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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち
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神様熟睡中9

 聖都エントリアは、山岳地帯に囲まれた天然の要塞であった。町の中央、最も低い場所に湖があり、建物はそこを中心に山の斜面に沿って同心円状に広がっていた。

 見上げた先に巨大な建造物があり、そこから伸びる街道が真っ直ぐ足元の湖まで続いていた。ポータルは湖の上にあり、そのその幻想的な絶景は訪れる者を驚かせた。

 こんな場所に住んでいればこそ、世界が神の慈悲に溢れていると感じるのかも知れない。

 見上げた先にある巨大建造物こそが聖エントリオ教会の総本山、エントリア大聖堂であるとロザリアが説明した。

 その大聖堂のさらに上に位置する宮殿が教皇宮殿である。

 あんな断崖絶壁に城を建てる奴の気が知れない。その分防御はしやすそうだが、転移ゲートがなきゃ今時やってられないだろう。

 ああいう閉鎖的な環境は趣味なんだよな。スプレコーンのどこかの山の頂に作っちゃおうかな。飛空艇でしか行けない場所なんてニッチじゃないか。

 そうだな、地下の娯楽施設は止めて、山の頂にそびえる城を作ろうかな。帰ったら候補地を探さないとな。


 歴史的建造物である大聖堂の周りには人だかりができていた。未だに規制線が解除されていなかった。午前の部は国内外の重鎮たちが列席したせいで警備も半端なかったのだろう。今回は特に。

 午後からは一般市民の参拝が行なわれる。この人だかりはそれを待つ人たちの群れだ。

 これだけの人員を収容できるだけで驚きである。

 さて、問題の人物はどうした? 

「教皇は午後もあのなかか?」

「ええそうよ。年に一度の大祭ですからね。出ないわけには行かないの。ここにいる人たちの大半は教皇を拝みに行くようなものですからね」

 依然脅威は去らないということか。

「どこか、気兼ねなく大聖堂を見張れる場所はないかな」

 武装した僕たちが大聖堂に近づくわけにはいかない。騒動のタネになる。

「だったらあの公園にしましょう。ジェラートが美味しいお店があるのよ」

「決まりじゃな」

 なんでだよ。今冬だぞ。


 来てしまった。

 小高い見晴らしのいい丘の斜面に広大な芝生が広がっていた。中央の人工池では噴水が噴き出している。こんな季節にボートを浮かべる人もいた。

 はっきり言って風下は寒い。

「噴水止めた方がいいんじゃないのか?」

「今日はどこも浮かれてますから無理ですね。うん、おいしい」

 彼女たちは霧の降りかからない場所のベンチに座って、ジェラートを頬張る。

 格好とやってることが違和感ありまくりだ。

 信仰心のおかげか、この時間の公園はやけに空いていた。

 オクタヴィアはクッキーにアイスを付けて食べるという方法を編み出していた。クッキーにはきな粉が見事にまぶされている。

 さて、僕も始めるかな。

 どれくらい飲んでいいのか分からないので小瓶を一舐めする。

 !

 マズい! 死ぬほど不味い! なんだこれ? やばい吐きそう。でも吐くわけにはいかない。いつも通りの万能薬だと思わせなければ。

 僕は水筒の水をがぶ飲みした。

 こんなもの二度も飲みたくなる奴って…… 頭がどうかしてる。

「ちょっと止めてよ」

 突然声が飛び込んできた。

 池の上に浮かんだボートからだった。カップルがいちゃついている。

 どうやら効果が出始めたようだ。

 僕は探知スキルを使った。普段通り使ったら、やり過ぎに思えたので。急いで魔力を絞った。 こりゃ、驚いたな。

 感度がこうまで上がるとは。あっという間に大聖堂まで到達した。

 信じられない。この距離をこの魔力でカバーできるのか?

 僕は大聖堂の周囲を探った。

 何やら魔力を感じる。障壁から発する僅かな魔力の放射を感知したのだ。

 この放射を覚えれば使われている種類が分かりそうだ。

 普段こんな広範囲を網羅しようものなら、相当気張らなきゃいけなかったはずだ。当然、誰かに見つかっていたはずだ。

 想像以上の薬だ。味も効果も。

 魔力が高めの人物を探った。

 対象が多すぎた。

 情報が少なすぎるんだ。老女なんていくらでもいる。

 教皇はどこにいる?

