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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち
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エルーダ迷宮迷走中(ブリューナク入手編)13

「ほんとにブリューナクなの?」

 ナガレが僕のリュックを引っ張り、なかを確認する。そこへオクタヴィアが参戦。リュックの主導権は自分にあるとばかりになかにすっぽり収まった。

 勝手にごそごそやっている。

 みんなやることがなくなったらしく、一行は僕の宝箱を開けるツアーに同行することになった。

 取りあえず前半の分岐にいた敵はほぼ葬ったので、僕たちは更に進んだ先の二番目の分岐を目指した。

「おおっ、これは!」

 オクタヴィアが出してきた物をナガレが受け取る。

 ナガレが矛先をまじまじと見つめた。

「それなんだと思う。ダマスカスだと思うんだけど」

「ブリューナクの一部よ。紛れもなく……」

 いや、材質を聞きたかったんだが。

「もう一個ある」

 オクタヴィアがリュックのなかから取り出した。

「残りはどうしたのよ?」

 ナガレが僕に聞いてきた。

「残り?」

「ブリューナクは五又の矛なんだから、後三本あるはずでしょ」

「あるでしょ」て言われてもね。

「これからそれを探しに行くんだ」

「おおっ」

 ナガレがソワソワしだした。

「どうかしたのか?」

「どうかしたかですって! するに決まってるでしょ! ブリューナクよ、ブリューナクッ! 海神の持つトライデントより、凄いのよ…… いや、ちょっとだけ落ちるわね」

 勢いでしゃべるなよ。考えてからしゃべれ。

「兎に角、凄い伝説の武器なのよ!」

 大体分かった。

 『ブリューナク』という伝説の矛には矛先が五つあって、今手元にある二つはそのうちの二本ということだな。そして残りは三本あって、そこから先は集めてみないと分からないと。

 どうせレプリカだろうけどな。本物が迷宮の宝箱にあるわけがない。僕を狙って、宝箱がわざわざアイテムをチョイスしてくれてるわけじゃなし。日々量産される物のうちの一つだと考えるのが自然だ。

