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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第六章 エルーダ迷宮狂想曲
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薪集め秋祭り2

 僕は翌日、『ビアンコ商会』に来ていた。

「小舟が欲しい?」

 マギーさんがまた何を言ってるんだという顔で僕を見た。その瞳の奥ではまたよからぬ打算が働いていたが。

「お祭り用の小道具なんですが……」

「儲けには……」

「繋がりません」

「内陸のこの地域で舟って」

「堀に浮かべるんです。ちょっとイベントで使うんで、十艘ほど」

「十艘?」

「他に…… 猫車、荷車が十台ほど、背負子(しょいこ)に、枝きり用の鉈は持参してもらうか…… 念のために五十セット。あと薪を縛るロープを」

「ちょっと! 何する気ですか?」

「ああ、そうか。内容話しちゃった方がいいですよね」

 僕はお祭りのメインイベント『薪集め大会』の趣旨説明を行なった。


「面白いこと考えるわね。で、景品はどうするの?」

「取りあえず冬越しに使えるものがいいかなと思うんですけど」

「魔石は定番よね。乾物とか、雪かき用のスコップとか……」

「うちからは参加賞で香木を出そうかと」

「あーそれ、うちにも流してくださいよ。保管庫に入らないほど余ってるって聞きましたよ」

「誰が言ったんです?」

「お宅の猫ちゃん」

 オクタヴィア? それともリオナ?

「オクタヴィアですか?」

「違うわよ、チコちゃんたちよ」

 抜かった、あいつらには口止めしておかなかった。って、獣人たちみんな気付いてるよな。

「市場が値崩れしない程度になら」

「やった! ありがとう。あとで担当に行かせるわ」

「それよりマギーさん、なんで店にいるの? 店長代理お役御免になったんじゃないの?」

「飛空艇の関係で造船工房が軍の重要施設扱いになってね。わたしはその守備隊の責任者ってわけ」

「給料二重取りですか?」

「それ位いいじゃないですか! 聞きましたよ。金塊の話! ずるいじゃないですか、隊長たちだけ。わたしだって遊んで暮らしたいです!」

「そう言えば、クイーン部屋、うちの連中とチャレンジしてたんですよね? 婿養子部屋だけじゃ満足できないと?」

「一緒に行ったのは二回だけですよ。休みが合った日だけですから。二回とも空振りで……」

「うちの連中はもう十連敗以上してますよ」

「それがせめてもの救いです」

 黒いぞ、マギーさん。

「騒がしいな」

 休憩時間になったようで、作業員たちに混じって棟梁が現れた。

「こんにちは、棟梁」

「おお、来とったのか? 船ならまだできとらんぞ」

「お手数おかけします」

「おう、で、なんの用だ」

「祭り用の小道具の手配をしに。もう済みましたけど」

「そんなこと使いっ走りにやらせりゃいいだろ?」

「いえ、聞きたいこともあったので」

「聞きたいこと?」

「今回の問題起こしてる連中です」

「ああ、自由区画を占領しようとしている馬鹿どもか。結構大手だという噂だな」

「うち舐められてますよね」

「『ビアンコ商会』が?」

「いえ、姫様がです」

「そうだな。どこぞの弱小貴族と勘違いしておるんだろうな。大商人の助けがなければ町の開発もできない、媚びへつらってくる貴族と思うておるのだろう。無理を通して、この町の利権に食い込むつもりなんだろうさ。舐めたマネをすれば身代が吹っ飛ぶと言うのにな、馬鹿な連中だ」

「うちの連中の調べでは『ダングラール商会』と言うらしいんですが、ご存じですか?」

「ダングラール!」

 ふたりは目を丸くした。

「なるほど態度がでかいのも頷けますね」

「首都で幅を利かせている大商会だ。貴族から上前跳ねて生きてるような連中だ。奴ら商人というより金貸しだ」

「なんでそんな大商会が今頃?」

「この町の発展具合を見誤ったんだろうさ。お姫様に開拓できる町なんて高が知れてるとな。うちもお嬢がいなきゃ、恐らく見誤ってた。『銀花の紋章団』の本拠地になることも、坊主という伏兵がいることも知らずにな」

「ノリノリで来たんだと思ってましたが」

「お嬢のおかげでな。他の商会を出し抜くことができた」

 棟梁が豪快に笑った。

「多分ボナ卿の一件で、こちらに気付いたんですね。大量の金が動いたことで、姫様の資金源が思いの外潤沢であることを知ったのでしょう」

「そして気付いたときにはアルガス並みの巨大市場が完成していたというわけだ。しかもまだ発展途上ときている」

「商人が自分の鼻を使わなくなったら終わりです。情報源を賄賂の効く低級貴族にばかり頼るから、肝心なときに弾かれるんですよ」

「この町の商人たちはうちとの付き合いが長い所ばかりだ。切り崩しはできんよ。だからこんなマネをするんだろうがな」

「『ビアンコ商会』とどっちがでかいんですか?」

「一言では言えんな、ジャンルが違い過ぎる。彼らは貴族の荘園に必要な資材、人材を提供したり、上がりの上前を跳ねるのが仕事だ」

「わたしたちは国の隅々にまで物資を行き渡らせる流通が主な仕事。どちらが上とは言えませんね。こちらは流す物資がなければ困るし、彼らは商品が売れなきゃ困る。ただ言えることはこちらは彼らの商品を必ずしも必要としてないけれど、彼らは我々の物流網を無視することはできないと言うこと。まあ、金持ち喧嘩せずですよ」

