エルーダ迷宮迷走中(スケルトンプルート・ワーグ編)12
今度のプルートは矛を持っていた。いきなり切っ先をこちらに向けると雷魔法を放ってきた。
「なっ!」
さすがに驚いた。目の前で稲妻が弾けた。
魔法も使うのか、こいつ!
視界が奪われた。
僕は過剰気味に前方に火の玉を炸裂させた。この通路の広さなら逃げようがない。どんなに下がっても食らうことになる。
が、また雷攻撃だ。しかも計ったようにこちらを狙ってくる。
結界があるので問題ないが、どうにもやりにくい。タイミングをうまく崩してくる辺り、やはり雑魚とは違う。どこか戦い慣れた感がある。
そんな手練れのプルートに火の玉が炸裂した。
今度は武器を投げてこなかった。
視界が開けると、プルートは失った足の代わりに、その矛を杖にしてかろうじて立っていた。
僕は二発目を撃ってとどめを刺した。今度こそ動けずに吹き飛んだ。
周囲を改めて警戒してから戦利品を回収する。
転がっていた矛の切っ先に見覚えがあった。それはさっき回収したばかりの矛先だった。
だが材質は違った。プルートが持っていたのは明らかに形を模しただけの鉄の矛だと分かった。しかも矛のサイズはプルートのサイズだ。矛先もその分でかい。材質的に最初に回収した物がオリジナルだろう。この矛が雷の発生源だと分かった。
増援部屋に集まった連中にこっそり近づくと、爆炎を放り込んで仕留めた。
やはり魔法装備を着ている数匹が残る。スケルトンだけなので、二発目をぶち込んでとどめを刺していった。
スケルトンが着ていた魔法装備を六点と、宝飾品を数十点回収した。順風満帆、順風満帆である。
次の宝箱を開けに行く。
すっかり無人になった通路を進むと二つ目の部屋があった。ここは罠部屋ではない。が、先客がいた。扉の隙間から覗いたらプルートが二匹いた。
「やばいな」
この部屋ではお互い逃げ場がない。相変わらず長い得物なので、こちらが優位ではあるが、一撃の重さが違う。
ここは一匹、問答無用で排除させて貰うしかない。
ぼた餅爆弾を扉の隙間から投げ込んで扉を閉める。久しぶりの『魔弾』投擲である。
ヴボォン!
扉の隙間から爆風が漏れた。
なかをこっそり覗くと二匹とも吹き飛んで事切れていた。そう言えば衝撃にも弱いんだったな、骨は。
それでも宝箱は健在だ。こいつの材質をぜひ知りたいものだ。
なかから出てきたのは前回同様『ブリューナク、四』のメモと矛先だ。
なるほどね。
マップ上にある宝箱の数は残り八つ。そのなかに恐らく三から一や、六とか七があるはずだ。なんのためかは分からないが、希少な金属であることに期待して集めることにする。
マップを確認すると、どうやら脱出ルートにはないようだった。どれも脇道に入った先にあるようだ。
今日の趣旨にはあっているな。
一度メインストリートに戻らないといけないので、ここで脱出用の転移結晶を使って地上に出ることにした。
いい時間だし、お昼にすることにした。
食堂に人だかりができていた。
近づいてみると、リオナが相変わらずでかい肉を頬張っていた。
僕は食堂に入るとリオナのテーブルに向かった。
嫉妬の視線が痛い。
なんなんだ? いつもと変わらんだろうが。リオナはリオナだ。
リオナの向かいの席に客がいた。雅な異国の衣装を着たロザリアぐらいの年頃の少女だった。
「ああ、やっと来た。待ちかねたわよ。主殿」
「え?」
その少女は僕を見るなり、知り合いのような口を利いた。
誰だ? どこかで見たことがあるような気がするが。
唇だけでなく目尻にも朱を入れる辺り、妖艶さが目立つが…… まさか……
「ナガレ?」
「当たり。ささ、座って、座って」
空いている席に手招きした。
猫がテーブルの角にちょこんと座った。
「オクタヴィア?」
振り返ると、妙ににやけたエルフと老人がいた。
「わしらも相席で頼む」
人数も増えたので別のテーブルに移動した。
「まずどこから突っ込んだものかな……」
「居心地が悪そうだから、わたしから行くわよ。リオナ」
「はいなのです」
完全に下っ端になっていた。
「ご神体拾ってきたら、変身したです。レベルが増えたら、成長したです。以上です」
短っ!
