最終話 今日も世界は平穏無事
ヘブンズバレーに築き上げられた、ドーム上の総合体育館・マキシマスタジアム。
そこにフェリクス村の村人を始め、聖霊、真竜他、魔王につれられた一部の魔族。それにヘブンズバレーに住み着いた、センゴクに恭順の意を示す超絶危険種の魔物(動物)たち。
それらが、スタジアムの観客席を埋め尽くしていた。
これから行われるのは、単なる親子の、野球とすら呼べないお遊戯だ。
だが、それに魔法を使用しているとなれば?
見たくなるだろう。リィーンベルの住人なら。魔法を知るものならば。
ただの遊戯に広大なドームを使うのは、魔法をまともに使って、外界に影響を与えないためだ。
総合体育館として機能するマキシマスタジアムは、通常の振興用途とは別に、センゴクたちの魔法使用の場でもあったのだ。
むしろ、振興用途の方がおまけであった。
「イズモー、投げるぞー」
センゴクが硬球を投げた。
別段、魔法を使っていないただの投球を、イズモは危なげに捕球した。
「おっとと、いくよーお父さん」
なっていないフォームのよろよろの投球。
だが、そのボールに込められたエネルギーは、尋常ではなかった。
「ふっ」
軽快に息を弾ませながら、センゴクはイズモが放ったボールをキャッチする。
「おおおおおおおおおおっ!!」
それだけで歓客達が沸いた。
何を大げさなと。知らない誰かが見たら笑うだろう。
だが、イズモの投げたボールが、ヘブンズバレーを軽々と滅ぼすことの出来るエネルギーを秘めていたとしたら?
それを難なくキャッチし、エネルギーを相殺してのけたセンゴクの技量と魔力は、恐るべきものだということに気付くだろう。思わず歓声を上げてしまうほどに。
「はっはっは、うまいもんだなイズモ!」
センゴクは笑顔を絶やさない。
息子の成長が嬉しいだけのバカ親としての顔だ。
……もう聡明な読者の方々ならお気付きだろう。
センゴクの息子、イズモは魔法の制御がうまくない。
無知万能と称されたセンゴクの魔法。それを受け継いだ息子は、その制御が出来ないのだ。
しかも、母の電神としての特性を受け継いでいるイズモは、センゴクよりも遥かに精密にコードを捉えることが出来た。
故に将来はセンゴクを越える魔法使いになるだろう。
だが、イズモは幼い。幼く、無邪気のまま、魔法に明るい。そのことをセンゴクは危惧した。
流石のセンゴクも危惧した。
イズモが危うい存在だなと、当たり前の感想を持ったのだ。
センゴクは欲が薄かった。加えて、アレでも魔法の使いどころというものをわきまえている。
技術的にも精神的にも、魔法をしっかりと従えているのだ。
対してイズモは、まだ成熟しきっていない。まだ一定の価値観が出来上がっていない。
だから、魔法という力の万能性、危険性、そういうものをわからせた上で、使いこなすことを覚えないといけない。
今回の野球は、そのための教育の一つだ。
魔法を使っても大丈夫な施設とは、つまるところ、イズモのためだけに存在するものである。
「よーし、じゃあウォーミングアップはこれくらいにして、そろそろプレイボールだ」
「うん、わかった。 それじゃあ、じゃーん、けーん」
ポン。
おもむろに二人は異世界「地球」のじゃんけんをした。
これで守備役か、攻撃役かを決めるのだ。
「勝ったー。じゃあボク、バッターやりたい! 今度こそ、お父さんからヒットを打つんだ!」
「ようし、わかった。だが、お父さんもまだまだ負けないぞ~。アイリス、やるぞ」
(了解です、センゴク。コード・シンクロ。マジックサーキット、リリース)
念話でセンゴクの言葉を受けた妻のアイリスが、観客席を防護フィールドで覆った。
次元そのものを隔絶した絶対保護領域を展開したのである。見た目には透明なままだが。
これで超新星爆発が起きようが、宇宙創生が起きようが、観客達には一切影響は出ないし、またそれらの影響の一切を封じることが出来る。
センゴクから出力された魔力を、アイリスが操作し、制御するからこそ出来る芸当である。
夫婦の共同作業であるからして、この手の芸当は朝飯前である。
そう!
夫婦の共同作業だから!!
出来て当然なのだ!!!!
「コード・アクセス。身分身の術」
名称は適当である。
確率変動を応用した分身で、センゴクは9人に分かれた。
これで準備はおーけーだ。
「行くぞ~!」
ふんっ。
「とりゃ」
センゴクのスライダーに、イズモが振るったバットがかすった。
――それだけで、星が滅びそうになった。
もちろん、それをよしとするセンゴクではないから、すぐに鎮火させたけれども。
「くっそ~~、もう一回! もう一回、もう一回!!」
「ふっふっふ、そのとおりだ、イズモ。もっとテンション上げていけ!」
ふんっ。
「そりゃ!」
次元を切り裂くイズモの一振り。
「ふっふっふ、もう後が無いなあ、イズモ?」
だがむなしくバットは空を切った。
バットの軌道から、ボールが避けたのである。どこの3号ボールだ。
「今度は打つ。打つもん!!」
涙目になってイズモは構えた。
この幼児、負けず嫌いである。
「ふっふっふ、これで最後だ、イズモ!」
――コード・アルティメイタムマキシマム。
魔法の全力行使。
宇宙すら創造する神の領域の魔法。
それを幼い子供にぶつけるセンゴクは、間違いなく。
「お、大人げねえ……」
会場の観客、満場一致である。
放たれる白銀のボール。
速さは並ながら、込められた力はビッグバン級。
「はあああああああああっ!!」
イズモが気合を込めて、バッドを振る――
「コード・キャスト」
イズモがとうとう、本格的な魔法を使った。
時が、静止した。
どれだけ凄い弾だろうと、時間が止まってしまえば、ただの棒球。
「でりゃあああああああああ」
ジャストミート。その瞬間。時が再び動き出す。
「……へ?」
イズモのバットがへし折れる。
ボールは空高く、しかし、ドームの天井には届くことは無く。
「はい、アウトー」
凡フライとなった神の奇跡を、センゴクはキャッチした。
センゴクの完封勝利である。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
イズモは膝から崩れ、肩で息をしていた。
あのセンゴクの全力が込められた魔力を肌で感じた。
それが一気にイズモの体力を奪ったのだ。
分身を解いたセンゴクは、しゃがんで、イズモの顔を覗き込んだ。
「大丈夫か、イズモ」
「へ、へへ……また勝てなかった」
「それでも、あんなに飛ばすなんて凄かったぞ」
「まあ、ね」
この勝負の、お遊戯の裏で繰り広げられた、超魔力の応酬の決着。
それに観客達は沸いた。が、――
「おい、お前達、こんなとこで油売ってないで、さっさと仕事戻れー?」
「はーい」
ぞろぞろと、スタジアムを後にする観客達。
村長に言われれば、従うしかないわけで。
こうして、世界を揺るがす頂上決戦は、なにごともなく終了して。
「じゃあ、休憩したら、次は母さんとお勉強だぞ」
「はーい」
世はこともなく、廻っている。
世界が何度滅んだかわからないほどのエネルギーが放出されていたとしても、魔法使いの第2の人生は、今日も平穏そのものだった。
第2部 Re:Start <完>
もうちょっとだけ続くんじゃ
センゴク「え」