 さすがに大聖堂のなかは見えないか。ということはなかにいるってことだろう。

 犯人も諦めて里帰りしてくれればいいのだが。どうにもそんな気がしない。根拠はないが、今この町にいて、僕と同じように周囲を探っているような気がしてならない。

 そうか、探知スキルの痕跡を追えばいいのか。できるか?

 実際試してみると分かるときがチラホラあった。警備の者たちが時たま周囲に発しているのが見える。スキルの腕の違いが如実に表れている。僕のスキルもああ見えていたのかと、少し恥ずかしくなった。バケツで水撒きしているような感じだ。

「?」

 一つだけおかしなところから来る光跡を見つけた。それは町の遙か上空。教皇宮殿の遙か上からだった。

「ロザリア、もうコンチェッタさんは宮殿に着いたと思うか?」

「そりゃ、私たちよりずっと早くに出立したんですから」

 宮殿内を探るとそれらしき反応があった。本人以外にお腹にもう一つの輝きがあった。

 この距離から『生命探知』も届くのか。聴覚は…… 駄目だ。嗅覚は……

「どうかしたの?」

「多分犯人を見つけたと思う」

「どこ?」

「どこじゃ?」

 全員が周囲を見渡した。

「あの山のてっぺんだ」

 僕が指差した場所は教皇宮殿のある斜面の頂上である。

「嘘でしょ?」

「リオナには分からないのです」

「分かんない」

 口の周りをべたつかせてオクタヴィアが言った。

 それじゃ甘い匂いしかしないだろ?

「さっき飲んだ薬……」

 アイシャさんが僕をじっと見た。

「山の老人の秘薬」

「お前!」

 さすがに知っていたか。アイシャさんは僕の胸ぐらを掴んだ。

 他の者たちはきょとんとしている。

「山の老人?」

「誰?」

「大丈夫。中毒性はないから」

「自分で作ったのか?」

「いろいろ修行を兼ねてね」

「こっちに寄越せ!」

「駄目だ。今実験してるところだからね。みんなの分はないよ」

「あれは安易に使っていいものでは――」

「分かってる。無茶をする気はないよ。それより」

 僕たちは山頂を見上げた。

「あの頂上に大聖堂と宮殿を覗いている奴がいるのは確かだ」

「近づいたら間違いなくバレるわね」

「一気に近づくしかないんだが……」

 遠距離射撃もこの距離じゃ届かない。転移を使うしかないのだが、魔力が増大すれば向こうも気付く。ピア・カルーゾ…… あの探知距離はやはり只者じゃない。

「雪崩を起こす気かの?」

「転移結晶の原石が既にいくつか仕掛けられている」

 一つの石に魔力を注いで暴発させれば他の石が連鎖することは分かっている。既に石は飽和状態なのだろう。恐らく例の魔力吸収術式が刻まれているはずだ。自然界にはない一定レベルを超えた魔力だけを吸収する。

「下手をするとこっちが使った魔法がトリガーになる可能性がある」

 僕たちは黙った。

 あの傾斜の雪が全て雪崩を起こしたとしたら、いくら宮殿が堅剛だと言っても持ちこたえられるかどうか。恐らく下流の町も大聖堂もパニックになる。案外これも陽動かも……

「爆破される前に部分的に落としましょう。それなら普段からやってるから」

 ロザリアが言った。

「一度に落とされるから問題なのであって、部分的に落してしまえば」

「残りを発動するかもしれんぞ」

「同時に落とされるよりは影響は少ないと思います。タイミングによっては宮殿には掛からないかも知れない」

 その先の渓谷に落ちる分には問題ないか……

「どこから落とす?」

「左を落としてしまえば、仮に右側を落とされても、真っ直ぐ宮殿にぶつかることはありません。間違いなく左の傾斜に沿ってそれますから、被るとしても右側の一部だけになります」

 僕たちは時間がないながらも、考えた。

「よし、決まりじゃ。左の斜面は妾がなんとかしよう」

「残りは僕と山頂だ」

 僕たちは武器を鞘から抜いた。

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