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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち

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餅つき1

 帰宅すると玄関を入ったところに頭陀袋が置かれていた。

 帰る早々、アンジェラさんが僕に言った。

「『神様の休日』前にご両親がいらっしゃるそうよ」と。

『神様の休日』とはこの世界の暦で元日から十日までのことを言う。

 この期間は神様も休みを取り、元旦の祈りを最後に聖職者も休みに入るという。

 当然、一般の人の世界でもほぼ休日扱いである。国によってはこの期間働くと罰則があったりするので旅をする際には注意が必要だ。下手をすると宿のチェックアウトもして貰えなかったりする。

 この国では精々卑しく思われる程度で、世間体以外傷つくことはない。生活インフラに携わる人たちや兵士は関係なく働いている。

 因みに僕は迷宮に〝散歩〟に行く予定である。ギルドで換金などはできないので、狩る相手は選ぶ必要があるが、咎める者はいないだろう。当然、解体屋も休みなので、狩りは専ら魔石集めがメインとなるだろう。

 それにしても、休日前とはどういうことだろう? 休日の間にのんびり来るか、こちらが行くかするものだと思っていたのに。

「無理に来なくてもいいのに。一時間でいつでも行けるんだから」

「一年の計は元旦にありと言うでしょ? 年の瀬だけど。因みにロザリアの両親も休日に来るからね」

「うわっ、大変だ」

 枢機卿に返り咲いた父親カミールさんと現教皇の娘で、その妻コンチェッタさんが来ると言う。厳密に言うと、ロザリアの育ての両親なのだが。

「うちの両親は兎も角、緊張するなぁ」

「その両親から届いてるわよ」

 アンジェラさんは大量の頭陀袋を指した。

 中身を確認したら、餅米だった。

 実家の田んぼで取れた希少品だ。この国では他に見かけたことのない穀物だ。勇者が愛して止まない『米』と言う穀物とも少し違うらしい。米は南部の国にあるという噂だが、残念ながら僕は見たことがない。我が家では米と言えばこの餅米を指す。料理法はシンプルで蒸し上げて、あとは『餅つき』するだけである。実家の正月には欠かせない一品だ。

「何か伝言は?」

「『水に浸しといて』だそうよ」

 メモ書きを見せられた。母さんの字だった。

「てことは明日には来る気だな。大変だ。宿泊の準備を――」

「もう済んでるわよ。いつ来ても大丈夫よ」

 餅米はふかす前に水分を含ませなきゃいけない、我が家では一日浸けることになっている。だから母さんはそれに合わせてくると言っているわけだ。つまり明日は我が家恒例伝説の『餅つき』大会だ。

