踊る世界5
気が付いたらワカバが立っていた。
「遊びに来たったでー」とか言うかと思ったら無言だった。
チッタが隣に座るように勧めた。
「あれなんや!」
第一声が王様の格好を見てのそれだった。
やっぱりワカバもおかしいと思うよな。
「うちもあれ欲しい! どこに売っとるんのや?」
「はあ?」
熊が猫を被る気か……
「こっち」
チコがガラスの棟に飛んでいった。
ワカバは急いで後を追い掛けた。
子供たちがワカバを紹介するついでにマルサラ村の話を母さんたちにした。
「ほお、そんな村があったのか」
武闘派の村があると聞いて、王様の目の色が変った。
「絶対行く気だな」
「そうだね」
ロメオ君!
「やっと解放されたよ」
ロメオ君は王様たちに一礼すると僕たちのテーブルに収まった。ここ数日、大戦後の精算に訪れる冒険者が増えていたので午前中ギルドの手伝いをさせられていたのだった。
ロザリアも教会の手伝いを中断して戻って来た。
子供たちが「何食べる?」とふたりに尋ねたらふたり揃って「お任せで」と言った。
「あっ!」と気付いたときには遅かった。
子供たちはテーブルから消えていた。
「しまった……」
「山盛り決定だな」
ふたり揃って苦笑いした。
「あれ、あれ」
オクタヴィアがロメオ君の肩に乗って会場の一角を見るように勧めた。
「何?」
ロザリアも興味を引かれて視線を向けた。
「あ……」
エンシェントドラゴンの頭が壇上横の台座に鎮座しているのを見て固まった。
「吹き飛んだんじゃなかったの?」
「そのはずだったんだけど、爺ちゃんが回収してきた。ほとんど破壊したはずなのに……」
「死の淵の一瞬であそこまで回復した?」
僕は頷いた。
「逃げ腰な奴だと思ってたけど、やっぱりエンシェントドラゴンはエンシェントドラゴンだったんだね」
「手を抜いてたらこっちが危なかったよ」
「異世界に連れ込まれた段階で普通はアウトでしょ」
「爺ちゃん様々だな」
「で、肉は?」
「そろそろじゃないかな? 頭のお披露目も済んだことだし」
「あら、ヘモジどうしたの?」
樽みたいに軒先に転がっていた。
事情を説明すると、ロザリアが囁いた。
「お腹スッキリさせた方が二倍食べられるんじゃないの?」
ヘモジが奇跡を見たような顔でロザリアとこちらを交互に見詰めた。
「ナーナンナーッ!」
両手を掲げ、尻餅をつきながら勝手に再召喚しやがった。
「ナーナーナー」
ポージングをピシッと決めた。
王様たちが唖然として見てるぞ。
ヘモジはスッキリしてしまったお腹を残念そうにさすった。
「ナーナ!」
そしてキリリと真剣な眼差しでサラダコーナを見詰めた。
「ナナーナ」
早速オクタヴィアを連れて取りに向かった。
余り人気がないようで人は疎らだった。一方、焼き肉の列には大勢の人たちが並んでいた。
いよいよあれの肉の登場である。他の肉を焼いていた鉄板も一時中断して、本日の目玉のために投入された。
待ってましたとばかりに大勢の人たちが席を立った。
「当分出番は回ってきそうにないな」
ジョルジュ殿下が言った。
その辺、子供たちは抜け目なかった。
しばらくするとロメオ君とロザリアの分を取りに行っていたはずの子供たちが全員、山盛りになった皿を運んできた。
「お待たせー」
「王様たちの分も運んできたぜー、兄ちゃん」
「でかした! ピノ」
ダンディー親父に名前を呼ばれて、ぴくんとなった。
「は、はい。みんなで運んできたです」
リオナか、お前は?
「まあ、まあ、まあ、まあ」
母さんが手を叩いて、山盛りの焼き肉を出迎えた。
あっちのテーブルでエンシェントドラゴンの肉を食べてないのは母さんだけだ。残りのみんなは先の戦場や今回の昼食会で食べている。
こちらもピノやパスカル君たちは既に食べているが、タンポポたちは今日が初めてだ。
期待だけで涎が溢れ出しそうだが、王様のテーブルのみんなが食べるのを待っているようだ。
「陛下……」
母さんがダンディー親父に先に料理に手を付けるように促した。
「ジョルジュも」
マリアベーラ様も夫に促した。
「気を使ってくれるな。今は無礼講じゃ。わしらも今はただ、この場に紛れ込んだ客に過ぎん。皆と同じじゃ。大いに食って飲んで騒いでくれ。皆の笑顔がわしらには何よりのご馳走じゃ」
子供たちに向けた言葉だったが、会場の客たちが、一人、また一人と立ち上がった。
やがて一人残らず立ち上がると、全員が杯を捧げた。
「陛下によく似た御仁に。乾杯」
そして、いつもと変らぬ無礼講が始まった。
「おら、おら、おら! 樽が空っぽだぞ。酒屋、早く追加、持ってこい!」
「こら、ガキ共、肉を取り過ぎだ! 他の客のことも考えろ!」
「おおっ! なんだこりゃ?」
「すげー、ピノたちの言う通りだ」
「ブルードラゴンに匹敵するうまさだ! これならいくらでも食えるぞ! と言うか飲める!」
「やめろ、勿体ない! 食え。噛みしめろ!」
「だから溶けるんだって」
「味わえと言ってるんだ!」
「ただいまー」
チコたちが戻ってきた。
「どうや? 似おうとるか?」
猫耳フード付きの外套を着た小熊がくるりと一回転した。
ああ…… なんというか……
女性陣は可愛い、よく似合ってるわよと褒めたが、男性陣は答えに迷った。
確かに可愛い。可愛いのだが…… 微妙だ…… 猫耳が生えた熊というのは…… どう評価していいものか……
「よく似合っておるぞ」
女ったらしのダンディー親父はさらっと褒めて見せた。
まさか、王様のお褒めに与ると思ってなかったワカバは真っ赤になって固まった。
「き、きょ、恐縮です」