「よく分かった」
アイシャさんが呆気なく理解を示した。
「角どうした?」
「この髪飾りが角を象徴したものなのよ。なくなったわけじゃないわ」
「言葉も流暢になってきたようじゃの」
爺さんが言った。
「擬人化したとき子供の声帯じゃ、うまく話せなかっただけよ」
次の案件に移ろう。
「ふたりはいいことあったんですか?」
僕の発言に、爺さんが一つの鍵を取り出して見せた。
「鍵だ……」
開かずの扉の鍵だった。遂にクイーン部屋への鍵を手に入れたのだ!
「おおっ、遂にやったんだ」
「凄いのです!」
「なんのこと? 教えなさいよ!」
さすがに大勢が聞き耳を立てているこの場で話すことはできなかった。
結局、詳しい話は帰ってからということになった。
さすがに今回は人選で苦労することになるだろう。僕以外の我が家の面子にサリーさんやエンリエッタさん、それにマギーさんも噛んでいる。恐らく金塊の処分はマギーさんの商会でも荷が重いだろう。当然税金の問題も発生する。優遇して貰うためにはヴァレンティーナ様抜きには語れない。
何人で分配するか知れないが、それでも法外な報酬になることに変わりはない。
今は北の問題で皆忙しいから、実際の攻略は雪が溶けた頃になるだろう。取りあえず、爺さんの老後は安泰だ。最高級の装備も揃えられることだろう。
「で? エルリンの収穫はどうなったですか?」
リオナが聞いてきた。
「敵はスケルトンだぞ」と断わりを入れながら、僕は宝飾品をいくつか見せた。
リオナが自分の拾った指輪と比べている。
リオナには『認識』スキルはない。だからいくら見ても、見てくれ以外違いは分からないのだが。
僕はリオナが見てくれで選んだ指輪のスペックを説明した。近接型のリオナは余り指輪を嵌めないので、どうしても一点豪華主義にならざるを得ない。
スケルトンが落とした指輪程度では自前で揃えた指輪には敵わなかったらしい。
元々、とんでも装備のアイシャさんは別として、爺さんも興味深げに覗いていた。最近体力に陰りがあるとかなんとか。近接寄りの物を探して、二つほど指に嵌めた。
オクタヴィアはアイシャさんに指輪を一つ選んで貰って首の輪っかに通していた。スペックは耐毒、耐麻痺性能の物だった。
「腐った物を食べても死なないようにな」
オクタヴィアはアイシャさんの皮肉だというのに嬉しそうにしていた。やっぱりご主人に構って貰えるのが嬉しいようだ。
「少しなら腐った物、食べても平気?」
曲解していた。
「ゾンビの肉食いたいのか?」
オクタヴィアは勢いよく首を振った。
僕たちは目の前に置かれた料理を前に手が止まった。
「食事中にゾンビの話はしないで!」とナガレが大声で叱責した。
食堂のなかが一瞬静まりかえった。
凄くばつが悪くなった。
「まったくもう、デリカシーがないんだから」
そう言ってナガレは肉を口に運んだ。
「……」
まず自分のことを知るべきだな、ナガレは。
まったくもって普通じゃない。召喚獣ってこんなに自由でいいのか?
「それ、リオナの肉だぞ」
「二食、頼んだんだから、一皿はわたしの分でしょ」
「リオナはいつも二食分食べるんだ」
「地獄に帰るのです、ナガレ!」
リオナは立ち上がった。
「誰が地獄の住人よ! ちっこいくせに大食漢なあんたが悪いんでしょ! 大体わたしの分がないじゃないのよ!」
ナガレも立ち上がってにらみ返す。
「召喚獣は食べなくても平気なのです!」
「あんたの微かな魔力じゃいくら食べても腹ぺこなのよ。食費ぐらい持ちなさいよ!」
「あ、あの……」
店員が両手を摺り合わせながら、申し訳なさそうに仲裁に入ろうとした。
「リオナのご飯はエルリンの奢りなのです!」
それが理由になるかよ。
て言うか自分の金使えよ。
「だったらわたしの分も奢りじゃないの! なんで注文しないのよ!」
おい、こら。召喚獣、何言ってやがる。
「何も言われなかったのです」
「お客様……」
店員に替わって苦笑いの店主がやって来た。
「お静かに願います」
どすの利いた声で怒られた。
「ご、ごめんなさい……」
リオナの耳が項垂れる。
「焼き魚定食一つ」
ナガレがすまして言った。
注文取りに来たんじゃないから!




