表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち
242/1072

スノードラゴン討伐2

「マギーさん、棟梁!」

 工房では船に掛かっていた固定具が外されていた。

「すまん、もう少しだ」

 一回りでかくなった零番艇が姿を現わした。

「外装はもう済んでるから飛行は問題ない。内装が済んでいないのでな、なかはさっぱりしたもんだ」

「魔石の消費量が多くなったが、その分速度も機動力も上がっているぞ」

「積み込み完了しました」

 スタッフが降りてくる。

「よし、最終確認だ!」

 内装は棟梁が言う通り、物の見事に取り払われていた。まるで貨物船である。その分補給物資が多く乗せられたのは幸いであった。

 テトが操縦席に向かった。僕とチッタとチコは広いデッキに一つだけあるテーブルに地図を広げた。

 マギーさんと棟梁が乗り込んでくる。

「いいぞ。出してくれ!」

 船が、動き出した。工房の開いた天井からより大きくなった船体が浮上する。

 町の障壁を解除する合図の鐘が鳴っている。

 船は進路を東に向け加速した。

 

 旋回、上昇、加速、どれも格段に速くなっていた。

 想定通りの性能に満足した僕は、船のことはみんなに任せて、ひとり隅っこで弁当を食べる。

 オクタヴィアが一緒に床に座り込んで、僕に紅茶を入れさせると、クッキーを浸して食べ始めた。

「ひとりで食べるのは味気ない」

 生意気なことを言ってるが、要はあれからあのまま寝過ごして、夕食にありつけなかっただけである。

 僕のベーコンサンドからベーコンをちょろまかした。大きな一切れを必死に小さな口に放り込む。

「ほれ、流し込め」

 僕はお茶を差し出す。

「ありがと」

 コクコクとオクタヴィアサイズのカップで飲み干す。

「あ」

 カップを抱えたまま僕を見上げる。

「『ちょうだい』て言葉知ってるか?」

「『お代わり』なら知ってる」

 こんにゃろめ。狭い額にデコピンを食らわせてやった。


 僕が食後のお茶をのんびり啜っている間に、船はあっという間にルブラン山脈の端に到着した。

雲間から覗く月明かりがかろうじて周囲を照らしていた。

 ロザリアが光魔法を空に打ち上げる。

 地上が照らされた。

 難民が進んでくる山道をみんな窓に貼り付いて探す。

 子供たちは耳を澄まし、僕たちは目をこらした。

 子供たちはほぼ同時に見つけたようで、テトは何も言わずに船の進路を変えた。チッタとチコが地図に道の入り口を書き込んだ。

 相変わらずチコは背が届かなかったが、手すり付きの専用の足場が、急きょ棟梁の思いやりで取り付けられていた。

 切り立った渓谷を見つけた。この船で通るにはギリギリの幅だった。

 視界の悪いなか渓谷を抜けるのは至難の業である。

 テトが新設されたボックスのなかの凹みに魔石をセットし、手元のコンソールのボタンを押した。

 すると船に取り付けられた遠光器が辺りを照らし出した。

 さらにピノとリオナが二階に駆け上がった。

 二階には新設の狙撃用回転窓が左右に用意されている。側面防御のため、ライフルを撃つための半円筒形の出窓が設置されているのである。城でいう横矢という奴だ。縦に長い狭間があり、それが窓の曲線に沿って左右に動く仕組みになっている。これによって、窓から身を乗り出さなくても、船首から船尾まで全方位を狙えるようになる。

 夜戦用の遠光器がそこにも用意されていた。

 ふたりはそれを使って周囲を照らし出した。

 しばらくすると前方に松明の明かりがポツリと見えた。

 ロザリアが空に光の魔法を放った。

 空が昼間のように明るくなった。

「見つけた!」

 テトが呟いた。

 山肌に沿った山道に長い人の列ができていた。

 船はゆっくりと渓谷の間を抜ける。

 正面から照明弾が上がった。

「合図です。船を止めてください」

 マギーさんが搭乗口の扉を開け、投下ポイントを見下ろす。

 冷たい空気が入り込んできて、一気に目が覚める。

「物資を下ろして」

 それは懐中電灯と万能薬が詰まった箱だった。

 万能薬にはX薬と記されていた。近衛騎士団で使われてる隠語らしい。

 ロープに縛って、先頭の騎士団のなかに箱を下ろす。そこにはマギーさんが山道の出口までの距離を大まかに記したメモが挟んである。

「最後尾が心配だ」

 僕はテトに長い列の最後尾に向かう様に促した。

 ロザリアが景気よく空に光を放った。


 最後尾が見えてきた。

 殿の騎士団は集団から遅れ、孤立しかけていた。

 負傷兵を大勢乗せた荷馬車を守りつつ、後退を続けていた。

「敵発見!」

 テトが叫んだ。

「僕がやる」

 どこからかピノの声が聞こえた。

「棟梁が付けてくれたんだ。伝声管だよ」

 テトが教えてくれた。

 それは金属の管だった。ラッパ状の先端に蓋が付いている。

 へえ、これで声が届くんだ。

 元祖海を行く船には付いているものらしい。

 行き先ごとに管が何本も壁を這っている。

 敵を確認した。雪狼の群れだった。

 ロザリアが前方に光を放った。

 銃声が二度轟いた。

 二匹が倒れた。

 殿は僕たちに気付いて、振り返った。倒れていた重傷者も頭をもたげ、こちらを見上げた。

 さらに銃声が二度。そしてもう一度。群れは最後尾に辿り着くことなく撤収していく。

 さすが必中モードのライフルだ。ピノでも百発百中だ。でかい敵でなくてよかった。

 船を止め、同じく補給物資を下ろした。

 荷馬車に転がっていた重症患者がゾンビのように生き返った。完全回復薬様々である。

 こちらに元気に手を振ってくる。


 最後尾が渓谷を抜けたのは、先頭が野営の準備を始めて一時間ほど経ったときだった。

 アンデットの様に疲弊した彼らは喝采で迎えられた。

 飛空艇を着陸させると、必要な補給物資を下ろした。

 物資は食料と今夜の寝床だった。

 マギーさんは第二近衛騎士団の指揮官の元に今後の予定を詰めに行った。

 僕とロメオ君とアイシャさんは魔物除けのための壁作りである。

 千年大蛇や足長大蜘蛛がいるとなると、それなりの物を作らないと危ない。とは言え、臨時の野営地に町の城壁並みの物を作る気にはならない。鳴子と落とし穴と魔法障壁で勘弁して貰う。


 すべての作業が終ると僕たちは町に戻ることになった。

 話し合いの結果、ドラゴンを葬ってもすぐには帰還できないだろうとのことだった。年寄りや女子供が着の身着のまま逃げ出してきたのだ。気力が戻るには時間が必要だ。こればかりは薬では治せない。

 それに、まずは渓谷に集まった魔物の駆除から始めねばならない。


 僕たちは食料の運搬を任された。

 今夜は町に戻り、翌日改めて出直すことにする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