 そうか、毎日沸くものなら、手にする可能性もあるか。

 でも一品物だとすると……他の矛先を別の誰かが持ってる可能性もあるんだよな……

「揃わないこともあり得るのか……」

 僕は気を取り直して先を進む。

 なかったらくたびれ儲けということで。

 またまたワーグである。

 相変わらず嫌がらせだけが存在意義のような奴らだ。

 オクタヴィアがリュックのなかに消えた。

「鼻もげる」

 はいはい、消臭ですね。

 リオナもこのフロアーでは期待できない。と思いきや、ナガレが水魔法で、臭いを拡散していた。

「臭い消えたです」

 そう言いながらリオナは鼻をひくつかせる。

 探知能力の半分が塞がれ、むず痒そうにしている。


 ワーグの群れが現れたところで、僕とアイシャさんが火の玉を放り込んで瞬殺した。

 このフロアーに打って付けのロザリアがいるともっと楽なんだが。

「出番なさそうじゃの」

 爺さんがぼやいた。

 でも次に現れたプルートを血祭りに上げたのは爺さんだった。

 いきなり接近戦に持ち込まれたのだ。

 普段ならリオナが片付けるところだが、現在召喚獣に気を削がれていて戦闘どころではなかった。

「やるわね。お爺さん」

 ナガレが爺さんに駆け寄った。

 召喚獣のお前が働け。

 確かに鮮やかな手並みだった。

 あっという間に懐に踏み込んだと思ったら、自分の倍もある首を簡単に落とすんだからな。しかも相変わらずスキルを使ってないときている。

 初めて会った頃に比べても強くなっていた。呪われている間に鈍った身体を、鍛え直した成果なのだろう。武闘大会準優勝者の本来の実力が発揮されたわけだ。

 これで「体力に陰りが」とか言うのだから嫌みにしか聞こえない。

「次はアイシャかリオナで頼む」

 ナガレがふざけた注文を出した。どうやら全員の力を見極めたいらしい。

 アイシャさんは溜め息を付きながらも先頭を歩いた。

 敵に恵まれなかった。

 スケルトンの小集団しかいなかった。

 衝撃波を食らって、打ち付けられ、沈黙する者ばかりである。

 衝撃の凄さに防具類も売り物にならなくなっていた。

「ふん」

 鼻であしらった。

 リオナの順番の前に、増援部屋に到着した。

 僕は扉にまたつっかい棒をして部屋のなかに入った。

 爺さんとどっちが宝箱を開けるか、顔を見合わせ、確認する。

 僕が開けることになったので、鍵を取りだした。

「ちょっと、リオナ。こんなところに剣が落ちてるわよ。これって結構よくない? いい値で売れるんじゃないかしら?」

 ナガレの声に振り返ると、手に持って振り上げていたのは、さっき僕がつっかい棒にしていた剣だった。

 扉の隙間がゆっくりと締まるのが見えた。

「ああッ!」

 ガッゴン……

「罠発動した」

 オクタヴィアが僕の肩に顎を乗せて呆れていた。

「ん? どうしたの?」

「エルネスト」

 爺さんの声に我に返ると、視線を戻して、宝箱を開けた。

 ブリューナクの矛先、三であった。

「よし、撤収する。ナガレ、お前の責任だ。お前がやれ」

「えーっ、なんでよ! 水魔法は相性悪いのよ。それにこの格好じゃ、威力なんて出ないんだから」

「仕事しろ」

 僕たちは敵の少ない通路に一時退避した。

 遭う敵、遭う敵、ナガレに始末させる。

 口ではぐだぐだ言っていたが、水流の力で頭を吹き飛ばすだけの威力はあったようだ。たまに結界で防がれるが、とどめはリオナが刺した。

「魔力の補充を要求する!」

 突然ナガレが言った。

 召喚カードを見るとなるほど魔力残量が僅かになっていた。

「減りが早いな?」

「ここは闇属性のフロアーじゃぞ」

 アイシャさんが教えてくれた。

 そうだ。元々魔素が薄いんだった。

 働かせるほど赤字になるとは…… オクタヴィア以下だな。

「ちょっと! 今失礼なこと考えてたでしょ!」

 いい勘してるな。というよりオクタヴィアに謝れ。

 リオナが水の魔石を補充する。あれほどいいようにあしらわれているのに、本人は嬉しそうである。


 さて、そろそろ集まったかな。

 僕たちは踵を返した。

 増援部屋の前に固まった魔物の群れを、僕は一撃で葬れるほどの爆炎を落とす。今回は継続ダメージを与えられるように燃焼時間を長めにとった。ざっと数秒だが、どいつもこいつもよく燃えた。

 一匹を残して。

 プルート。いい加減、嫌になる。

 僕が斬りかかろうとしたら、リオナが行った。超低空の超高速飛び込みだ。常人の目では追えない素早さで、敵の攻撃をかいくぐり、一撃を膝にお見舞いする。沈み込んだプルートの背中に回り込み、駆け上がって頭を兜ごと切り落とした。

 ちょっと待て、リオナまた強くなってないか?


 アイテム回収後、敵のいなくなった通路を、罠に気を付けながら進む。

 突き当たりの部屋に次の宝箱があり、僕たちはそこから『ブリューナクの矛先、二』を回収した。

 そしてメインストリートに戻り、最後の枝道に突入する。増援部屋に侵入。ナガレに警戒しつつ、宝箱を開け、『ブリューナクの矛先、一』、ナガレ曰く、最後の一本を回収する。

「全部揃ったけど、これどうするんだ?」

 ナガレに聞いたが、知る由もなく、ただ揃った最後のピースを眺めるのみだった。

 ゴゴゴゴ……

 どこかで壁が動く音がした。

 リオナとオクタヴィアが部屋を出て聞き耳を立てた。

「こっちなのです」

「こっち」

 ふたりを先頭に移動する。

 すると通路の突き当たりに辿り着いた。

 既にマップには載っていない領域だった。

 壁には五枚の矛先の型を取った窪みが並んでいて、明らかに「ここに置け」と言っているようだった。

「罠?」

 周囲を警戒するがそれらしき物はない。

「置いてみるしかないの」

 結界のある僕が並べていく。

 その後方で全員脱出用の転移ゲートを握りしめて見守る。

 五枚の矛先を並べ終ると、並べた壁が音を立てて、せり上がりだした。

 見る間に天井に飲み込まれてしまった。

 僕たちは正面に空いた空間を警戒した。

「おお、やっと戻って来たか。遅かったな」

 しわがれた親父の声がした。


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