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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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タロス戦役(再開)23

 うとうとしていたら、突然の爆音で目が覚めた。

「エンシェントドラゴン!」

「違う、タロス」

 肉球でほっぺた叩かれた。

 窓の外がいつの間にか明るくなり始めていた。山のシルエットが朝焼けに浮び上がっていた。

「早いな、オクタヴィア」

「オクタヴィア見張り頑張った。交替、若様頑張る」

「うん。そうするよ」

 手元が何かに触れた。

「これは?」

「レオが用意した。術符を転写したミスリル弾」

 魔力行使を阻害する術符の?

「ご主人と作ってた。これ当てればドラゴン、魔法一時的に使えなくなる」

 そうなれば転移はおろか、飛行することもままならなくなる。

「そうか。使わせて貰うよ」

 干渉できない程距離が空いてしまったときには。

『必中』効果が付いているようなので短銃の方に装填した。三発しかないが有効に使わせて貰おう。


 後部狙撃室ではピノと姉さんがせわしなく動き回っていた。

「ドラゴンが近付いてきたらこの鏃を撃ち込め」

「それで?」

「三本撃ち込んだら、今度はこっちだ」

「どうなるの?」

「氷漬けにできる」

「ほんとに?」

「合成魔法の応用だ。必ず凍り付く。間違えるなよ。最後はこれだ」

「分かった」

 へー、それぞれの鏃に魔法使い一人分の仕事を組み込んで、最後に起動術式を放り込むのか、考えたな、姉さん。

「兄ちゃん、大丈夫? 巻き込まれたりしない?」

「爆裂系にしたら危ないから、凍らせるんだ。ピオトの方にも持たせるから合せて三本プラス一だ。確認し合えよ」

「分かった」

 キャビンの方も騒がしかった。

「やはり羽を落とすのが先決じゃ」

「でも二度目は向こうも警戒するでしょ?」

「船に近付いて来んかも知れんな」

「引き止める何かがあればいいんじゃが……」

「好物とかないですか?」

「きのうの肉でも出すか?」

「それは駄目なのです!」

 地上戦は再開されていた。

 ヴァレンティーナ様は最新の情報を通信兵とやり取りしていた。

 第三軍の一部がゲートを使って今朝方最寄りの町に到着したらしい。

 ここの防御ラインを越えたものは向こうで処理してくれるらしい。勿論大量でなければだが。

 空に穴が開いてからもうすぐ、というかようやく一日が過ぎようとしていた。

 穴の異変に気付いたら、奴は必ず出てくる!

 速やかにエンシェントドラゴンと接触しなければならない。

 いち早く察知するために、昨夜のうちに斥候が各地に展開している。タロスが出現したエリア内はほぼ網羅しているらしい。索敵範囲外に出られたらどうしようもないが。


 地上のタロスも風前の灯火だな。そう思われたとき忘れていた事態が起こった。

 空から柱が落ちてきたのだ。

 エンシェントドラゴンはやはり別口で魔力の備蓄があったのか、あるいは前回の戦いでエンシェントドラゴンの消費分も上乗せされたのか、穴が閉じるタイミングでタロスが最後の一手を打ってきた。

 しかも柱は兄さんたちが落とした最後の柱よりもさらに東側、僕たちが越えて来た山岳地帯の隅に落とされたのだ。

 柱の遠距離攻撃でタロスの地上部隊を包囲するため、前に出ていた護衛船が集中砲火を浴びて沈んだ。

 増援が降りて来る前にへし折らないと!

 兄さんたちが一番近い位置にいるはずだが、如何せん馬の脚で山を越えるのは難しい。しかも行った先にはドラゴンタイプと新たな上陸部隊と柱からの遠距離攻撃が待ち構えている。

 誰かが落としに行かないといけない。が、旗艦と護衛船は戦闘中だ。姉さんがこちらにいる間はヴァレンティーナ様の船も迂闊に前に出られない。

 姉さんが急いでゲートを潜って戻っていった。

 僕たちも出た方がいいのか?

