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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第五章 開かない扉と迷宮の鍵
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ロメオ君育成計画7

 昨日全くギルドポイントを稼げなかったので、本日、ロメオ君のご実家で簡単な依頼を受けた。休みの日だったのだが、スケルトン先生の個人授業(レッスン)が受けられなくなったので、ロメオ君とふたりで出かけることにしたのだ。


『依頼レベル、D。依頼品、野牛(バイソン)。数、一以上。土前月七日まで。場所、一角獣の森東部。報酬依頼料、金貨一枚から/匹、全額後払い。依頼報告先、冒険者ギルドスプレコーン出張所』


 重複可能な依頼なので一度にお金とポイントが稼げるチャンスである。もっと高額な依頼ならよかったのだが、明日に疲れを残さない程度にがんばれるものをチョイスした。

 リオナとロザリアはアルガスに買い物に出かけた。

 食べ歩きのついでにロザリアの装備品を本格的に揃える気らしい。


 僕たちは飛空艇の格納庫でテトと出会った。

「お早うテト。どうした、こんなに朝早く?」

「飛ぶんでしょ?」

 相変わらず獣人は地獄耳だ。

「みんなはどうした?」

「まだ家だよ」

 その答えはつっけんどんだった。

 先日、五人の保護者が移住組の先発隊と一緒にこの町に着いた。四人は母親と合流できたが、テトには親戚の叔母の家族だけだった。叔母も未亡人だったが、テトより幼い子供がふたりいた。

 居場所がないのだろうと僕は思った。

 テトは本気で飛空艇の操縦士になる気でいるらしく、いつの間にか『ビアンコ商会』から許可を貰って、格納庫に出入りする自由を手に入れていた。

「よし、乗れ。出発するぞ」

「いいの?」

「操縦したいんだろ?」

「うん!」

 勇んで乗り込んで操縦席に向かった。

「あっ」

 身体の小さいテトにはまだ操縦は無理だと思い出した。

 操縦席はテトにはまだ大き過ぎるのだ。椅子に座ると手足が届かないはずだ。

 だが、テトは何やら箱を取り出してコンソールに設置した。そしてそこから伸びた二つの紐を操舵装置の後ろにある接続端子に取り付けた。

「棟梁が作ってくれた」

「あの棟梁を口説き落としたのか?」

 手だけで操縦できるようにするパーツのようだ。実験段階では手だけで操縦してたんだ。当時のシステムに割り込んだだけだろうが、両方使えるのはありがたい。正直、リオナにもそのシートは大きすぎたんだ。不測の事態に備えて誰でも操縦できた方がいい。

 テトは椅子の背にクッションを置いてリーチを稼いだ。専用のベルトまで用意して、姿勢を固定する念の入れようだ。

 棟梁、相当テトに肩入れしてるな。それだけ、本気ということか。

 動作チェックをして問題がなかったので、任せることにした。

 心配は当人の魔力だけだが、リオナでも結構飛べたしな。補助用の魔石も積んであるから今日のところは問題ないだろう。

「魔石の補充は完了したよ。ほとんど減ってなかった」

 ロメオ君が船に必要な各種魔石に魔力を補充してくれたようだ。

 僕はテトに出発の合図をした。

 格納庫からの出し入れが一番面倒なんだよな。

「わかるか?」

「うん、勉強した」

「急がなくていいからな」

 操縦桿を握ってやる気満々だ。

 基本的に落下しない乗り物なので気楽なのだが、新品の船艇に傷が付くのはやはりうれしくない。

『浮遊魔法陣』が作動して船に浮力が付いた。船はゆっくりと前に進む。

 いい調子だ。

 ハッチを抜けて、絶壁に船底を晒す。

 さすがにこの瞬間だけは緊張する。真っ逆さまに落ちようものなら死ねるからな。そうはならないと分かっていても身震いする。

「少しだけ気合いを入れて踏み出せば大丈夫だ」

「うん……」

 テトの顔にも緊張が走る。

 船は滝壺に落ちることなく問題なく発進した。

 ロメオ君も強ばっていたが、ほっとした様子だ。

 ふたりして大きな息を吐いている。

「この間行った東の草原に向かってくれ。魔力が切れる前に交替するから、無理だけはするなよ」

「うん、わかった」

 僕たちは操縦を任せ、周囲の警戒をするためにキャビンに戻った。



 目的地の草原には思いの外早く着いた。眼下の緑のなかに野牛が何百頭も屯していた。

「じゃ、行ってくる」

 草原の傍らに船を着陸させると僕とロメオ君は船を降りた。

 船は万が一に備えて五メルテほど上空で待機だ。錨を地面に下ろした分、船が軽くなって浮力が付く仕組みだ。バラスト水の微妙な調整は必要だが、これで容易く空中で停泊が可能になる。この仕組みを思いついたときは「やったね」って思ったね。



