エルーダ迷宮迷走中(センティコア・ハギス編)1
突然ですが、新章突入です。章分けはあとで、人の少ないときにします。タイトルもそのときに。
天前月一日、月も改まり、エルーダ迷宮探索再開である。
今日も振り子列車で、朝からのんびり出勤である。
エルーダ迷宮二十一階層から二十五階層までは水エリア。夏に通過しておきたかったが、本日の舞台は湿地帯である。
マップ情報を参考に、装備は本日、全員完全防水加工のロングブーツ姿である。丈の長い衣装も汚れるので、ロザリアもロメオ君も着慣れたローブを脱いで、僕たちと同じ革装備を着ている。うちの守備隊が着ているものだから物は悪くないはずだ。
どうせ凍らせた氷の上を歩くのだが、戦闘になったらどうなるか分からないので、念のためである。
そんなわけで今みんなブーツを脱いでくつろいでいるわけだ。
本日の目標は、地下二十一階、センティコアとハギスである。
センティコアは水牛の魔物である。説明では水牛よりさらにでかいらしい。イノシシのような大きな牙があるのが水牛との見た目の違いである。肉や角や皮は家畜の水牛で間に合っているのでわざわざ退治する必然性はないものと思われる。依頼があれば別だが。魔石の回収がメインになるだろう。大きな水の魔石はミコーレで高く買い取られるから、結構いい稼ぎになるはずだ。ただ、二十一階層ともなると敵のレベルは四十台だ。安全に水の魔石が欲しければ他の迷宮に行くのが常套だろう。
ハギスは丸くてでかい水掻き鼠だ。水掻きのかぎ爪に毒があって、小動物はイチコロらしいが、人には痛みやむくみ程度の毒でしかない。オクタヴィアは注意が必要だ。
エルーダも一時の喧噪から解き放たれ、ある程度落ち着きを取り戻していた。
サンドゴーレムに勝てない、あるいは割が合わないと感じた連中が諦めていなくなったからである。
マリアさんが落ち込んでいると思ったら、意外にも元気だった。
どうやら定着した冒険者が三割近くもいたようだ。
掲示板にセンティコアの依頼があった。なんでも彫刻用に角が欲しいらしい。
『依頼レベル、B。依頼品、センティコアの角。数、二。期日、天前月の十四日まで。場所、エルーダ迷宮洞窟。報酬依頼料、金貨二十枚、全額後払い。依頼報告先、冒険者ギルドエルーダ出張所』
後はお決まりの魔石の依頼だ。
「センティコアね。ちょうどよかったわ。今朝来た依頼なのよ。こちらの在庫も尽きていたから多めに持ってきても大丈夫よ。肉も皮も売れないから魔石にした方がいいわね」
「肉は硬いらしいけど、皮も売れないんですか?」
「家畜の方で間に合ってるみたいね」
「大きい方がいい気がするけど」
「限度を超えたら邪魔なだけよ」
限度超えてるのか……
「ハギスがいるところにはなるべく踏み込まない方がいいわ。小さいくせに攻撃的で数が多いから」
見渡す限りの湿地だった。
「道はあるわね」
マップ情報通り、大分入り組んでいるが道が続いているようなので助かった。
それでもぬかるんでいることには変わりなく、オクタヴィアは早々に僕のリュックのなかに収ってしまっていた。
湿地のあちこちにハギスの小集団が点在していた。恐らく家族単位なのだろうが、大所帯だった。
火蟻のケースが頭をよぎる。伊達に地下二十一階の住人ではないと言うことか。くわばらくわばら。
他のパーティーが一組先行していた。同じ目的だろう。戦闘せずに出口を目指している。
「うっとうしい場所よね」
ロザリアがどんよりとした景色の空を見上げて言った。
「このフロアーて雨とか降るのかな?」
他のフロアーも天候の変化はあったから、ないとは言えないよな。
そう思いながら空を見上げていると、嫌ーな気分になってきた。
「雨は困るよね」
「雨を避ける場所もないものね」
浅い沼が点在するのみである。
「水没する方が心配だよ。足元が見えなくなる」
「急ぎましょう」
「センティコア、発見!」
遠くから見える巨大な影……
「でかいな」
「想定外じゃな」
火蟻女王サイズのでかさだ。
「もしかして魔石特大出るんじゃないか?」
全員が苦笑いした。
やってみる価値はある。望遠鏡付きのライフルの真価を試すときだ。
敵にギリギリまで近づくと先行するパーティーがいないことを確認、狙いを定める。
僕は『一撃必殺』を発動しながら『魔弾』の威力の調整をする。
なかなか反応が来ない。
「思ったより硬いぞ、こいつ」
反応があった!
僕は魔弾を発射した。
「やったか?」
沼地のなかだったので、凍らせながら進んだ。
リオナが『霞の剣』で角を一本ぶった切った。水面に落ちて水しぶきが跳ねた。
リオナを始め数人が水をかぶった。
僕はもう一本を切り落とそうと反対側にいたので、気付かなかった。
センティコアの図体の上に身を乗り出したところで、みんなに睨まれた。
僕のせいじゃないだろ?
僕は二本目を切り落とした。
さすがに同じ轍を踏む者はいなかった。
あ! ヘモジがいたんだ。ヘモジに支えさせればよかった。
今ヘモジを出すと、さらなる批判の視線が集まりそうなので、知らんぷりしておく。今のヘモジのサイズを知っている者はいない。小さいままだと思っているはずだ。
アイシャさんが水気をある程度飛ばして、転送する。
一瞬解体屋に飛ばしていいものか、修道院なのか迷ったが、解体屋で問題ないらしい。
商品として流通させるには、洗ったり、切り口をきれいにしないといけなかったりするから解体屋が正解なのだそうだ。あちらとしてもセンティコアを丸ごと送られるよりはいいだろうとアイシャさんが教えてくれた。
そうこうしていると大きな図体が消えた。
「どこだ?」
魔石が……沼のなかに沈んでしまった。
僕たちは手分けして身体の中心があった辺りを凍らせた。そして氷ごとみんなで持ち上げる。
「重いのです」
ヘモジ使いたい。使いたいけど…… 視線が……
氷のなかに魔石を見つけた。
熱で溶かしながら取り出した。以前見た魔石(特大)に比べて一回り小さい。
僕は早速『認識』スキルを発動させる。案の定、水の魔石(大)だった。
十分大金になるのだが、皆の落胆の色は大きかった。
一度火が付くと人の欲というのは治まらないもので、早速二匹目を探し始めた。
「天気が悪いから急ぐんじゃなかったのか?」
そう言うと「道の途中だから、大丈夫」と言われた。
言ってるそばから道をそれていくのは先頭のリオナ。
足元を固めているのはロザリアだった。
へー、使えるようになったんだ。
思わず感動してしまった。
みんな一歩ずつ進歩してるんだ。僕も負けられん!
意気込んで一歩踏み込んだら、氷が割れて、落っこちた。
「……」
「ごめんなさい。まだ、厚みにばらつきがあるみたい」
ロザリアが恐縮する。
その横でリオナが笑う。
「おあいこなのです」
どう見ても僕の方が被害が大きいだろ!
オクタヴィアは咄嗟に僕のリュックから飛び出して氷の上にいた。
「大丈夫?」
心配してくれるのはお前だけだよ。
そのときだった、水面に飛び込む音がした。
「やばい! 見つかった!」
僕たちはハギスに見つかってしまったのである。




