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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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踊る世界6

 肉の話そっちのけでワカバの鎧の話になった。

 迷宮のドロップ品だと聞いて王様は驚いた。目敏いな……

「これを迷宮でか……」

 ソウル品を改修した国宝クラスの一品だ。魔法の使えない獣人でも使える、ある意味ドラゴン装備より希少なものだ。


 ワカバがエンシェントドラゴンの肉を口に放り込んだ途端動かなくなった。

「ワカバ?」

「固まった……」

「ワカバちゃん?」

「あれって何!」

 チコに詰め寄った。

 噂は届いていなかったようだ。

 チコが小声で耳打ちした。獣人の耳打ちじゃ、人族には聞えない。でもワカバの視線が僕と爺ちゃんの間で泳いでいるので理解できた。

「ホタテ」

 オクタヴィアが僕の肩に乗ると一言呟いた。

「そろそろ焼けた」

「はいよ」

 一番近くの鉄板で専用に焼いて貰っていたらしい。


「いいタイミングね。美味しそうに焼けてるわよ」

 大きくぷりぷりのホタテが三つ、程よい焼き加減で出てきた。

 猫舌用に冷まさないといけないのが至極残念だ。

 僕は皿に貰うとヘモジの座っている長椅子まで運んだ。

 ナガレたちも海老やクラーケンや海鮮類を皿に盛って戻ってきて、指定席に収まった。

 テーブルにチョビとイチゴが降り立った。

『はー、もうお腹いっぱいです。少し身体を大きめにしておけばよかったですね』

『少し休憩したいです。お水を頂けますか、ご主人様』

 ロメオ君が小皿を用意してそこに水を注いだ。

『なんかいい匂いがします』

 足をじたばたさせながら周囲をぐるりと見渡した。

『ホタテです!』

 ヘモジの座っている長椅子に置かれたホタテの皿に視線が注がれた。

「上げないから」

 オクタヴィアが皿を囲った。

「欲しいなら取ってきてやるわよ」

 ナガレが言った。

『滅相もありません。このお皿の分だけでも残してしまいそうですから』

「いいわよ、残ったらわたしが食べるから。今日は無礼講なんだから、好きな物をいっぱい食べなさい」

『では御言葉に甘えて……』

 ナガレは席を立った。

『ご主人、今日はとってもいい日です。みんな楽しそうです』

「天気もいいしな」

『でも雪になりますよ、若様』

「え?」

『保証します。池に住み着いた寒がりの亀のジェロニモが言ってましたから』

「ジェロニモ?」

『お年を召した方で。川で溺れていたところをチョビちゃんに掬われたのです』

 掬ったのか?

『町ができて川の流れが速くなってしまったようで、うちの池に引っ越してきて貰ったんです』

「いつの間に……」

『よい話し相手になって貰っています』

 ふたり揃って雪だと確信していた。

「リオナ、今夜雪らしいぞ」

 リオナが青い空を懐疑的に見上げた。

「ジェロニモか?」

 ナガレがホタテの皿を抱えて戻ってきた。

「なら間違いない。今夜は雪よ」

 子供たちまでジェロニモが言ったのならと、参加者に伝言ゲームを始めた。

「大変なのです」

「ヴァレンティーナに教えてこないと」

 姉さんが席を立った。

「蟹の次は亀か?」

「そうみたいです」

「夜通しはできなさそうね」

「問題は明日だよ。雪掻きしないと」

 

 町は急に慌ただしくなった。

 ヴァレンティーナ様の指示で二日目の開始が一時間、遅らされることになった。

 このまま明日に雪崩れ込もうと考えていた商店主たちも、軒先に並べていた商品を下げて備え始めた。

 お客たちは特に混乱した。町の外の北の広場にテントを建てて夜を明かそうと考えていた連中が帰宅を余儀なくされたのだ。北の砦も中継所の宿泊施設も既に予約で満杯だった。アルガスの宿屋も同様で、ヴィオネッティー領の方に移動する客も増えたが、リバタニア辺りに宿屋は余りない。

「うちの別荘地を解放しようか? 今閑散期だから客室はあるだろう?」

「でも振り子列車の輸送能力には限界が」

『銀団』のゲートを使わせるわけにもいかないしな。

「かまくら!」

 オクタヴィアが挙手して発現した。

雪が降り積もるならその手もありか。

 だが、結局、安全を考えてゲート使用無料券が配られた。今日の帰宅分は元より、明日この町に来たとき、チケットを持参した者に限り、無料にするというおまけ付きだった。

 他の領地の区間までは面倒見きれないが、一区画だけでも多く転移できれば宿屋を探す助けにもなるだろう。

 ゲート使用料で儲けないで、何で儲けるのかと言いたいところだが、充分、今日来て貰った分だけでも儲けになっているのだ。

 雪が一旦降るとユニコーンでも困るレベルだから、凍死者を出さないためには致し方ないだろう。

 対策をしないで悪い噂が立つくらいなら、ゲートの使用料を免除した優しい領主として噂になる方が後のためにもいいはずだ。おまけに降雪を予測したとなればこの町の株はますます…… おかしなことにならなければよいが。

 ジェロニモ、ほんとに降るんだろうな……

「ナガレ……」

「大丈夫よ。わたしの勘も今夜雪だと言ってるから」

 勘だって言ってるじゃないか!

「少々早いが、今のうちに伝えておいた方がいいかもしれんな」

 ダンディー親父と爺ちゃんが立ち上がった。そしてリオナに案内されて壇上に向かった。

 そして無礼講だと言った口で、僕たちにとって、とても重要な案件について宣言が出された。

『新天地ミズガルズへの渡航に関する勅命』である。



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