「では、まず僕から」

 草原の端に降り立った僕たちは茂みに隠れて、狩りを開始した。ライフルで立て続けに五匹葬った。野牛は縦横無尽に逃げ惑うが、距離の離れたこちらに気付く様子はなかった。

 弾倉を交換している間にロメオ君が雷撃を放った。

 一撃で五匹葬った。さすがに今度は逃げ出した。大群が怒濤のように草原の彼方に走り去って行った。

 僕たちは仕留めた獲物を転送する。

「依頼分はこれくらいでいいかな?」

「そうだね」

 僕は答えた。

「じゃ、練習だね」

 僕は習得したての雷攻撃で我関せずの穴兎を狙った。

 パシンッ! と手前で音を立てて消滅した。

 驚いた兎は土穴に潜った。

「ああ、逃げられた!」

「先にイメージしないと。当たるイメージを作り上げてから、そこに雷を流し込む感じで。雷は速いからイメージを越えて進むんだよ。追い付かれた段階で魔法は消えてしまうんだ」

 わかりやすい説明だ。さすがロメオ君。

 別の穴から出てきたところを狙って、今度こそ。僕は雷を放った。

 命中した! 

「やった!」

 僕の代わりにロメオ君が手を叩いて喜んでくれた。

「やっぱり難しいよ」

 僕は照れながら言った。

「僕には氷魔法の方が難しいよ。固めるイメージと攻撃するイメージが同時にできなくて。氷槍なんて氷投げてるだけだもん。着弾しても割れるだけで」

 そう言って氷槍を木立から出てきた無警戒な野牛に向けて放った。

 ゴン! そんな音が聞こえた気がした。

 氷槍が野牛の頭を直撃して砕け散った。

「あっ」

 石頭だ……

 野牛はブルルッと頭を振りながら、鼻息を荒くすると、こちらを睨んで「ンモォオオオ!」と声を上げた。

「やばい!」

 僕たちは駆け出した。

 野牛がものすごい勢いで角を立てて迫って来る!

 倒れるものだと思って安心しきっていた。

 ロメオ君にしては珍しい失態である。

 ンモオオオオッ!

 巨体を揺らしながら追いかけてくる!

 僕たちは荷物を捨てて、既に全力疾走だ。

「凍らせて!」

 僕は叫ぶ。

「無理!」

 逃げるので必死だ。

「じゃぁ、雷で!」

 雷が何発も落ちるがどれも当たらない。

 走りながら、追いかけてくる相手は捕らえにくい。

「『魔弾』でぶっ飛ばす!」

 僕は魔弾を投下するもきれいに着弾点を除けながら追いかけてくる。

「そんなんありかーッ」

 爆風で興奮した野牛は土塊を跳ね上げながら、益々果敢に迫ってくる。

 ンーモオオオオッ!

「結界! 結界張ってッ!」

 ロメオ君の声で我に返った。



「危なかったー 危機一髪だったよ」

「あー、パニクった。フェイクドラゴンにもビビらなかったのに、牛にビビった」

 ふたりしゃがみ込んで完全に惚けている。

「転送用の札、まだ残ってる?」

「あと五本あるよ。予備貰ったから」

 魔法使いが接近戦にからっきしであることを情けないくらい痛感してしまった。

 技を磨く前に度胸を磨かないと駄目かな……

 結局、ロメオ君の氷魔法はイメージそのものに問題があることがわかった。氷塊ができるのだから、素養に問題はないだろう。姉さんに実演してもらうのが早そうだ。姉さんとの土木作業を勧めておいた。

 テトを待たせ過ぎるのも心配なので、僕たちは引き返すことに決めた。

「テトに見られていたら、笑われるな」

 僕たちは笑った。


 野牛十匹、討伐完了。解体屋の伝票を渡して金貨十枚を手に入れた。一匹は解体屋でバラして貰って、それぞれのお土産にした。兎は解体費用の足しにして貰った。

 テトには僕の報酬から日給銀貨五枚とお肉のいい所を一ブロック、家族のために持たせた。

 

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