「あれ? 明後日、新年?」

「そうよ。何暢気なこと言ってるの」

「!」

 冒険してる場合じゃなかった。やばい、頭のなかで二日程ずれてた。

 道理でみんな一緒に迷宮行かないわけだよ。

「ロザリアのご両親の方は付き人も来るのかな?」

「来ませんよ。うちの両親もあなたの所と同じで結構武闘派ですから」

 吹き抜けの二階の手すりからロザリアが覗いた。

「わたし見れば分かるでしょ?」

 しとやかに見えるけどね。

「今年最後の冒険はどうだった?」

 ロザリアがリオナに訪ねた。

「見捨てられたです」

「あらま」

「見捨ててないって! 油断しただけだろ!」

「へー、鉄壁な防御をすり抜けられたんだ、珍しいわね。ドラゴンとやって気が抜けたんじゃないの?」

 振り向くとそこにはサリーさんがいた。

「そうそう、先客がいるの忘れてたわ」

「ちょっと、アンジェラさん!」

「お気遣いなく。すぐ帰るから」

 ドラゴン討伐戦の顛末を教えに来てくれたのだった。


 第一師団の遠征失敗は中央政府にも深い痛手を残した。

 大体、手柄を無理矢理欲しがる連中と言えば、質の悪い貴族の子息であったりするわけで、本音を言えば、第一師団の連中でさえ胸を撫で下ろしているのが現状だ。

 被害の余りの大きさと、年の瀬のこの忙しい時期に重なったことで、王都では大きな混乱を来たしていた。

 要するに死んでまで迷惑な奴らだったということだ。

 にも関わらず、彼らの願いは叶い、ドラゴンに勇敢に立ち向かった英雄として、過分な栄誉を与えられてこの世を去ることができたのである。馬鹿親に感謝することだ。

 年を越すのは不味いということで、本日急きょ、合同葬儀が行なわれたらしい。


 そこで第二師団並びに僕への報酬であるが、ほぼこちらの要求を丸呑みさせることに成功したらしい。

 その条件として、「最後の一匹の討伐が第一師団の手で行なわれた」と口裏を合わせることが要求された。と言うよりこちらから提示した。

 ヴァレンティーナ様も第二師団長も、黒い! 腹のなか真っ黒だ。

「そういうわけで、新造船の造船資金はすべてあちら持ちになった。思う存分やって頂戴。それとアシャン老が討伐したドラゴンの報酬は丸ごと、こちらに寄付されるそうよ。第二師団とうちと、あなたとで三等分にするようにだそうよ。魔法の塔に安く買い叩かれた後だけどね」

 それ位は迷惑料だ。半分持って行かれても文句は言わないよ。

 取りあえず、面倒な話のケリが付き、一つの懸案事項が解決した。

「来年、武闘大会が楽しみね」

「なんで?」

「近衛に欠員が大量に出たから。国中の猛者が集まるわよ。あんたも出る?」

「出ませんよ」

 サリーさんは笑いながら席を立った。


 その夜、僕は思い立って『双六』を作ることにした。何もしない十日間は長いから新たなイベントを模索する。

 必要なものは紙と筆記具、それと采と駒だ。僕はサイコロを作る。立方体にカットした木切れに番号を振るだけだが。それと駒がいる。駒はなんでもいいので、人に見えそうな物を作った。獣人用と二種類作った。すると男女を分けたくなって合計四種類作った。どうせ子供たちもやるだろうと複数作っておいた。土魔法で粘土を固めて作るだけなので苦労はない。

『一マス戻る』『一回休み』『ドラゴンに追いかけられる。十マス戻る』『宝箱を見つける。プラス二百ルプリ』『剣を買う。マイナス百ルプリ』『ドラゴン発見。剣を持っていると討伐成功、千ルプリ。持っていないと逃走、十マス戻る』

 なんか作ってて楽しいかも。

「猫の駒がない」

 オクタヴィアが僕の作った駒を転がしながら言った。

「オクタヴィアもやる!」

 真顔で言われた。

「はいよ。じゃ、オクタヴィアの駒も用意しような」

 魔法で一発成形だ。


 トイレに行って戻ってくると、双六を書いた紙も駒もサイコロも消えていた。居間に戻るとリオナとロザリアとエミリーとオクタヴィアが『双六』にかじりついていた。

「オクタヴィア、それは『神様の休日』用の遊びだぞ」

「予行演習」

 まったくもう。しょうがない奴だな。


 リオナは赤い獣人人形の駒。ロザリアとエミリーは青と黄色の人族の人形の駒。オクタヴィアは自分専用の駒を使って参戦だ。

 ゲームは序盤みんなほぼ横並びだった。リオナがサイコロを振る。

『忘れ物をした。一回休み』に止まった。

「はう、お休みなのです!」

 席を立つとミカンを籠に入れて戻ってくる。

 その間にロザリアとエミリーがそれぞれ進む。オクタヴィアの番。二本足で立つと、サイコロを持ち上げ、スナップを利かせて器用にサイコロを前に転がす。

『お弁当を忘れる。スタートに戻る』

 がっくりうなだれる。これ程落ち込んだ姿が似合う猫も珍しい。

 リオナが振ろうとすると周りに止められる。

「一回休みだったのです」

 ロザリアがサイコロを振る。日頃の行いがいいのか、見事に前に進んでいく。武器屋の印に止まった。

『武器を買いますか? マイナス百ルプリ』

 持ち金がまだないので素通りだ。

 エミリーがサイコロを振る。三つ進んだ。マイペースだな。

 オクタヴィアが振る。

『振り子列車に乗る。本日開業サービス、無料』

 一気に次の駅までジャンプして、トップに躍り出た。猫が小躍りしている。

 リオナが勇んでサイコロを振る。一が出る。

 一進んだ。

「……」

 リオナには精神修養の場になっていた。


 僕は定時と共にベッドに潜り込んだ。

 明日は餅つき大会だ。よく分からないが、今年最後の大騒ぎが待っている。


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