「旗艦から連絡は?」

『何も』

 そうこうしている間にヴァレンティーナ様の船が動き出した。

 見送ろうとした矢先、柱の根元が爆発した!

 山陰で見えないが、明らかに透けるような空に砂塵が覆い被さった。

 みんな目を丸くした。

 二回目の衝撃で柱は途中から折れた。

 取り敢えず上陸部隊は最小限で防げたが、空にはドラゴンタイプが溢れ始めた。

 そのドラゴンが一体、一瞬で真っ二つになった。

「デメトリオ殿下だ!」

 てことは柱を壊したのは兄さんか? 相変わらず無茶苦茶だな。

 残った柱が空からぶら下がっていた。

 空の色は正常な青を取り戻そうとしている。タイムリミットは近い。

 あのぶら下がった柱がどうなるのか想像だにできなかった。境界から切断されるのか、あのまま穴と一緒に消え去るのか。

「!」

 まさか! こんな時に!

 柱のある場所から大きな生体反応が!

「出たのです!」

『出た!』

『急速反転! 最大船速!』

「エンシェントドラゴン!」

 大きな影が空からぶら下がっている柱に絡まり付いていた。

「テト、やるぞ!」

『メインマスト出します!』

 え?

 やるって何を?

 エテルノ様が甲板に飛び出していった。

「いくぞ!」

『みんな何かに掴まって!』

 テトが叫んだ!

 指向性の衝撃波が放たれた。それも船目掛けて!

 船が衝撃で揺れた!

 メインマストが風をはらんで船が加速する!

 船のなかは悲鳴で溢れた。

 三度繰り返して、最後はメインマストが耐えきれずに折れた。

「な、なんて無茶なことを!」

 ドラゴンタイプがすぐ横をすれ違った!

 雷を受けて地上に落下した。

 あっという間に加速して山脈を越えた。

 柱の上には虎視眈々と獲物を狙う凶暴な視線があった。

 エンシェントドラゴン…… 根に持つタイプだったか…… 意外に若いじゃないか。

「ボード!」

 僕は急いでボードを受け取るとタイミングを見計らった。

 柱が遠距離攻撃を仕掛けてきた!

 攻撃をかわしながら接近、反撃に転じる。

 ドラゴンタイプが割り込んできてエンシェントドラゴンどころではなくなった。

 そして柱が最も近付いたとき、エンシェントドラゴンは巻き付いていた尻尾を締め上げて柱を粉砕、粉砕された柱の下部が頭上に降ってきた。

 柱が斜めに切裂かれた。

 僕たちの頭上ギリギリで分離して落ちていった。

 あいつッ! 狙って落としたな!

 だが次の瞬間、エンシェントドラゴンは空に叫んだ!

 ヴァレンティーナ様の『無双撃』は柱だけでなく、エンシェントドラゴンの真皮にまで達していたのだ。

 血飛沫が空から降ってきた。

「逃がすでないぞ!」

 エテルノ様が僕に叫んだ!

 僕はやるべきことを思い出して甲板を蹴った。

「逃がさないッ!」

 エンシェントドラゴンを本能的に避けて、遠巻きにしていたドラゴンタイプが、一斉に僕目掛けて襲い掛かってきた。

 目の前のエンシェントドラゴンは旗艦で味を占めたのか、自由落下に任せて、僕と船を押し潰しに掛かった。

 羽を貰うぞ!

『無刃剣』を叩き込もうとしたとき、ドラゴンタイプが横槍を入れてきた!

「くそ!」

 僕はしゃがみ込んで体重を後ろに掛け、咄嗟にバク転を決めながら加速、高度を一気に下げた。

 すれ違ったドラゴンはエンシェントドラゴンの落下ポイントに入ったために爪で引き裂かれ、衝撃に巻き込まれて錐揉みしながら山岳に落ちていった。

 エンシェントドラゴンは一回転して身を起こした僕の頭上でブレスを吐くべく喉袋を膨らませていた。



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