「だから領主に喧嘩を売るわけか」

「馬鹿よね。調べるならとことん調べないと、半端に分かった気でいると痛い目見るわよ」

「その前にユニコーンに蹴られなきゃいいけどね」


『ビアンコ商会』を出ると僕は帰宅の途に就いた。

 祭りのメイン会場は中央広場だが、薪集め大会の会場は北の大門前広場で行なわれることになっている。

 中央広場から北の大門までの通りには出店を並べる予定だ。

 期限が短いので数は集まりそうにないが、子供たちが少しでも祭りの雰囲気を楽しめたらそれでいい。


 家に帰ると、リオナたちがエントリーシートをテーブルに置いて話し合いを始めていた。

「人数集まりそうか?」

「ロザリア、アイシャさん、エミリー、ロメオ君、子供たちとリオナで十四点。あと六点あるのです」

 薪集め大会はチーム戦で行なわれる。

 大人の男二点、女性一・五点、子供(十四歳未満)一点で計算して一チーム、二十点までで構成するのである。ポイント内なら何人でも参加可能である。

 残り六点なら男性なら三人、女性なら四人、子供なら六人まで参加が可能である。

「ユニコーンが見てるからイカサマできないからな」

「勝負は本気でやるものよ」

 ロザリアが燃えている。

「オクタヴィアも出たい」

 僕を見上げるつぶらな眼に言った。

「二本脚で立って、枝持ってチョロチョロしなきゃな」

 猫は項垂れた。


 ルールは簡単だ。堀に浮かべた舟に森で集めた薪を載せればいい。そして船体が一定レベル沈んだらそのチームの勝ちである。重さを量るために船体側面には目印のラインを入れることになっている。

 回収や薪割りに使えるのは鉈だけなので、薪の太さも自然と制限が掛かる。のこぎりや斧で玉切りしなきゃいけないような太い幹などは今回計算には入れていない。これはあくまでゲームである。もっと言えば悪徳商人を追い出すためのカモフラージュである。

 それはさておき、この戦いの味噌は、回収手段と運搬手段の選択、舟積みの仕方だったりする。

 回収には人手がいる。体力も要る。男たちが体力に物を言わせるか、子供たちが手数で勝負するかはチーム次第。

 運搬作業も一度に大量に運ぶ荷車を使うか、人海戦術で背負子を使うかも選択次第。

 そして舟への詰め込み作業だが……

 普通に山積みにしていてはラインまで届かない仕掛けが施してある。つまりパズル的な要素も含まれているのである。薪を束ねてうまく積み上げるか、井型に組んでいくかはチームのやり方次第だ。ただし、舟は揺れるので積み込みの最中は注意が必要だ。

 見ている者が楽しめるように、運搬ルートに障害を置くなどしてさらに一工夫する予定である。


「そういやうちの薪はどうなってるの?」

 僕が何気なくアンジェラさんに尋ねたら「今頃何言ってるんだい? 魔石は売るほどあるじゃないか」と即答された。

「今頃?」とはどういう意味だ?

 聞けば、薪というのは半年以上、できれば一年以上乾燥しなければ使えない物らしい。

「知らなかったのかい?」

 頷くしかなかった。お恥ずかしい限りである。

「でもさ、そうなると今になって命の危機みたいに薪で騒いでる人ってなんなんだろうね? 僕みたいに乾燥させることを知らないとか?」

「それってほんとにこの町の住人なのかい?」

 アンジェラさんの話では、数年先の分までヴァレンティーナ様は薪を用意しているらしかった。

 この地や街道を開拓するために、森を切り開いたときに出た、材木にならなかった膨大な量の切れ端をすべて薪として保管しているのだそうだ。

 もちろんボランティアではないので手間賃ぐらいは貰うらしいが、商人から買うことに比べたら破格の値段設定になるようだ。

「獣人のみんなは?」

「長老がちゃんとやってますよ」

「そうなると益々あの人たちが気になるな。人族側の冬越しの薪が足りなくなるとか、獣人の森で調達できるとかいう噂もだ」

「そいつらは『ダングラール商会』の手下だ。奴らはわざと危機感を煽って、町に対立を起こさせようとしてるんだ」

 したり顔の姉さんがいつの間にか、僕の目の前にいた。


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