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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第六章 エルーダ迷宮狂想曲
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エルーダ迷宮狂想曲27

 現れたのは冒険者ギルドのマリアさんと、なぜか修道院長だった。

 挨拶もそこそこに、修道院長が口を開いた。

「子供たちが人質に取られました」

 その第一声に僕の背筋は凍った。

「犯人は――」

 修道院長は僕を見た。

「今日中に金塊を回収した冒険者を連れて来いと…… さもなくば……」

「会うだけじゃ済まんぞ」

 姉さんの冷めた言葉にヴァレンティーナ様も頷く。

「当然、金塊の在処を吐かせようと人質を更に利用するでしょうね」

「金塊が手に入るまで子供は返して貰えないだろう。それどころか、見つけた途端、口封じに殺されるんじゃないか」

 ふたりはさぞ当然のことのように言った。

「そんな!」

 修道院長は益々青ざめた。

「これはもうれっきとした犯罪です!」

 マリアさんは怒り心頭である。

「子供たちは今どこに?」

 ヴァレンティーナ様が尋ねた。

「それが…… まだ修道院に」

「籠城か? 全員、捕まったのか?」

「いいえ、三人だけです。他の子供たちは逃げ出して、今はギルドが保護しています。あと…… 最後まで子供たちをかばっていた修道女たちが数名」

「籠城しているのは私兵全員か?」

「恐らくそうだと思います。建物を囲むように見張りの兵隊たちの姿が見えましたから」

「よく抜け出せたわね」

「改修工事が幸いしました。子供たちが言うには、抜け道には事欠かなかったそうで。わたくしはたまたま教区に出ていたものですから、子供たちに事態を聞かされて、びっくりしてしまって――」

「ここまであからさまな行動を取るということは、はなから証拠を隠滅する気だということだ。修道院のなかで何が起きても状況証拠だけでは罪にならないからな」

「報酬の分配でもめて、雇った冒険者が突然、暴力に訴えて暴れだす。そしてたまたま居合わせた修道女と子供たちを手に掛けようとする。見かねた彼らは子供たちを守るために冒険者を殺害するが、時既に遅し、子供たちの命は天に召された後だった。我々は正義を行なったのだ。罰を受けるいわれはない。よくある筋書きよね」

「いつになっても廃れないものだ。この手の悪行は」

「そんな……」

「現在は修道院の外側を、冒険者ギルドと、アルガスの守備隊で包囲しています」

「それにしても無茶をする。自暴自棄にはちと早すぎやせんか?」

「元々そういう奴らなんでしょ」

「どうなさいますか? こちらが動かないのであれば、修道院内で起こっている事件でありますから、聖騎士団を動かすことになりますが」

「そんなことをしたら、人質だけ殺されて終わりだ。孤児が貴族に無礼を働いた。それだけだ。儲けはなくなるが、保身を保つためならやるだろう。指輪の一個でもなくなったと言えば修道院に踏み込む理由にはなる」

「そのような…… あんまりです!」

 院長が俗世の理不尽さに震えている。

「で、エルネストはどうしたい?」

 ヴァレンティーナ様が僕に振ってきた。

「金塊の在処を教えても、彼らには取りに行けません。何せ、最後の開かずの扉も、その部屋の鍵の入った宝箱も彼らには開けられませんから。それに二十人はあの小部屋には多すぎます」

 姉さんがクスリと笑った。

「すべてのお膳立てをしてやらなければならないというわけね?」

「そんなことをしたら、せっかくのポイントが他の冒険者にも知られかねませんよ」

「エルネスト君、子供の命がかかってるのよ!」

「とりあえず、親の七光りで脅してみますよ。ロザリアも連れて行きます。多分駄目でしょうけど、そのときは致し方ありません」

「わかった。では『銀花の紋章団』ギルドマスター代理として命ずる。我らギルドの利益を搾取しようとする者を排除せよ。それと王家の名前を出してもよい。さっきも言ったが既に連絡済みだ」

