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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち
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高速馬車で行く、ミコーレ砂漠の旅2

 我が家の普段貸し出している馬車を『ビアンコ商会』に持ち込んだ。

「仕事で砂漠に行くことになって、急いで改造したいんだけど」

「サリーから聞いてますよ。本の護送ですって?」

「船が完成してりゃ、こんな苦労掛けなかったんだが」

 マギーさんと棟梁が工房にいたので、声を掛けた。

「いや、船は船なので。それより砂漠仕様にして貰えます?」

「どうしたい?」

「砂漠のことは余り分からないんですけど、取りあえず『浮遊魔法陣』ですかね」

「ラクダに乗り換えるのかい?」

「そのつもりです」

「何人で行く?」

「いつもの面子で五人と一匹かな」

 棟梁に丸投げしてその日は帰宅した。


 翌朝には馬車はできていて、我が家のロータリーに置かれていた。

 改造された幌馬車は余り見栄えが変わらなかったが、足回りは全取っ替えされていた。それと車輿の剛性を上げるために補強が入っていた。

『浮遊魔法陣』で重量が軽減される一方、速度が増すことを想定しての衝撃対策と、砂漠の凹凸の多い地形に対応したねじれ対策である。

 砂漠の夜は寒いということで火の魔石が使える小さな暖房器具がおまけに付いていた。

 目立った改装は馬に日陰を作るための折りたたみ式の大きな布の庇だけだ。

「改造した割には代わり映えしないわね」

 アンジェラさんも同意見のようだ。

 もっとも馬車を引く馬たちには大違いである。重い書籍を積み込んでいるというのに、荷台の重さはほとんど感じないのだから。

 大きめの物入れを荷台の下に設けて貰った。水は魔法でなんとかなるから、馬の餌をしっかり積み込んだ。

 全員が乗り込んだ。

 一応本の見張りということで魔法使いの息子が同乗することになった。

「なんだこれは? 一頭引きか?」

 これだけでかい馬車は普通は二頭立て以上だが、今回に限ってはその限りではない。

「二頭引きにすれば二頭分の餌がいるからね。騙されたと思って、さあ、乗った乗った」

 留守をアンジェラさんに任せて馬車を出す。

 馬が荷台の軽さに驚いている。

「問題ないのです。お前の力を見せるです」

 リオナの言葉に馬もやる気がみなぎっているようだ。

 ものの数分走っただけで、この馬車の改善点が見つかった。身体を支える手すりがないことだ。

 馬車は猛烈な勢いで街道をひた走る。

 荷台の重さを感じないんだから馬も嬉しかろう。真っ直ぐな街道を全力で走れるのだからご機嫌だ。

 機嫌がいいなら馬に任せておくに限る。走りたいように走れということにした。

 どうせ疲れたら万能薬でドーピングだ。

「一体これはどうなっているんだ!」

 息子の名はガッサン・ヒクマト。

 神馬の如き力強さで走る馬に驚いている。

「気持ちいー」

 オクタヴィアが御者の頭の上で風に吹かれている。

 イテテテ、爪立てるなよ。痛いから。

 僕の隣にはリオナが座っている。

「全周囲異常なし」

 こちらも若干浮かれている。

 一方、荷台の方は不穏な空気が流れていた。

「我は貴族である。我のいうことに従え」

 少年の最初の第一声にアイシャさんが蹴りを入れた。

「最初の挨拶は『よろしくお願いします』じゃ。やり直し! 因みにそいつは教皇の孫じゃ。御者は辺境伯の息子で、その横は獣人族のお姫様だ。妾はエルフ故、人族の爵位などどうでもよい」

 ひとりだけ、紹介されなかった者がいる。ロメオ君である。

「そなたは?」

「僕は冒険者ギルドの職員の息子だけど」

「そうか! ではそなたは我の言うこと――」

 二発目の蹴りが飛んできた。

「そいつは我らの仲間じゃ。それにお前より遙かに優れた魔法使いじゃ。学卒のぽっと出と一緒にするな」

「ふざけるな! こう見えても俺は学園一の秀才だったんだぞ」

「では活躍に期待する」

 けんもほろろである。


 馬の脚は驚くほど快調だった。二日の行程を一日で走破する勢いだった。

 昼には三つ目の休憩所まで行き着いていた。

 僕は川辺で水を汲み、万能薬を水桶に垂らした。

 馬はうまそうに飲んでいる。

 オクタヴィアも自分の水筒を開けて、小さな舌でペロペロ舐めている。と思ったら、突然動きを止めた。

「お客さん」

 見つめる先に、お客さんである。


『闇蠍 レベル二十八 メス』


「ちょっと誰か」

 僕が声を掛けたら、腕が幌のなかから出てきた。

「ほらあんたも」

 もう一本腕が出てきた。どうやらじゃんけんのようだ。みんなが一箇所に集まった。

「じゃんけん、ポン!」

 僕が教えた異世界仕様だ。

 負けたのはガッサンだった。

「魔法学校の秀才なら大丈夫だろ」

 荷台から蹴落とされる。

「何しやがる、サディストエルフ!」

「闇蠍だ、さっさと倒してこい」

 闇蠍と聞いて少年は青ざめた。

 いきなり目に見えない敵と戦えと言われたのだ。素人にはきつい相手だ。しかも即死級の毒針付きである。

「お、お前たち護衛だろ!」

「本の護衛だ。お前はただのオマケだ」

「オクタヴィア、場所教えてやったらどうだ?」

 僕が仏心を出してオクタヴィアに声を掛けたら、オクタヴィアが面倒臭そうな顔をした。

 それは猫の表情じゃないから!

「結局、僕ですか」

「リオナがやるのです! 闇蠍とは初顔合わせなのです」

 そういや特殊弾頭ができるまでと、お預けにさせたまま機会を逸していたのだった。

 そうか、初対戦か。

「毒には気を付けろよ」

『霞の剣』とどっちを使うか考えあぐねていたようなので「闇の障壁持ちだから、障壁貫通が有効だと思うぞ。赤で一撃だろうけどな」と助言しておいた。

「ほら、新米魔法使い一緒に行くのです。見るのも修行なのです」

 あんまり参考にならないと思うけどね。

 十歳の腕力に負けて、少年が引きずられていく。


 しばらくしてふたりは戻ってきた。

「弾が勿体ないのです」

 少年はちょっとした衝撃を受けているようだった。リオナのことをちらちら見ている。

「どうでした?」

「ロザリアなら、あんな奴、光の魔法一撃なのです」

 ロザリアの問いに答えながら、嬉しそうに戻って来た。

「一撃なのです」

 グリエルモ様々だな。あんなにてこずった相手を一撃とはね。毒を浴びた様子もない。

 一方少年の方は……

「闇蠍ですよ! ユニコーンすら倒すという闇蠍を一撃って…… 僕はどこにいるかも分からなかったのに!」

 探知系スキルは学校では教えないのか?

「そりゃあ、相手の隠遁系スキルが上なら見つからんだろ?」

 アイシャさんが幌から姿を現わした。その手にはオクタヴィアのクッキー缶。

 蓋を開けてポリポリ食べていた。

「あーっ!」

 オクタヴィアと攻防戦が始まった。

 この主にして、この猫である。

 猫の振りをする作戦は初日に潰えた。

「お前ら一体…… なんなんだ?」

 少年の目が白黒している。

 馬が走りたそうにしていたので、僕たちは早々に休憩を終らせ、馬車に乗り込んだ。


 南の国境の砦まで、四日の行程を僅か二日で走破。

 引き手をラクダに替えて、砂漠へと乗り出した。


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