚相手に毎回伝家の宝刀ではね。
そうこうしている間に尾根を渡り切り、切り立った絶壁の洞窟のなかに入った。
「この先に巣があるみたいだね」
「留守だといいねぇ」
暗闇に懐中電灯をかざしながら進む。
「おお、これおもしろーい」
ナガレが初めて見る懐中電灯に興味を持ったらしい。
やがて明かりが見えてきて、最初のゴールが現れる。
「おお、絶景だ」
山の頂から見下ろす景色はまさに秘密基地にぴったり。
こういうシチュエーションがほしいんだよなぁ。
「あったよ。宝箱」
予想通りであった。ワイバーンが自分で宝箱の蓋を開けたり閉めたりするとは思えないのだが。
僕はカチリと鍵を開けた。
「ご開帳……」
「うわぁああ」
全員が息を飲んだ。
「金だ……」
そこにあったのは金銀財宝であった。全員急いで回収に当たった。転送せずにリュックのなかに詰めるだけ詰めた。残った分は手荷物だ。
この箱の難易度、多分最高難度だったと思われる。ゼンキチ爺さんが呪われた箱以来の、否クイーン部屋の鍵が出る箱もそうか、それ以来の快挙である。
宝飾品の鑑定次第だが、こりゃ、資金稼ぎに最適だ。何より迷宮の最深部まで行かなくていいのが気に入った。
残りの二つも期待できるのかな?
誰もいなければ適当な場所まで転移してしまいたいのだが、外野が多いので大人しく来た道を戻ることにする。
しばらく山道を行く。リュックに入ったお宝が肩にズシリと重い。途中で断念して、脇道にそれる。
収納袋を取り出して中身を移し、名札をつけて結局、修道院に転送した。
「ふー」
全員まさに肩の荷を降ろした。
ついでに一服すると、次の分岐を目指した。
ワイバーンが頭上を旋回する。
呆気なくロメオ君の雷撃で落ちてきた。そしてナガレが獲物をブスリ。
「回復!」
今日の報酬を考えるとチマチマやらなくてもよさそうだが。
二つ目の分岐の先には長くて細い吊り橋が架かっていた。
なんとも心許ない、木の橋だ。
襲ってくださいと言わんばかりのシチュエーションである。
周囲を探索する。
「いたのです」
山の陰に隠れてワイバーンが手ぐすね引いて、橋を渡る獲物を待っている。
「裏側にいても、雷は落せる!」
放った落雷がワイバーンに直撃する。
ワイバーンは崖を真っ逆さまに転がり落ちる。
「一丁上がり」
全員万が一に備えて転移結晶を握る。いざとなったら発動できるように備えて、僕を先頭に吊り橋を渡り始める。
うわっ、揺れる。
下を見ないように慎重に進む。
リオナとナガレはさっさと僕を抜き去り、駆けてった。
渡り切るとオクタヴィアがリュックのなかから顔を出す。
アイシャさんは慣れたもので景色を楽しむ余裕すらあった。
問題はロメオ君とロザリアだ。
「うおおおっ」
「いやー、揺れないでーッ」
ふたり揃ってへっぴり腰だ。
魔物の相手をするより遙かに緊張する。
「この距離なら誤差の範疇だろう」
アイシャさんが言った。
一瞬何のことを言ってるのかと思ったが、理解した。冒険者の認識スキルもこの距離ならば、はっきり個別の位置を特定できないだろうというのだ。
僕はゲートを開いた。
橋の中程でへたり込んでいたふたりは何も言わずに飛び込んだ。
そして僕の横のゲートから現れた。
「はあー 助かった……」
「始めからこうしてくれればよかったのに」
周囲警戒、たぶん問題なし。
「行くよ」
そして空にまた雷が。
「宝箱発見!」
僕は鍵を開ける。
すると今度は銀細工や銀製品の山だった。スプーンやら皿まである。
うちで使えるな。
今度は躊躇なく袋にまとめてあっさり転送する。みんなにとっても次点の評価らしい。
さて、次に行こう。
でもこのまま戻ってまたあの橋を渡るというのも酷な話だ。
このまま進むルートもあるが、空が不穏なんだよね。
要するに「ショートカットだけど敵がいっぱい出るよ」というコースだ。
僕たちは迷わず、前進を選んだ。
巣の手前まで戻り、巣を回り込む道を行く。
尾根を外れだんだん深い谷間に入って行く。頭の上の険しい絶壁にはワイバーンが大挙していた。
「全く歯ごたえがないのです!」
「旋回竜の方がマシだよね」
ロメオ君も散々ぶっ放して、落ち着いたようだ。
谷間を通過すると再び見晴らしのいい峰に出る。
みんなが絶句するほどの絶景がそこにあった。
稜線の先に沈もうとする夕刻の景色だ。
「嗚呼、こんな場所がスプレコーンにもあればなぁ。秘密基地ができるのに」
「あるぞ」
「ある、ある」
アイシャさんとオクタヴィアが言った。
「あるの?」
「あるぞ、巨大な岩の柱じゃ」
「岩の柱? そんなのあったかな? 飛空艇から見えた?」
「いや、そっちじゃない。今朝、見た山とスプレコーンの中間辺りにある山間部じゃ。そこを流れる川岸に地面から生えた巨大な一枚岩があるんじゃ」
「それって、『神様の腰掛け』て言う所だよね?」
ロメオ君が話しに参加した。
「そうじゃ」
本当に、あるのか?
「あ、でも大きさは? 飛空艇とか置けるのかな?」
「そうじゃな、明日行ってみたらどうじゃ。スノボーのコースを探しながら、戻れば通り道じゃし。フライングボードの練習にもなるじゃろ」
「そうだね。ボードに乗れたらあんな吊り橋渡らないで済むし」
ロメオ君がひとり納得して頷く。
ボードで飛ぶ方が怖いと思うぞ。
「そんなことより、行くわよ。お昼が食べられなくなっちゃうんだから」
ナガレの言う通り。もう一山登らないと行けないからな。ほぼ尾根伝いに来たから登る手間は半分省けたはずだが、それでもまだ掛かる。
景色も夕刻だし。暗くなると面倒だ。
そういや、ワイバーンって鳥目なのだろうか? 暗闇でも獲物が見えるのだろうか?
「この階は一日コースかしらね。出口を先に押さえておいた方がよかったかもしれませんわね」
ロザリアが周囲を見渡しながら言った。
「他のパーティーがいなければ転移しまくるんだけど」
「見られちゃ不味いよね」
僕たちは一斉に振り返った。森のなかにいた鳥や獣たちが一斉に声を潜めた。
「来たか」
ワイバーンの団体がこちらを捕らえたようだ。
「コロコロ発見なのです!」
リオナが目を輝かせた。
え? ちょっと。このタイミングでか? ワイバーンよりコロコロか?
「さっさとやるです」
急にリオナがやる気を出した。




