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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第七章 銀色世界と籠る人たち
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エルーダ迷宮迷走中(センティコア・ハギス編)2

 僕は氷の上に上がると速攻で身体を乾かした。

 ロングブーツのなかに水が溜まってしまって被害甚大。脱いで、逆さまにして、温風で乾かす。

 ついでにズボンと靴下も乾かす。

 足元の氷が冷たい。

 その間にアイシャさんたちは氷の壁を作って防戦する準備を整える。

 ゾロゾロと水面を滑るようにハギスが集まってくる。

 幸い氷の壁を水掻き付きの鉤爪ではよじ登れないようだ。必死に氷を掻いている。

 僕が身体を乾かし終る頃にはすべてきれいに片付いていた。

 考えたもので壁の向こう側に傾斜を付けてわざと氷の上に這い上がらせてからとどめを刺したらしい。

 丸っこい濡れた毛皮の塊が川岸の石ころのようにゴロゴロ転がっている。

 そのまま床面の氷を厚くしてやり、回収準備を整える。

 ポツポツとハギスの亡骸が魔石に変わっていく。

「水の魔石(小)だ」

 ざっと二十七個集まった。一個銀貨三枚程度だ。金貨一枚にもなりゃしない。

 さて、中断されたが、センティコア二匹目である。


 二匹目を倒すとどうするか話し合われた。

「さっきのより小ぶりかしら?」

 小さいと判断し、角を切り落とした。今度は事前に腹の下の周りを凍らせている。

 出たのはやはり水の魔石(大)だった。

 三匹目を探すことになった。

 道すがら探すもなかなか出会えなかった。ほぼマップの中央を通過しても、遭遇することはなかった。

 ハギスがうるさかったので何度かロザリアに魔除けの術式を発動して貰った。

 そうこうしているうちに雨が降り始めた。

 僕たちは先を急いだ。

 そんなときに限って、現れるのである。道のど真ん中で身体を休めている巨大な山。

 恐らく浅瀬を選んでのことだろうが、本降りになるなか、只どいて欲しいだけである。

 三匹目を仕留めた。

 今までで一番でかい奴だった。

 僕たちは角を取らずに待った。

 すると、出たのだ。

 水の魔石(特大)サイズ!

「やったーッ!」

 みんな抱き合って喜んだ。なんでこんなに盛り上がってるんだ? 

 ずぶ濡れになりながら、おかしな達成感に包まれていた。

 それから出口に到着するまで、道で寝そべってるセンティコア、三匹と遭遇した。

 魔石(大)が二つ、(特大)が一つ取れた。転送した角は合計八本になった。



 地上に出て、依頼を達成させると、特大以外の魔石を処分して、昼食を取った。

 午後の探索をするかについて話し合った結果、女性陣全員が着替えたいという意見で一致、スプレコーンに戻ることになった。

 僕は特大の魔石を持って、姉さんのところに顔を出した。

「また特大が出た」と言ったら、驚くより呆れられた。

 一方、ヴァレンティーナ様は殊の外喜んでくれた。ミコーレにいるマリアベーラ様に売りつける気でいるらしい。水の魔石の上得意と言えば砂漠のミコーレだ。いい取引ができるといいのだが……

 姉妹同士いろいろあるらしい。


 家に帰ると全員が地下で装備の点検をしていた。

 僕も地下に防具を運びこんで手入れを始めた。

 水気を切り、金具も一つずつ拭きながら点検していった。マネキンに型崩れしないように掛けてから自然乾燥させる。

 革に塗り込むオイルが切れかけていた。

「仕様がないなぁ」

 あとで買い足しておこう。

 装備の後は僕たちの番だった。全員で風呂に入ることにした。

 魔法で乾かしはしたが、やはり気持ちが悪い。


 珍しく浴場には誰もいなかった。

 女湯からカコーンと桶の音が響いてくる。

 晴れているのにずぶ濡れになる人間はそうそういないということだ。



 みんなは『マギーのお店』の新作スイートを食べに行くというので、僕は中央広場にある『ドッティ防具店』にオイルを買いに走った。


「こんちわー」

「やあ、若さん。修理かい?」

 若旦那が店番していた。

「オイルが切れたんで買いに」

 若旦那さんが棚からいつものオイルを出してくれた。

「これから冬になると雪で濡れることが増えるからな。手入れはしっかりな」

「はい」

 一通り、めぼしい物がないか見てから出口に向かった。

 今以上の装備はやはりフルオーダーしかないみたいだ。

 出口で慌てた店主の親父さんとすれ違った。

「どうした親父?」

「すぐそこで魔物が暴れとる。大事なもん持って退避するぞ」

 僕は咄嗟に探知魔法を働かせようとしたら弾かれた。

 若旦那が貼り紙を指差した。

『店内魔法厳禁!』

「ごめん……」

 僕は店を出て探知スキルを使った。広場の外れで確かに何かが暴れていた。

 目の前を守備隊が通り過ぎていく。

 僕も後を追った。

 既に別の守備隊たちと交戦が始まっていた。

 そこにいたのは単眼巨人のサイクロプスだった。

「なんでいきなり町中に、魔物なんか」

 サイクロプスは只怒りにまかせて、棍棒を振り回していた。

 第一陣の守備隊は対人装備のため無理せず、応援を待っている。

 ドラゴンの侵入すら防ぐこの町の結界を魔物が易々と突破できるはずがない。

 僕は索敵した。

 可能性があるとすれば召喚獣だ。誰かが町中で魔法を使ったのだ。

 術者が近くにいるに違いない。

 魔力を垂れ流している者を見つけた。

「奴だ!」

 僕と同時に叫んだのはサリーさんだった。

「エルネスト、魔物は頼んだ!」

「えー? 僕がこっち?」

「頼んだ!」

 サリーさんと数人が犯人らしき者を追いかけていった。

「そりゃ、魔物はこっちの領分だけど……」

 手ぶらだけど仕方がない。

「エルネストさん!」

「ロメオ君!」

「町の結界と干渉してしまって、それで暴れているんです!」

「やっぱり召喚獣?」

「そうみたいです」

「なんで召喚獣なんか?」

「それは後で! 僕たちとあいつを結界で囲ってください。町に被害が出ないように」

 僕は結界で周囲を囲った。

「魔法を使います! 守備隊は離れて」

 ロメオ君が風を巻き起こし、サイクロプスにぶつけた。

「なるほど」

 僕はそのなかに火を放った。

 すると結界のなかで巨大な火の渦がサイクロプスを巻き込んだ。

「ウヲオオオオオオッ!」

 人とも獣ともつかない断末魔の叫びを上げてサイクロプスは虚空に消えた。

 歓声が巻き起こった。

 全く人騒がせな。

 守備隊が聞き込みする人員を残して、持ち場に戻っていく。

「兄ちゃん!」

 ロメオ君の周りに子供たちが集まってきた。

 どうやら近所の顔見知りのようだ。

「話を聞かせてもらえるかな?」

 守備隊の兵士がやって来た。

「立ち話も何ですからこちらへどうぞ」

 冒険者ギルドの扉をロメオ君のお母さんが開けて、なかに入るように促した。


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