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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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踊る世界4

 テーブルにはダンディー親父、爺ちゃん、皇太子夫妻と母さんと姉さんが座り、隣りに二つテーブルを合せてピノたちとパスカル君たちが座った。その隣にピノのパーティーのタンポポたちが陣どった。

 子供たちは王様が無害だと分かるとマイペースでテーブルに肉を持ち込み始めた。リオナと母さんがクッションになって、段々、お偉いさんのテーブルと近くなっていく。

 戦場に出ていなかったマリアベーラ様や地上にいたジョルジュ殿下が気を使ってピノたちに「空での戦いはどうだった?」と振ったら、返ってきた答えがとんでもなかった。

 アンドレア兄さんと共闘して柱を落とした話から始まって、とんでもない数のドラゴンタイプとの戦闘。取分け僕が一人で使った『雷光暴嵐』には爺ちゃんと姉さんが食い付いた。

 後で実演する約束をさせられ、おまけに王様も付いてきそうだった。

 会場が急に歓声に包まれた。

 会場に運ばれてきたのはなんと、エンシェントドラゴンの肉ではなく、肉を剥いだ後の防腐処理済みの頭蓋骨だった。

 脳を内側から抉ったかのようなでかい穴が空いていた。

 僕の攻撃で吹き飛んだはずなのだが、一瞬で外側はほとんど何もなかったかのように回復していた。怖ー。少しでも手を抜いていたら…… もう一度がぶ飲みされてたな。

「例の内緒の首なのです」

 余りの大きさにその場にいた全員が絶句した。

 あの口に飲込まれた僕でさえ、余りのでかさに言葉を失った。僕を丸呑みしたんだから当然と言えば当然だが。

 どうやら落とし物を回収したのは爺ちゃんのようだ。

 笑って誤魔化された。

「あんなのと戦ってたのか…… 飛んでるときはあんなに大きいとは思わなかったな」

「周りがみんな大きかったですからね」

 パスカル君が言った。

 爺ちゃんとの口裏合わせは既に完了している。世間一般では倒したのは爺ちゃんということになっていた。

 僕がやったという証拠がない以上、僕が追い込まれることはないが、それでも所有権が僕にあることに疑問を抱かない時点で、内心みんな気付いているのかもしれないと思った。

 僕たちの武勇伝の舞台は聖騎士団がいた戦場から第三軍本陣へと進み、いよいよ旗艦との合流を果たした。

 話してばかりで食べられないとの抗議を受けて、一旦インターバルが挟まれた。

 会場全体がはーっと息を吐いて、脱力した。

 急に皆、忘れていたかのように、忘れていたんだが、肉を焼いている列に並び始めた。

「若様、自重しなくてよかったの?」

「やり過ぎたら領主様に怒られるんだよね?」

「ねー、ねー。もう怒られた?」

「チコちゃんも怒られる?」

「ピノは怒られてもいいよ」

「なんでだよ!」

 ピノのパーティーもすっかり打ち解けた。

 天下の『魔法の塔』筆頭に向かって「あれどうすんの?」と聞いてきた。

「煎じて飲めば、強壮剤になるようなことを言う者もおるが、どうじゃろうな…… お前たち、かじってみるか?」と逆にからかわれた。

「出汁、出るかな?」

「余りうまそうじゃないの」

「博物館に置けばいいよ」

「若様が食べられたって解説入れて」

 食べられてないから!

「それもそうじゃな」

 はっはっはーともう爺ちゃんとは紙程の距離感もないようだ。

 さすがに王様相手にそうならないだけの分別はあったようだが、話し掛けて貰えないダンディー親父は結構傷付いた。

「やはりこの格好が不味かったな」

 お門違いも甚だしい。

 

 王様曰く、後々集計してみたら、柱が一番多く落ちた激戦区は南部だったらしい。伊達に一番飛空艇を落とされたわけじゃなかったようだ。所有数も一番多かったし。マッチメイク的にはタロス側に運がなかったと言えるだろう。

 それに僕たちが参戦したタイミングもよかったそうだ。危うく制空権を取り返されるところだったらしい。

 それでも口々に「アンドレアがいてくれて助かった」と言われた。

 飛空艇に乗っていたらもっとフレキシブルに動けたかというダンディー親父の問いには、母さんが集中砲火を受けて真っ先に落とされていただろうから、地上にいて正解だったと語った。

 弟として鼻が高かった。

 最長老はレオをその場に残し、窯を離れてエテルノ様とアイシャさんを引き連れて、我が家の中庭に入っていった。女性陣の視線がさすがに気になったのか、リオナに断わって、庭の神樹を見に行った。

 ナガレが入れ替わりにチョビとイチゴを頭に載せて、中庭から出てくると、そのまま中州の工事現場で働いている工夫たちのいるテーブルに向かった。

 ヘモジはキャロル女史の元から戻ってくると野菜ジュースをビールでも飲み干すようにがぶ飲みし、お腹をパンパンに膨らませて既に置物のように転がっている。

「ヘモジちゃん大丈夫?」

「ナ…… げぷ」

「薬飲めばいいのに」

 子供たちに心配されても『万能薬』を拒絶していた。

「ナーナ……」

 何が「幸せ」だ。

 オクタヴィアが三分おきに肉球を腹に置いて触診している。

「奥の手を使うか」

 エミリーにサラダをテーブルに出すように言った。

 エミリーは心得たもので、クスクス笑いながらリオナと調理場に向かった。

 ヘモジは起き上がった。そして葛藤した。もうすぐサラダが出てくる……

「ナ……」

 飲むべきか、飲まざるべきか、それが問題だ。

「『万能薬』を野菜味にしたら?」

 タンポポが言った。

「俺たちが困る」とマルローが答えた。

 ヘモジは飲まずに野菜を食べた。

 幸せだったかは誰の目にも明らかだった。



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