「逆上しなきゃいいけど」

「国王と教皇の名を聞いて逆上するようなら、そいつはどの道、逆賊だ。遠慮などいらん」

 なるほど道理だ。

「マリアもそれでいいな?」

「教会で死人を出すのは頂けませんが」

「エルネスト」

「はい。考慮します」

「修道院長もよいな」

 黙って頷いた。

「じゃあ、準備します。ロザリアを探さないと」


 銃のオプションを試すために狩りに出ていたリオナたちを、緊急手配を掛けて獣人たちに探させた。余り遠くに行っていなかったようで、すぐにふたりは戻って来た。

 振り子列車のなかで事情を説明すると、ふたりは烈火の如く怒った。アイシャさんと隠密用にオクタヴィアも連れて行きたかったが、致し方ない。

 院長は得体の知れない乗り物に驚愕している。

 こちらに来る折は、馬車でアルガスまで行き、そこから飛んできたらしい。到着が事件発生から半日経っているのはそのせいだ。同じ方法で戻ると、犯人の忍耐力次第では人質の命がなくなってしまう。

「内密によろしく。マリアさんは知ってたみたいですけど」

「よく利用したものよ。さすがにエルーダまで繋がってるとは思わなかったけどね」

 ソファーに腰掛ける姿も堂に入っている。

「お茶を入れましょう。気を落ち着けて、それから作戦会議です」


 一時間ほどで村に着いた。

 僕たちは裏山を駆け下り、急ぎ修道院に向かった。

「リオナ、後を頼む」

「了解なのです。人質は任せるのです」

 リオナを修道院の外の野次馬に紛れさせて、姿を隠した。

 マリアさんは待機させているギルドメンバーに合流した。

 野次馬を掻き分け、正門の扉まで来ると院長は扉をノックした。

 武器をかざした敵の私兵が扉の隙間から顔を出した。

「望みの冒険者を連れて来たと伝えなさい」

 院長が必死に威厳を保ちながら言った。

 辺りが色めきだった。

 ボディーチェックをするまでもなく僕たちは丸腰だった。おまけに子供だったのでおざなりなチェックだけでなかに入ることができた。が、それでもロザリアには屈辱だった。

 後でロザリアに触ったその手を切り落としてやる。

「待ちかねたぞ。冒険者殿」

 僕たちを見てボナ卿は驚いた様子であった。

「随分若い冒険者だな」

 下手に出るのを一瞬で止めたようだ。子供と見て、いきなり高圧的な態度になった。

 仕様がないな、結果は分かっているけど、段取りは踏まないとな。

「『銀花の紋章団』所属、エルネスト・ヴィオネッティーだ。こちらはロザリア・ビアンケッティ。あんたたちが探していた冒険者というのは僕たちのことだ。但し、僕たちは王家、並びに教皇の代理でもある。そういうわけなので今すぐ人質を解放してもらいたい」

「なっ」

 一瞬だが動揺を見せた。まさか貴族の子弟が相手だとは想定していなかったようだ。しかもその口から有り得ない雲の上の人物の代理だと言われれば、普通ではいられない。

 よくよく考えれば、ヴァレンティーナ様が関与している時点で、教皇は兎も角、王家は想定できたことだろうに。

「我々はただお前たちに宝の在処を聞きたいだけだ。人を犯罪者のように言わないでくれ給えよ。国王? 教皇? 我らが何をしたというのだね?」

「では、人質たちを渡して貰おうか?」

「はて、なんのことやら」

 いい度胸と言うべきか、阿呆と言うべきか。

「子供たちがいないならここにいる理由はないな。帰らせて貰おう」

 門に向かおうとした僕たちの前に男たちが数名立ちはだかった。

「子爵が伯爵家の道を塞ぐか?」

「ここは治外法権だ、身分なんて知るかよ」

「では言い換えましょう。神の庭で枢機卿家の道を塞ぐつもりですか?」

「枢機卿だと?」

 あ、少し考えた。

「捕まえろ! 生意気なガキ共が! ついでに貴様らの親から身代金をふんだくってやる!」

 展開早っ。よく考えてから行動しろよ。

 それに我が家にそんなことしてみろ、領地ごと消滅するぞ。

「子供たちは二階みたい。修道女たちも一緒みたいね」

 ロザリアが呟いた。

 命も別状はないようだ。

 探知スキルで見渡したところ、人質は一まとめに拘束されて、部屋の隅で大人しくしていた。

「見張りはひとりか」

 建物にいる兵力もこの程度なら問題ない。

 手練れはあの養子の横に控えている男だけだ。

 実家の守備隊みたいなのが二十人いたらどうしようかと思ったが、なんとか約束は守れそうだ。

「何をこそこそしている! 今更許してもらえると思うなよ、ガキ共が」

「言っておきたいことがあるのだが」

「なんだ?」

「武器を捨てて投降しろ」

 ボナ卿の顔が見る見る赤くなった。


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